プロローグ.エルフの国
――次の日。
俺は汽車でエルフの国へ行くため、カメアノサスへと汽車で向かっている。どうにも、エイメノカサスからエルフの国への汽車は無いらしい。
「あーそういえば…」
目の前の緑髪巨乳エルフが言葉を漏らす。
「妾が誰かは分かるかね?」
「ん…?ん…?んー…えーと…」
新聞とかで見たような見てないような…最近はそういうの見てないから分からないな…けど、この世界に転生して、言語を学ぶ時に新聞を見ていたら見たことがあったような?
「いや…誰だ?」
「裏の世界の者なのに、ちと情報網が無さすぎるのぉ」
巨乳エルフはごほんと咳払いする。
「妾は、エルフの国の皇帝…マルメード・エルフ・マナノリスカだ!」
ドドンと文字が浮かんできそうなくらい自信満々に言い放つ。
「…!うむ…思い出した…そういえばそうだったな」
――『マルメード・エルフ・マナノリスカ』。
それが彼女の名前だ。エルフの国の上級貴族にしか与えれないエルフの付く名前、そういえば俺が転生してきた時には既に皇帝だったが、彼女は今何歳なのだろうか…いや、エルフだしまぁ若い方なんだろう、きっと。
――ガシャ。
汽車の扉の開く音がした。
カメアノサスには既に着いたようだ。
「着いたぞ…ひとまずその辺で話そう」
俺はマルメードを連れてすぐ近くの駅のベンチに座る。
「マルメード…」
「もっと気軽にマルちゃんでいいぞ♪」
「……マル」
「うむ、どうした?」
コイツめんどくせーわ…
「なぜ、今回俺をエルフの国へと派遣する?そっちの国の護衛じゃ不満があったのか」
マルメードは目線を下げる。
少ししどろもどろになる。
「それなんだが…どうにも最近、オークション会場の周りをうろちょろする奴が増えてきてな、警備員も気付いているはずなのに、わざとらしく無視をするようになっている。というわけで信用出来て実力も名もあるお主に任せることにしたのだ」
もしかしたら…ディアマテの関係者か…
「なるほど…裏切りの可能性があるかもしれないから、俺だけなんだな?」
「あぁ、そう思ってくれていていい。それと…お主に渡す新しい戦力についてなのだが…」
そうだ。昨日はなにか言葉を濁されてそのまま終わったんだ。一体なにがあると言うのだろうか…
「エルフの国に着いたらまずは最初に彼女に会わせるとしようか…彼女は少々…いや、だいぶ気性が荒いから、気を付けてほしい」
話しながらマルメードと俺はカメアノサス駅に来た汽車に乗る。
「なるほど…」
暴走する者…か。
まぁ昔からドラゴンの羽を毟って遊んでたし、そういうものの扱いは慣れてるっちゃ慣れてるけど。
「まだ時間があるな…そうだ、エルフの国の昔話でもしようか」
「別にいい…」
「いやいや、せっかくなんだし聞いておかんか!」
俺の意見など聞かずに勝手に喋り始める。
「――古代より、エルフの国は大精霊神『ヘンナルス・エルフ・カーササス』によって、森や――、海――、また天候までもを自在に操る…まさに事象を操る者とも言われており、人々は彼女を昔から称えていた。しかし、ヘンナルスはある日突然、エルフの国から姿を消す。人々は彼女を探し、ある一つの手紙を見つける。それは――、『私は実はエルフの神じゃなく、魔族の神である魔神の類なのだ、私は皆を喜ばせたく、嘘を隠し通していた。でもそれももう限界、私はエルフの国から離れます。どうかお元気で――』
その彼女からの伝言にエルフの国は彼女の正体が敵対種族である魔神だったのにも関わらず、涙を流した。自分達の為に一緒に居てくれていたヘンナルスに感謝していたのだ、叶わぬ幸せに…エルフの国の人々は彼女の意思を継いで国を繁栄させていった――。おしまいだ」
ふ〜ん…つまり、ヘンナルスは嘘を付いてでもエルフの国の人達と仲良くしたかったんだ…最後はモヤモヤするタイプの終わり方で少し嫌いだ。
「この世界の童話も多少は面白いな」
「この世界の?」
「いや、こっちの話だ」
「それにこれは童話じゃなく、本当の話だ。信じないのならいいぞ?」
「別に信じてない…」
「つまらんやつだなぁ…この話を聞いた者は大半の者が感動でおいおいと泣くのに…」
すると、汽車は急に動きを止める。
まだ目的地には着いていないはずだが、なぜだろう?
「どうなった?まだカメアノサスを出てから少ししか…」
「はぁ…」とマルメードはため息をつく。
「ここは平原だ、つまりなにが出るかは大体分かっておろう?」
「魔獣かドラゴンか?」
「だろうの…さて、片付けるか…お主はそこで待っておれ――」
――ガッシャアアア!
汽車は轟音を立て傾き、横に倒れる。
「きゃあっ!」
――ポイン。
柔らかいものが俺の顔面に埋まる。
「うあぁっ!?離れろ!?」
マルメードを勢いよく体から引き離す。
よく見ればマルメードは目がぐるぐると回っている。
「コ…コイツ…」
「――グルルゥ…」
「あっ?」
ふと、外を見ると全長五十メートルはある黒龍が紫の炎を纏わせながら汽車の窓から乗客席を覗き込んでいる。
「こんな目立つところで力を使いたくはないんだが…いかんせんこんなただの平原に黒龍とはな…」
黒龍はドラゴンの中でもかなり強い部類だ。カメアノサスの騎士達でも中々対処は難しい。
「火炎――」
――スパンッ。
グシャアッとドラゴンの血が汽車の窓に飛び散る。
ドラゴンは目をゆっくり閉じる。
「ん…?なにがあった?」
俺は外に少し出てみる。ドラゴンの近くを見渡すと白いローブに金色の装飾が付いているピンクと青色の髪をした男が豪華な杖を持ってドラゴンの前に立っている。
「貴様か?この黒龍を狩ったのは…」
「一応そうだね、それと…君は?」
今の俺はマルス・アンドラウドの姿となっているため、マルス・アンドラウドの名前を名乗ることにする。
「俺はマルス・アンドラウドだ。カメアノサスの勇者学園の者だ」
勇者学園の青と白の制服をジッと見て男は納得の顔をする。
「なるほど!勇者学園の方…私はカーンズ・シャ・エレクエスです。どうもよろしく」
ん…?カーンズ…?そうだ!コイツは…!
「カーンズ…!?あの…賢者を生み出してる有名な家系…エレクエス家の最高賢者!!」
カーンズは「ハハハ」と苦笑いする。
「そんな…私はそんな名を語れるほど大層な男ではないですよ。しかし、最難でしたね…乗客の安全を確認しましょう」
「えぇ…そうですね」
コイツは本格的にやばい奴に出会った。まさかエルフの国に行く前にこんな奴に出会えるとは…。
「カーンズ・シャ・エレクエス」…コイツは勇者エクスとの繋がりを持ち、尚且つ当時五歳にして賢者最強、そして神との契約数は計りしれず、最上級魔法しか使えないとかいう謎の謙遜をするくらい最強だ。まるで異世界転生系主人公みたいだな。
「全体回復魔法…シャーヒール…」
ほんとに当たり前のように全体回復魔法とかいう器用な魔法使ってるよ…。
カーンズの回復と同時に乗客達の怪我は瞬きをする内にどんどん治っていく。気付いた頃には全員意識が戻っている。
「やるな、カーンズ」
俺がそう言うとカーンズは少し不思議そうな顔をする。
「そんな感じで接せられるのは久しぶりだな…いい気分だ」
「じゃあ、是非これからは友好関係を持ってみませんか?」
「いいのかい?それじゃあこれからもよろしく頼むよ。マルス」
そう言うとカーンズは転移魔法でどこかへ消えた。
「ふん…得体の知れなさ…という面ではエクスをも上回るか…化け物め…」
「みろっ…あっ…マルス!なにがあったんだ!?」
マルメードが必死な顔をしてこっちを見る。
「少し、良いものを見ただけだ――」
カーンズ…アイツとはこれからも関わるような気がする…。




