戦場を飲み込む音
カリンは眉間にシワを寄せる。
「ステージ…ですって?」
「あぁ。アイツは曲を使う…それだけだと思っていたが、どうにも違うようだ」
「観客席から演奏者へ干渉することは出来ない…だが演奏者から観客席へ音を届けることはできる…つまり俺達が出来ることはコイツの音を聴くか…聴かないか…それしか出来ないわけだな」
「えっ…!では、この攻撃はどうすれば…一生攻撃が当てられないじゃないですか…」
カリンは飛んでくる音符を躱しながら歯を食いしばる。
「だが攻撃が出来ないのは向こうも同じ…その証拠に演奏者側に居るミリアと魔力体のアウルは攻撃を仕掛けてこない…コセヌミアはあくまで演奏をしているだけに過ぎないからな」
「その演奏が攻撃みたいになってるんですけど…!」
「これは盤面付与魔法か条件発動魔法なはずだ…!きっとなにかしらの弱点があってこの強さなはず…」
「頑張るね〜…ミロク君…隣のゴリラ君もよく動けるよ…」
「なにか色々と話しているようですが…無駄ですよ――」
コセヌミアは杖を振り続ける。
杖に何か秘密があるのか…はたまた魔法自体になにかあるのか…
「円舞曲三番!ワルツ!」
また音の流れが変わった。
今度はどんなものなのか…
「カリン…気を付けろよ。どんな効果があるか分からな――」
――ブゥオッ!
大剣の振り上げられる音が隣から聞こえた。
「…!?」
大剣がドォカァァァンと地面に突き刺さり、大きなヒビを入れる。
カリンが俺に向けて剣を振るったのだ。
「なっ…なにをしている!カリン!」
カリンは気を失いながらも俺に大剣を振るう。
ブゥオッと風を切る音が聞こえる。
「くそ…身体のコントロールが…」
きっとこのワルツとか言うやつのせいだろう。
音…音の…弱点…
「――これだ!!」
俺は魔力で耳栓を作り、耳の穴の中に入れる。
音が遮断されると同時に、身体のコントロールも戻ってきた。
「コセヌミア。お前は音を届けなければその攻撃は意味が無くなるな?」
コセヌミアの表情が歪む。
「む…気付かれましたか…」
「まっ、関係ないでしょ。私とアウル君で攻めるから…あなたはあのゴリラ君を操作してて」
「もちろんだ…」
ミリアは光の剣を持ち、俺に向かってくる。
魔力体のアウルも俺へと向かってくる。
そういえば鎮魂曲は終わったはずなのにアウルの魔力体が残っているのは何故だろうか…
――ガキィン!
俺の漆黒の魔力剣とミリアの光の魔力剣が衝突する。
その衝突で辺りの地面と壁にヒビが入る。
「そろそろ…本気を出してやらないと分からないか?」
俺はミリアに語りかける。
「なにが出来るって言うのかな?」
なんか言ってる。耳栓してるからよく聞こえないな。
それっぽいことでも言っておくか。
「虫のような動きだな…」
「???」
あれ、なんかなんとも言えない表情してるけど、失敗したかな…
「…!!」
アウルの魔力体が黄金の炎を出して俺に放つ。
「炎なんて風で吹き飛ばせる…こんな風にな」
剣をもう一つ生成し、もう片方の手で剣を振り、風を起こす。
その風はアウルの炎を吹き飛ばし、跡形もなく消し去る。
「俺の持つ最上位魔法の一つを見せてやる」
俺は魔力を解放する。
その圧で全員が吹き飛ぶ。
「なんて力…」
「でも…このゴリラ君を人質にしたら大技を放とうにも放てないでしょ?」
ミリアはカリンを掴み、自身の目の前に置く。
「俺からも一つ音を聞かせてやる」
剣を構え、魔力を剣に集める。
そして、ネオミシスカ全体を俺の魔力で覆い尽くす。
「な…なんて大技…ほんとにぶっ放すつもりなの…!?」
ミリアは慌ててアポーロを召喚する。
しかし――、その判断はもう遅い。
「世界は我の調和」
ネオミシスカ中で俺の魔力がバチバチと跳ね、ネオミシスカは跡形もなく、塵すら残らず消え去る…と同時に、ネオミシスカにある全てを元の状態へと調和させる。
本来あるはずの無いもの。そうではなかったもの。それらを全て基準へと戻す。それが世界は我の調和だ。
崩壊したネオミシスカは俺がネオミシスカに来た時と変わらないレベルで綺麗になる。
「あっう…」
ミリアはその場へ倒れる。
直に目が覚めるはずだ。
「なっ…なにをした…!?」
アウルの魔力体も消え、カリンや剣士達の怪我は全て無かったことになっている。
「なっ…俺はなにを…?」
「はぁ…こんな奴らに俺のこの魔法を使わせるなんて…」
俺は魔力で再び漆黒の剣を作り、それをコセヌミアへと向ける。
「なにを…したんだ…?ネオミシスカも…こんな…!」
「なに、軽く再構築しただけだ」
「そう…ですか…しかし…!それだけで私に勝てるとでも…?それに、再構築の影響で私の体力はむしろ回復しました。これであなたを気軽に殺れます!」
コセヌミアは杖を俺に向ける。
杖の先端に魔力の光が淡く光り、蓄積されていく。
「最終奥義…!幻想曲…オーロラ――!」
――ズバッ。
「あ…うぐ…」
コセヌミアの腹から血が噴き出す。
コセヌミアの杖は真っ二つに折れる。
「これが…支配者の力なのかぁ…!?」
「違う。お前は俺の実力を示すための土台になっただけだ。力など、支配の為の手段に過ぎない。お前は力に殺られたのではなく、俺という存在に最初から勝てないと定められていただけだ――」
――ドサッ。
振り向きはしない。コセヌミアの体の崩れる音を聞き届ける。それが俺なりの奴への戦いの礼というものだ。
そして俺は倒れているミリアの元へと向かう。
「ん…この姿のまま会ってもいいもの…なのか…?」
まぁどうせ後でミナノと合流するし…関係ないか。
「ん…?」
ミリアの目がゆっくりと見開かれる。
目は星空を思わせるようなキラキラとした可愛い目だ。
俺はただ寝ているミリアを膝立ちで見下げる。
「目が覚めたようだな。我が道を共に歩むが――」
「水破裂!」
「うぶぅげぇぇぇええ!?」
急に顔に水を勢いよくぶっ放された。痛い。
「って…白マントじゃない…?」
「お…俺はミロク・プリンス。世界の者全てを俺の支配下へと置き、俺の理想郷を作るために組織を作り活動をしている者だ…お前を助けたのは俺だぞ」
姉妹揃って人の顔に水をぶっ放すなんてどういう教育されてるんだまったく。
というわけでその礼で仲間になってくれてもいいんだが?
「ふ〜〜〜ん…?貴方がねぇ…?へぇ〜…」
絶対信用してなくて泣きそう。やっぱりミナノも連れてこないとダメだったかもしれない。
「ミナノの依頼でだ。突然失踪したミリアの行方を探すためにエイメノカサスからネオミシスカまで探しに来てたんだ」
「っ…!そんな…ミナノが…はっ…ミナノは大丈夫なの!?」
ミリアは俺の服にしがみついて揺らす。
大きい胸が当たる。
「おっ…おぉ…あっ…あ…大丈夫…じゃないけど…大丈夫だ…」
「どういうこと?」
「魔法具の影響で治りにくい傷が出来てしまってだな…一応命に別状は無いが、今は眠っている状態だ」
ミリアははぁ…と安堵の息をつく。
「よかった…でも…その怪我の影響って…」
「白マントだ。さっきの反応…お前は何か知っているな?」
ここで洗脳された自分がミナノを傷付けたなんて言ったらパニックになるはずだ。ここはまだ言わないでおこう。
「えぇ…色々喋らせて。ミロク・プリンス――」




