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クフゾ・アルカミット

 ――十年前。

朝日が入り込む人里から離れた森の中。

金髪の少女が楽しそうに庭で駆け回る。

少女はなにやら虫を捕まえようとしているようだ。


「あははー!待って待ってー!」


白色の蝶が少女を翻弄するようにふわふわと少女の頭上を飛んでいく。


「クフゾ、ご飯出来たわよ!」


少女の名前が呼ばれる。クフゾは「は〜い」と言い、家の中へ戻る。


「いっただっきまーす!」


クフゾは並べられた料理に手を合わせもぐもぐと食べ進める。


「どう?クフゾ。今日はカメアノサスの食材を使ったのよ」


「とっても美味しいよ、お母さん!」


クフゾの母親は銀髪に長い耳を持つエルフ。蒼い目をしていて可憐な生い立ちだ。


「それはよかったわ、今日の夜ご飯はなにがいいかしらね?」


「えっとね!今日はシチューがいいかな!キノコ多めね!」


クフゾは口の周りに米粒を付けて笑って話す。


「全くお茶目ね…」


クフゾの母親が笑っている所に、


――コンコン。


扉を叩く音が聞こえる。

クフゾと母親は同時に扉の方を見る。


「来たぞ。リノン」


緑髪の髪を揺らしている巨乳のエルフ。マルメードがクフゾの母親の名を口にして家に入る。


「あぁ、マル。どうしたの?」


「ん、今日は一緒にお茶でもどうかと思ってだな、お主とのお茶は妾の楽しみだ!ワッハッハ!」


豪快な笑い方でマルメードはリノンの肩を持つ。


「あ!マルメードのおばちゃん!」


「おばっ…んん…クフゾちゃん?どうしたのかな?」


怒りをギリギリで堪えてマルメードはクフゾに笑顔で接する。


「最近ね、虫さんの声が聞こえるようになってきたの!マルメードさんの肩に居る蜘蛛さんが「今日は星が綺麗だろう」って言ってるよ!」


「え?」


マルメードが肩を見ると確かにそこには蜘蛛が居た。


「ワピャーー!?」


マルメードは飛び跳ねて蜘蛛を肩から落とす。

それを見てクフゾは「ニヒヒ」と笑う。


「はぁ…はぁ…それにしても…虫の声が聞こえるとは本当か?」


「うん!それになんか勉強も得意になってきた気がするの!前は分からなかった所もすぐに出来るようになった!」


マルメードは少し神妙な顔をする。

そしてリノンはそれを見て心配そうな顔をする。


「そうか…なぁ、クフゾちゃん。この問題って解けたり出来るかね?」


マルメードは紙にすっすっと文字を書く。

その文字の内容は魔法学園の中でも頭脳の高い者ではないと解けないとされている問題だ。


「んー、魔力の内部構造の仕組みを十分割して答えよ…?」


前のクフゾなら分からないと言っていたが――、


「簡単じゃん!」


クフゾはスラスラと問題を解く。


「はい!」


マルメードはクフゾの書いた答えを見て静かに頷く。


「うん…正解だ」


「やたー!」


クフゾは飛び跳ねて喜ぶ。


「なぁ、リノン。お前の銀髪と旦那の黒髪から、金髪の娘が産まれるとは不思議では無かったか?」


リノンは表情を曇らせて下を向く。


「分かってますよ…全知全能の神様の分身の子と…そう言いたいんでしょう?」


マルメードは首を縦に振る。


「うむ…にわかには信じ難いが…そうなんじゃないかと妾は睨んでおるがな…」


全知全能の子は昔から金髪の子として産まれてくる言い伝えがあった。あくまで言い伝えだし、金髪なんてそこら中に居る。しかし、不思議なのはクフゾは色んなものの声を聞き取れることだった。


「ねぇ、マル…もしも…もしもこの子に何かあればその時はよろしくお願い…もしもの状況があった時、私はもう…あの子の側には居られないと思うから…」


リノンは部屋で人形遊びをして笑って遊んでいるクフゾを遠い目で見てマルメードに伝える。


「おいおい、子供の前でそんな顔をするでないぞ、それに妾の親友にそんな顔はさせん。王女の前でそんな顔…不敬であるぞ…」


「えぇ、それもそうね…」


リノンは再び笑顔になり、マルメードを少し見つめる。


「本当…マルったら…」


「ふふん、笑顔が一番だからなぁ!」


「――おや、誰かと思えばマルメードさん…妻が大変お世話になっております」


リノンとマルメードが後ろを振り向けば綺麗な黒髪にエメラルドのような緑の目をした男性が立っていた。


「おぉ、「ガンスール」…今日は随分と早い帰宅なのだな?」


「今日は特にすることがなかったので早期で仕事が終わったんですよ」


マルメードは目を細め、ガンスールの目元をじっと見る。


「な、なんでしょう…?」


「リノン。こやつ、ま〜た睡眠不足なんじゃないのか?」


「えぇ?貴方ったら困った人ねぇ…研究も大事だけど、たまには休んで欲しいわ」


リノンはほっぺたを少し膨らませ、ガンスールを叱る。


「あぁ…すまないよ。最近入った「レフィア」っていう新人と一緒に研究してるんだ。教えることがいっぱいでどうしてもね…」


「人の心配ばっかりで…ていうかレフィアって誰よ…浮気?」


ガンスールは面食らったように慌てる。


「いやだから新人だって…それにまだ彼女は十二の幼子さ…」


「ならいいのだけど…マル。また今度話しましょう」


「おう、そうだな。妾は仕事に戻らんと行けんし…また来るとするよ」


「えぇ、また今度」


マルメードは国の任されている仕事へ足早に戻って行く。


「あれっお父さーん!もう帰ってるってことは…もしかして…クビ…?」


クフゾは絶望に染まった顔でガンスールを見つめる。


「違うよ!今日は早めに仕事が終わっただけだよ」


「そーなんだね!よかったよ〜」


「ハハハ…じゃあ今日はなにかしようか」


「んーっとね!蝶々捕まえにいこー!」


クフゾは飛び跳ねて外へ出る。


「ってことで…家の姫さんが言ってるから…少し散歩してくるよ」


ガンスールは少し困ったように笑ってクフゾの後ろへ着いていく。


「うん、気を付けてね」


リノンとガンスールに囲まれ、そして村で遊んで…クフゾの日常は明るく過ぎて行くはずだった――。

――二年後。


「――クフゾ!クフゾぉ!」


ガンスールはベッドの上で寝ているクフゾの肩を揺らす。いや、寝ているという表現は正しくない。クフゾは高熱を出して意識を失っているのだ。しかも、クフゾからは金色の魔力がずっと立ち込めている。魔力暴走に似ている。


「マルメードさん…!貴方の回復魔法でどうにかならないのですか!?」


「すまない…妾の力でも…魔力を安定して制御させてあげるのが手一杯だ…これ以上は…」


「ねぇ…ガンスール…クフゾは…助かるの…?」


リノンはガンスールの肩に捕まり、涙を流す。


「あぁ…きっと大丈夫さ……」


ガンスールは少し考えてリノンを肩から優しく引き剥がす。


「リノン。俺は今からクフゾを絶対治せるようにしてくる。だからリノンとマルメードさんは俺が戻ってくるまで村の人達と一緒にクフゾの面倒を見てやってください…!」


ガンスールは走って森の中を走っていく。


「んっんん…!この先に…!」


ガンスールは森の中のとある石の宮殿に入って行く。

見た目は苔だらけで使われていない雰囲気だ。


「ん…アマテラス様…!どうか…娘に…幸福を…!」


ガンスールは宮殿の奥底にあるアマテラスの血液を睨む。


「――おいおいおい…まさかそんな貴重な物を使う気じゃ…無いよな?」


「んっ…!」


ガンスールが振り向くと、金髪の男と赤髪の男が白いマントを羽織って宮殿の入り口に立っている。


「シメルド…アウル…!今はそんなことを言っている場合ではないんです!俺の…娘が…!」


「なぁ、アウル。俺達ディアマテ教の目的はなんだっけかぁ?」


シメルドはガンスールの持つアマテラスの血液を睨む。


「言いたいことは分かるぞ、シメルド…俺達はアマテラスの血をそんな勝手に使われるわけには行かないって話だろ?ガンスール。貴様の娘はただの魔力暴走とかなんかじゃない…神病(しんびょう)だろう?神の力を扱いきれなかった者の哀れな病気――」


「うぅ!!」


ガンスールは光の光弾をアウルとシメルドに向かって放つ。


――ドォ!!


しかし、それはあまりにも簡単に防がれてしまった。


「なんでてめぇがレフィアに次の管理者を任せたのかは知らない。俺達が信用出来なかったか?」


「あぁ、そうだ!俺は…レフィアにここを託す…!そして、娘を救う!!神の力で相殺すればクフゾは助かるんだ!!」


ガンスールは手にさっきよりも膨大な量の魔力を込める。


「ライトニング・エクスカリバー!!」


勇者エクスの剣…エクスカリバーを模した光の剣。

宮殿ごとアウルとシメルドを切り裂く。


――ゴォォォォォッ!!


けたたましい音と共に森を破壊する。

辺り一面は何も残っていない。


「クフゾ…!」


アマテラスの血を片手にガンスールは走り出す。


「――血祭(ブラッティ・バランス)


「ゴハッ!?」


ガンスールの腕と足から血の棘が内側から生えてくる。その棘はガンスールの両手足を引き裂く。


「うぐぅあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ガンスールは悶絶し、その場に倒れる。その後ろからシメルドがガンスールの首を絞めて地面に固定する。


「おい…こらてめぇ…ざけた真似してくれたなぁ…おい…アウル!!」


「了解ッ!!」


アウルは魔族の血とアマテラスの血一滴分が含まれた注射器をガンスールの首に打ち込む。


「ああああああああああああ!!」


ガンスールからは赤黒い魔力、そして太陽の光のような橙色の熱い光が放たれる。


「やりすぎたんじゃないのぉ?シメルド…」


アウルは全くそんなこと思ってもなさそうに笑って言う。


「大丈夫さ…あぁ、楽しみだな…アイツらの絶望する顔――!!」

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