ありのままの自分を話せ
「――と、それが…クフゾの過去さ」
マルメードは息を吐いて暗い表情で言う。
隣のクフゾは他人事のようにうんうんと頷く。
「そうか…それが今のコイツになったのだな」
しかし俺は一つ疑問に思う。
「ん…なぜマルはクフゾの母親や父親のしてたことまで知ってるんだ…?それにクフゾはこの話を知っているかのような反応だったが、お前はそれで満足しているのか…?」
すると横に居たクフゾがマルメードを見て俺に言う。
「ん?だって僕がマルメードに教えたからだよ。なんせ僕は全知全能だからね、あの日爆発が起きた森に聞けば全部分かることさ…」
「お前ってのは本当にやばいやつだな…」
「――それと、君の満足しているかどうかという質問だが…」
クフゾは俺に顔を向けて興味ありげな目で俺を見つめる。
「そういう君は…これから自分のすることに満足することも、過去に満足することも出来ているのかい?僕は少なくとも昔にも今にも満足はしてないけどね」
「ん…」
「ほぼ全知全能になったからと言って、それで毎日が楽しかっただなんてことは無かったよ。莫大な知識はつまらない人生を与えるだけだったと気付かされたよ…唯一、未来が見えないことだけが僕の楽しみかな…」
クフゾは熟考して悟ったように語る。
「さて…じゃあもう一度僕から問おうか、君は今も昔も、そしてこれから起こるであろう未来に、満足する結果はあったかい?満足する未来が視えたかい?」
「俺の目的は、裏切られない世界を創るため、世界を支配し、服従させ…世界を俺の意のままにすること、この世界を俺の理想郷にする…それが俺の目的だ…そう考えたことに後悔なんてなかったし、今俺がやっていることが間違ってることだなんて思ったこともない…これから俺がどうなろうとその結果は受け止める…だが満足するかどうかは俺次第だ」
クフゾはなにか考えて俺を見つめる。
「つまり、満足する結果なんて関係なく、君は事実を受け止めるのかい?」
「あぁ、そうだ」
「それじゃあ、時間遡行魔法なんてまさか使わないよね?」
「え…」
「僕はあの魔法が嫌いだ。時間遡行魔法は遡りすぎると魔力の粒子になって消えてしまうだなんて…なんて都合の悪い魔法なんだ…満足出来ないなぁ…」
「ん……」
何も言えない。確かに時間遡行魔法には限度が存在する。それは遡れば遡るほどに体が魔力に飲まれること…。
俺はクフゾの前で下を向いて黙ることしか出来ない。
「図星…と言った顔だね。まぁ僕は時間遡行が嫌いってだけでそれを使うこと自体を悪いと思うことはないさ」
「さっきから俺をおちょくっているのか…?」
「そんなつもりはないさ、僕は君の本心を吐かせたいだけなんだからね」
クフゾは八重歯をキラッと光らせる。
「二人とも、こんな所で話し合いのもなんだ…近くの休憩施設で休もうじゃないか」
マルメードがそう言い東の方向を指差す。
そこには元の世界で言うところのカフェテリアのような建物が建っていた。
「ん…いいだろう…」
◇
――店前。
俺はクフゾとマルメードと共に店内に入れば中は他の客も何人か居る。中は木造建築で落ち着いた雰囲気だ。
「それで…クフゾ、俺に本心を吐かせたいってのはどういうことなんだ」
「そんなに警戒しなくても大丈夫さ。とは言え、会って間もない僕にそんなこと言われたってそんな簡単には信用してくれないだろうけどね」
「なにを考えてるか分からん奴め…」
クフゾはその俺の言葉に八重歯を見せて笑う。
「ふっふっふ、そう言われると少し褒められてる気がして照れるね」
「茶化すんじゃねぇよ…それで?なんで俺が本心を言ってないと思ったんだ」
「確かに、君が支配をすることによってこの世の全てを服従させる…と言うところに関しては嘘じゃないなと感じたね…ただ――」
クフゾは笑ったかと思えば今度は俺に怒りをぶつけるように睨む。
「服従させ、世界を自分の意のままにしたいというのは、少し君の本心とは違うように感じ取れる」
「は…?」
俺からは乾いたような笑いが漏れる。
「君は…自分の意のまま…じゃなく、他人から評価され、認められる自分を創るために世界を服従させたいんじゃないのかな?」
「……そう…だとして…だ…それがお前に関係あることなのか?」
「二人ともー!飲み物持ってきたぞー!」
マルメードはニコニコと笑いながら紅茶の入ったカップを三人分持ってくる。
マルメードはその二つのカップを俺とクフゾの前に置く。
「空気を読めよマルメード…」
「すっすまんな…店の中に入ってなにも頼まないってのは少しあれだろ?」
「あはは…それで、マルス。僕は君の手下になる」
「…?随分と急だな…さっきまで入りたくなさそうな感じな気がしたんだが…」
「そんなことは無いさ…新しい世界を見るためなら僕はどこへだって行くさ…しかしだ、その上で意味のない目的に手下が着いてくるとでも思うかい?」
「っ…そ、それは…」
「そう、君の目的は曖昧でハッキリしていない…今は確かに着いてくる人達が居るかも知れない…でも、淡々とこなしていくことにその人達は納得するかな…」
クフゾはカップの紅茶を飲んで一息ついてもう一度俺を見る。
「さて、もう一度君の意見を聞こう…君は世界を服従させるため何をし、何を得るんだい?」
クフゾの言葉にマルメードも息を呑む。仮にもエルフの国の女王が居る前でなんてことを聞くのやら…
「俺は…世界を服従させるため…全ての国を支配する…!その為に俺はお前らの信用と強さを…俺の物にし、俺の思うがままにする…!そして、俺の物となったお前らは俺の築いた世界で俺を崇め…俺を裏切らない理想の"仲間"を作る!!!そう、俺の欲しいもんは仲間なんだ!!」
俺は精一杯叫んだ。店の中だと言うのにだ…しかし、クフゾが気を利かせ防音の魔力膜を張っていてくれていたようで辺りの客や店員には聞こえていない様子だった。
そして俺の言葉を聞いたクフゾは少ししてぷっと笑う。
「あはは…ようやっと自分の…ありのままの自分を話せたようだね…君の本気の覚悟…伝わったよ」
その言葉でクフゾの表情も少し鋭くなる。
「そうか…俺はどうやら迷っていたようだな…」
「十五年も生きててようやっと答えに至ったのか…全く馬鹿だね…」
「うるせぇ…でも…全てを俺の物として扱うことには変わりない…だから要らないものは問答無用で切り捨て…全てを駒のように扱う…俺は正義の味方じゃないからな…」
「そこもなんとも君らしいな…英雄になるという手段は取らないのか…」
「昔の俺のせいでな…まぁ俺にそんな手段は向いてないんだ」
「そうかい…」
俺とクフゾがゆっくりと話している横でマルメードは汗をかいてヤバいと顔にそのまま書いてあるかのような表情をしている。
『あれ…もしかして連れてきたの間違いだったか…?』
そう心の中でマルメードは静かに後悔するのだった。




