意思を継ぐ者は?
戦いは終わった。
――いや、正確には止まっただけだ。
ネオミシスカの街には、未だ煙と建物の焦げた匂いが残っている。
「――こっちだ!まだ息がある!」
「担架持ってこい!」
サラムは声を張り上げながら、倒れた人々を運び続けていた。
勇者学園の戦士達、そしてエクスの指示のもと、即席の救護体制が組まれている。
壊れかけた医療機関の一角。
そこが、今の拠点だった。
「……っ、これで最後か」
担いでいた男をベッドに下ろし、サラムは大きく息を吐く。
額の汗を拭いながら、周囲を見渡す。
レフィアは治療を受けている。
ミナノは――まだ意識が戻らない。
そして。
「はっ…ミロク様は…?」
その名が、ふと頭をよぎる。
周囲を見回す。
いない。
どこにも。
「……おい」
心臓が、嫌な音を立てる。
サラムはすぐに踵を返した。
「……そんなまさかな」
低く呟く。
『あの人が、簡単に死ぬはずがない』。
サラムはそう信じている。
だからこそ――自分で探す。
サラムは一人、外へと飛び出した。
メステイスマリアがあった場所。
そこは、既に何もない。
「くそ…」
あれほど巨大だった空間は、跡形もなく消え去っている。
戦闘の余波でだろう。ネオミシスカは大半が崩壊している。
「……ふざけんなよ」
サラムは胸の奥がざわつく。
もしも…
「……いや…死んでるわけ、ないよな」
そう言い聞かせるように呟く。
その時。
「――おい」
サラムの背後から、声が聞こえる。
女の声だ。
「……!」
サラムが振り返る。
「こっちだ……」
建物の裏でかすれた声を聴く。
サラムは迷わず駆ける。
「ミロ――」
言葉が止まる。
そこに居たのは。
血に濡れた、少女。
腹部を、氷で無理やり塞いでいる。
「……サナ」
――今はその姿。
「よかった……生きてたか」
サナが、かすかに笑う。
「当たり前です……あの程度で私は死にません……」
「心配かけさせないでくださいよ……!」
サラムは駆け寄る。
「それより何があったんです!?この傷…」
「後で話す……こんな時に何も出来ず申し訳なかった…」
立ち上がろうとするが、体が揺れる。
「無理しないでくださいよ!」
サラムは肩を貸す。
「……運びますよ」
「悪いな……」
***
――医療機関。
俺をベッドに寝かせ、傷の状態を医師が確認する。
「……ふむ」
傷口、魔力の流れ、全てを見た後。
「この方の回復力なら、三日で動けるようになるでしょう」
「……三日か」
サラムが小さく頷く。
「他は?」
「そちらの女性も同様です」
医師はレフィアの方を見る。
「ですが――」
医師の顔が曇る。
「ミナノさんは……分かりません」
「……」
「回復魔法が効かない以上、手術だけでは限界があります」
サラムはゆっくりと目を閉じる。
「……そうか」
それだけ言って、サラムは部屋を出た。
廊下は静かな空間だ。
だがその静けさに色んな感情が籠る。
「……やぁ」
サラムはふと声をかけられる。
廊下に立っていたのは――カミス。
「作戦会議といきませんか?」
いつも通りの笑み。
だが、その奥は鋭い。
「……あぁ」
サラムは頷く。
***
――数分後。
一室に集まる面々。
俺、サラム、レフィア、カリン、カミス。
「……始めるぞ」
俺はまだ万全ではない。
だが、芯は揺れない。白マント共をぶっ潰すために動く。
「次の戦いだ」
全員の視線が俺に集まる。
「狙いは一つ」
「ミリアとカリスイノを引き離す」
カミスが軽く頷く。
「確かに、あの二人の連携は厄介ですねぇ」
「レフィア、カミス、カリン、それと剣士達でカリスイノを抑えろ」
「わかりました…」
「了解よ」
「任せろ」
「そして――」
「ミリアは、俺とサラムでやる」
「……あぁ」
俺は短く答える。
だが、その胸の奥には別の感情があった。
――本当に、助けられるのか?
それとも。
殺すしかないのか。
「……」
全員が同じことを考えている様子だ。
ミナノの顔が浮かぶ。
あのままのミリアを見て――あいつはどう思うか。
「……一つ、いいですか?」
カミスが口を開く。
「カリスイノは去る際、私の認識阻害を解除しています」
「……それがどうした?」
「ずっと認識阻害やらを使うのは不可能なのでは無いでしょうか?」
「だが…ミリアはどうなる?ミリアはカリスイノの洗脳によってあんなことを…」
「ミリアさん本人は妹であるミナノさんのことを存在だけは覚えていた。これは洗脳が解けかけている…または洗脳が一瞬解けた時にその記憶を消し忘れていたか…なんじゃないでしょうか」
「なるほど…?」
「カリスイノも魔力が無限であるとは考えにくい。だから洗脳をずっと続ける事は不可能なんじゃないでしょうか…ずっと続けられるなら、俺の認識阻害はまだ続けさせてるはずです。つまりミリアさんはずっと洗脳され続けてるわけでは無いんじゃないでしょうか?」
カミスは目を細める。
「どのみち…カリスイノをどうにかしない限り、ミリアさんの状態は戻らない可能性が高い」
「……っ」
空気が重くなる。
「もし」
カリンが不安げな表情を浮かべる。
「次、ミリア単体で来た場合――どうする?」
「確かに…」
「カリスイノ本人が居なきゃ…洗脳解けないんじゃ…」
「……なら」
レフィアが口を開く。
「拘束するしかないわね」
「……拘束?」
「えぇ」
真っ直ぐ前を見る。
「殺さない。逃がさない」
「洗脳が解けるまで、ずっと抑え続ける」
「……」
サラムが息を吐く。
「……それしかねぇか」
「そうね」
全員が、ゆっくりと頷いた。
一方その頃。
――ディアマテ解放教、本拠地。
重厚な扉の奥。
会議室の中で作戦は開かれていた。
「で?どうすんのー?」
ミリアが椅子にもたれながら言う。
「全員で行けばよくない?」
「……軽く言うな」
赤髪の青年が舌打ちする。
「それやると“魔法の本質”がバレる可能性があんだよ…向こう側にはミロクが居る…安易にバレたらヤベェだろがよ」
「そう怒るな、赤血司祭」
隣の老人が穏やかに言う。
「状況は変わっておる」
老人はゆっくりと全員を見渡す。
「奴らは黄金司祭を倒した」
「その上――勇者や魔族共もいる」
静かな声。
「次は逃げられんじゃろう」
「となれば全員で潰すべきだ」
「……僕も賛成です」
カリスイノが手を挙げる。
「私も〜」
水色髪の少女がフラスコを揺らしながら言う。
「……チッ、しゃーねぇな…ミリアとカリスイノが消えるよりかはマシ…か」
赤髪の男も手を挙げる。
「決まりですね」
老人は笑みを浮かべる。
「いやでも待てよ。向こう側が最大戦力で来る場合…カリスイノ一人は守りきれねぇぞ。カリスイノが殺られたら新しい信徒を増やしにくくなるじゃねぇか」
「それでは、カリスイノさんはお休みとして…代わりに"音響司祭"を呼びますか」
「あぁ!?俺アイツ嫌いなんだよ!呼ぶな!」
「ですが戦力が欠けてしまいますよ」
「関わんなきゃいいだけじゃーん」
「あぁ!もう…!分かったよ…」
「じゃあ――」
赤髪の男が口を開く。
「作戦決行日は三日後でどうだ?」
「えー、一日後でよくない?」
水色髪の少女が言う。
「私の薬使えば回復早いよ?」
「いや」
カリスイノが首を振る。
「準備が必要です」
「攻め方、魔法具……詰めるべきことは多い」
「……まぁ、確かに」
「じゃあ三日後ね」
決定された。
静かに、確実に。
戦争の歯車が回り始める。
カオス・エデン。そしてディアマテ解放教。
二つの組織が――。
ついに、全面衝突へと向かう。
お互いの全てを賭けて――。




