二人の最強
――ネオミシスカは静寂に満ちている。
ネオミシスカの夜は、戦いの爪痕をそのまま残している。 崩れた建物、焦げた地面、そして――人の気配が減った街。
その中を、俺は歩く。
「……」
サナとして、魔族としての姿で。
包帯の巻かれた体。 歩くたびに鈍い痛みが走る。
「……三日、か」
医師の言葉を思い出す。
本来なら、安静にしているべき状態。
だが。
「待てるわけがない……」
小さく吐き捨てる。
視線の先。 仮設の医療施設の一室。
そこに――ミナノがいる。
ゆっくりと扉を開ける。
「……」
ベッドに横たわるミナノ。
呼吸はある。だが目は覚めない。
「……チッ。どうでもいいはず…なのに」
舌打ちが漏れる。
あの時、自分が居れば。
もっと早く戻っていれば、違う結果になっていたかもしれない。
「……なんでこんなこと思うんだ…」
俺は気持ちを切り替えるため頭を振る。
過去は変わらない。
問題は――これからだ。
「ミリア……」
あの状態。
完全な洗脳か、それとも。
「……どっちにしろ」
結論は変わらない。
助けるか、壊すか――。
自分の利益になるならするだけ。
「……」
その時。
ドアの開く音が聞こえる。
「――起きていたのか。サラムの友達…」
「えっと…サナ君だったかな」
背後から声。
振り返ると、そこに居たのは。
「……勇者様ですか」
エクスが静かに立っていた。
「その呼び方はやめてくれ」
エクスは苦笑する。
「僕はただの剣士だよ」
「冗談きついですよ」
俺は鼻で笑ってみせる。
数秒、沈黙。
エクスがミナノを見る。
「……彼女は?」
「見れば分かるでしょう?」
「……そうだね」
短いやり取り。
空気が張り詰めている。
「君が、ミロクだね」
あれ?バレてる?レヴィアにすらバレない完璧な変装だったのに…!?
いや、まだ確定してるわけではない!ここは!冷静に…!
「だったら?」
「今は特になんかする気も起きないな。でも――」
「いつかは君を殺さなきゃならない」
え?俺死ぬの?嘘でしょ!?いや…こんな優男に殺されるほど甘くも無いけど。
「はは…なんで知ってんのか分からないけど正解だよ。それで?なにか聞きたいことがあるのか?」
俺はミロクの姿へとなり、勇者を睨む。
「君から魔族なのに同時に人間の魔力も感じ取ってだね、噂のミロク君なのかと…」
「流石の観察眼だな」
よかった。マルス・アンドラウドがミロクだとは思ってないらしい。サナの方がバレたとは言え、マルスの方がバレてないなら最悪の中でもまだ安心できる方だ。
「それと…ただ君と一度は話してみたいと思ってね」
「ほう…」
「話は聞いてるよ。エイメノカサスでの事件。そしてカオス・エデン」
エクスはゆっくりと近づく。
「……随分と、やり過ぎているね。世界の支配者。ここまで来ると、もう後戻りは出来ないよ」
「だからなんだ?俺は俺なりの道を進めているだけだ」
エクスは少しだけ目を細めた。
「……なるほど」
「否定はしないんだな」
「する理由が無いからね」
俺は壁にもたれかかる。
「俺もお前も自分の進んで行ける道を進んでいった過程がある。なにかを成し、なにかを得る。それは成功だろうが失敗だろうが変わらないことだ」
天上を見上げ、部屋の電気に届かない手を伸ばす。
「その価値を俺は見たいと思ってやってるだけだ」
その言葉にエクスの表情が、わずかに変わる。
「……それは少し違う」
エクスはキッパリと否定する。
「なにがだ」
「君の言った通り、過程は人を作る」
「ただ、間違ったやり方で救えば、その先で必ず歪む」
「俺のやり方が間違ってるとでも?」
「そうは言ってない」
「つまり…綺麗事だな」
「ははっ。そうかもしれない」
エクスは笑いながらも俯く。
「でも、僕はそれでしか結果を出せないんだ」
「……」
「君は強い。色んなやり方で結果を出そうとしている。それが正義であれ悪であれ…なにかを掲げるということは素晴らしいことなんじゃないかって思う」
エクスは真っ直ぐに俺を見て言う。
「でも、その強さは――誰かを置いていく強さだ」
空気が再び重くなる。
「と、言うと?」
「支配者なのに…どうして部下達を頼らない?」
「信用してないからだ」
エクスは一瞬だけ黙る。
「嘘だね。君の言葉には筋が通ってない」
「ほう?どういうことだ」
「信用してないから頼らないんじゃなくて迷惑をかけたくないから頼らない…違うかい?」
コイツは…なんなんだ。
俺の何を分かってこんな発言をするのか。
いつだってそうだ。
――強い奴は持ち得ない者の価値観を分かっていない。
「……なぜそう思う?」
「君のミナノ君への反応を見てたら分かるよ。ミリアは俺がどうにかするからミナノやその他のメンバーは控えてろ…要するに――」
「傷付かないでくれ――そう思ってないかい?」
「そうかもな…それで…言ってお前にどんなメリットがある?気持ちを理解してやりたいとでも言うのか?」
「いや――」
エクスは首を振る。
「確認しに来た」
「君が、この先どうするのか――」
「……」
「決まってる」
短く答える。
俺は俺の意思を貫く。
「全部、利益になるものは支配し尽くす」
「ディアマテも、お前も、世界も…!全部だ」
「ミリアも含めてかい?」
「……」
「あぁもちろん。必要ならな」
「……そうか」
エクスは目を閉じる。
「なら――僕は僕のやり方で戦う」
「勝手にすればいいだろ」
俺は吐き捨てる。
「ただし」
エクスの声が少しだけ低くなる。
「彼女は、殺させない」
「……は?」
「ミリアのことだ」
「救える可能性があるなら、僕は最後まで諦めない」
「ふん…甘いな」
「そうかもね」
だが、その目は揺れていない。
「それでも、僕はそうする」
覚悟がぶつかるような見えない火花が散る。
「……好きにしろ。俺は少しでも無理だと感じれば殺す」
「それを邪魔するなら、斬るだけだ」
「それでも構わない」
エクスは静かに言う。
「その時は――君を殺す」
思想の違い。
戦い方の違い。
そして、
同じ“最強”。
「……くだらないな」
俺は煽るように小さく笑ってみる。
「だが面白い。その時は全力で相手をしよう」
「それは光栄だ」
エクスもわずかに笑った。
「君は…もしかしたら世界を変えれるかもしれないね…面白そうだし、サナがミロクだと言うことは…レヴィアには黙っておいてあげるよ」
「そうか…」
内心めっちゃ安心する俺であった。
「それじゃあね」
扉を開け、部屋を出るエクス。
廊下の奥で、足を止める。
「……彼は、危うい」
エクスは小さく呟く。
「だが――」
視線を上げる。
「だからこそ、強いんだろう…」
俺はミナノの隣に立つ。
「……おい」
もちろん反応はない。
「勝手に寝るのではない…」
「お前が居ないと――」
言葉が止まる。
「……ふん…聞こえないのならいい」
数秒の沈黙。
そして。
「……三日だ」
ぽつりと言う。
「それまでに終わらせる」
誰に向けた言葉でもない。
ただの、宣言。
嵐は、すぐそこまで来ている。
二人の最強。
交わる思想。
そして――。
次の戦いが、始まる。




