任された約束と果たせなかった約束
――クフゾの家。
重苦しい空気が部屋全体を包む。
未だにクフゾからは黄金の魔力が立ち昇っている。
「ガンスール…こんな時に何をしとるんだ…」
マルメードはクフゾの魔力をずっと制御している。そろそろ限界と言った雰囲気だ。
「きっと…なんとかしてくれるわよ…あの人だもの……」
「すまない…リノン…妾はそろそろ限界じゃ…変わってもらっていいか…?国の名手の医者を連れてくる…!」
マルメードは手を離し、リノンと場所を交代する。
「じゃあ…また後で!」
リノンはマルメードに目配せして見送る。
「あぁ、もちろんだ」
マルメードはエルフの国へと降りる。
「クフゾ…お父さんが絶対に助けに来てくれるからね…!」
リノンは涙を流しながらもクフゾに笑いかける。
その時――、
――ゴァァァッ!
「っ!皆伏せて――」
赤黒い熱線が一瞬で村全体を吹き飛ばす。
リノンは辛うじて防御魔法で自信とクフゾを防いだものの、周りは、
「あぁ…ああっ!!」
血すらも残らない、炭すらも残らない。全てが吹き飛んでいた。
「い…一体…なんで…?」
リノンが辺りを見渡すと、ある一人の男が視線の先に止まった。その男は白い髪をしており、赤黒い魔力が立ち込めている。
「あなたなの…!こんなことをしたのは…!一体なにが目的…で……」
リノンは近くでその顔を見て、更に涙を流し、この世の終わりを悟ったかのような表情でその男を見据える。
「貴方…ガンスール!!」
その男は確かにガンスールだった。光魔法使いの面影は一切なく、神と魔族との血がぐちゃぐちゃに混ざり合っている。そしてエメラルド色の瞳も、漆黒と赤に染まっている。
「なん…で…?どうして!?何をしているの!?」
リノンは震える声で叫ぶ。
「て…れ…」
ガンスールは蚊の鳴くような声で喋る。
「逃げて…くれ…!!」
「えっ…」
次の瞬間、
――ドォォォォンッ!!
魔力の大量発散。それにより大爆発が起きる。
「ん…なにが…なんでよ…全然分からないわよ!!」
リノンは防御魔法を再び使い防ぐ。
「ガンスール!」
電気魔法を使い、リノンはガンスールに電撃を浴びせる。確かに直撃はした。しかし、それは全く効いていない。
「え…どうして…」
「うぁぁ…壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊すぅううあるぅるるるうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
――ドォォォンッ!!
とてつもない爆発音と共にガンスールはリノンに向かって飛ぶ。
「サンダーバリア!」
リノンは触れた者を痺れさせる電気のバリアを設置する。しかし――、
――パリンッ!
それはいとも簡単に破壊され、ガンスールはリノンめがけて突っ込む。
「ガンスール!!戻ってきてよ!!元のあなたに…戻ってよぉ!!」
リノンはクフゾを抱き抱えて泣き叫ぶ。
「うぅ…あ…ぐ…」
ガンスールは頭を抱えてその場にうつ伏せる。
「アマテラスの…血…これを…クフゾ……に…!!」
意識の戻ったガンスールはアマテラスの血が入った瓶をリノンに渡す。
「うぐっ…あなた…なんで…」
「説明は…出来ないっ…!でも…これがきっと…最後…だ…」
ガンスールはゆっくりと喋る。
「リノン…いつも…迷惑をかけてすまなかった…心配させて…すまなかった…」
「ううん…そんなことないの…私はあなたの頑張りをいつも見てて…!それで…!」
リノンは涙を目に溜めて言う。
「リノン…お前の頑張ってる姿が好きだった…可愛い姿のお前が好きだった…怒ってるお前が好きだった…俺に構ってくれるお前が…好きだった…そう…お前の全部が…俺は好きだったんだよ…」
リノンはガンスールの手を取る。
「待って…嫌よ…そんな…!なんで…」
ガンスールもまた、リノンの手を握り返す。
「リノン。お前のちょっと濃い味の料理…また…食べたかったな…」
「いえ――、また食べさせてあげますよ…」
「え…」
「本当に申し訳ないけど…マルにこの子を任せるわ…」
「でも…それじゃ…クフゾ…は…!」
「えぇ、そうね…きっと憎まれるでしょうね…でも、私一人が残ってたとしてもきっとあの子笑えないわ…」
「なぜ…?」
「あの子…最近言ってたのよ…『お父さんとお母さんはどっちも居ないと私楽しくない』って…」
「でも…リノン…!」
「私は…どこまでも…死んでも…あなたと一緒よ…ガンスール……」
ガンスールは一粒の涙を落とす。
「…ありがとう」
――ドォォォンッ!!
今までに無い程の大爆発が起き、その爆発はエルフの国までに届く。
マルメードはその爆発を間近で見ていた。
「はっ…リノン…クフゾ…?ガンスール…!!」
マルメードは炎に包まれたエルフの国を走って駆け抜ける。
「あ…れは…」
マルメードが空を見上げると、上空から電気の魔力で包まれたクフゾがマルメードの手の中に降ってきた。
「なんで…まさか…!はっ…」
マルメードは電気の魔力の中にアマテラスの血の入った瓶を見る。
「この血で…クフゾの神病を…相殺しろって言うの…?」
マルメードは瓶を開け、それをクフゾに飲ませたその時、
「ぐるるるぅ…」
「え…?」
前には焼死体を片手に持ったとても自分の知っているガンスールとは思えない人物がマルメードの目の前に現れた。
「ガンスール…ガンスール…ガンスールぅぅぅ!!なにをしてるんだぁぁ!」
風魔法の斬撃をガンスールに浴びせる。
しかし、それをものともせずにガンスールは受けてマルメードの前へと進んで行く。
「うぐっ…なんで…なんで…」
「ぐぅああああああ!!」
地球の一部を刈り取る程の膨大な魔力をガンスールは溜めてそれをマルメードに向けて放つ。
「ああああああああ嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――ガキィン!!
剣が魔力を切り裂く音。
――ザシュッ!!
「ぐぅおおおおおお!!」
そしてガンスールの叫び声が聞こえる。
「え…?なにが…?」
マルメードが顔を上げると、
「只事じゃない魔力反応を感じて来ました…マルメードさん…下がってください」
金髪の髪を持つ男、勇者エクスが聖剣エクスカリバーを持ち、ガンスールの胸に傷をつける。
「まっ…待ってくれ…!奴は…!妾の…!妾の親友なんだ…!!頼む…頼むよぉ!!勇者ァ!!」
マルメードは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んでエクスに語りかける。
「………すみません…マルメード様…私の…慈愛をどうかお許しください…どんな罰も受けましょう…」
エクスカリバーに虹色の魔力が宿る。
「オール・ストライク!!」
――ガシャァァァァン!!
エクスカリバーは世界そのものを断絶する威力で空間ごとガンスールを斬る。
「うっぐぅ…お…」
ガンスールは倒れ、雇っていた赤黒い魔力も消える。
「うっ…うぅ…大馬鹿者め…大馬鹿者めぇぇぇぇえああああああああ!!」
さっきまで曇りだった空は晴れ、崩壊したエルフの国を照らす。
「クフゾ…お前が…お前さえ居なければあの二人はあんなことにならなかったのか…?」
マルメードはなんの気力も残ってない目で眠っているクフゾを見る。
「いやいや、必要な犠牲だったさ、マルメード…」
クフゾは目を開け、立ち上がる。
「んっ…マルメード様…お気をつけて…」
エクスは剣を構え、クフゾに向ける。
「僕はクフゾだよ…全知全能の一部を受け継いだ…ね…!!」
「お前…が…クフゾ…?ふざけたことを言うなぁ!!」
マルメードは怒鳴る。
「そんなに僕のことが嫌いなら…牢獄にでもなんでも入ってあげようか…?」
「は…?」
「エクスさんもさ、もうマルメードの大切な人を傷付けたくないでしょ?」
「ん…」
エクスは剣を静かに下げる。
「ハハハ、素直だねぇ…あの眠っている間に…色々悟ってしまったのさ…まぁ頼りにしたい時が来たら言いなよ…マルメード…お前は一生果たせなかった約束と任された約束を背負って生きていくんだよ…ふふふふふ…ははははははは――!!」




