色が失われていくように
俺は一度外へ出て空気を吸う。さっきの緊張感の塊のような場所に居ると気分が悪くなる。
外に出れば相変わらずネオミシスカは宝石のように街の明かり一つ一つが輝いている。
「ミリア…姉か…」
姉…思う所がある。俺も前世では姉が居た。
姉はよく俺と遊んでくれていた存在だった。
――でも、ある日を境に突如、家から消えてしまった。その時には既に姉は二十二歳だったし社会に出たんだと思った。
結局、どこに行ったのか分からないまま俺は人生の幕を閉じたわけだけど…。
母親は俺が生まれた時に死んで、父親は俺が十歳くらいの時に癌で死んじゃったから姉には本当に感謝してるし、また会いたいなと思ってる。
「はぁ…なに考えてんだろ俺…こんなこと考えたって…どうしようもないってのに…」
そしてふと周りを見てみると勇者学院の剣士達が二、三人ほど奥を歩いていた。
「おいおい…なにやってんだ……いや…」
遊んでるのかとも思ったが、剣士達を見てみるとどうやらそんな様子でも無いらしい。
「ん…なにかあったのか…?わざわざカメアノサスから来るだなんて余程のことだぞ…」
なにか嫌な予感がしつつも俺はメステイスマリアに戻ろうとする。
すると――。
「あれは…?」
路地裏前にエリが立っているのが見えた。
ミリアを探せとメステイスマリア内に居させることにさせたんだが…なぜあんな所に…?
とりあえず気になるし追いかけるとする。
「おい、エリ。なにをしてるんだ?」
するとビクッとエリは肩を跳ねてこちらを向く。
「あ…え…カネダ…さん…?」
俺は近付いて話しかける。
「こんな所で何をしている?外の空気でも吸いたくなったか?」
俺がじっとエリを見つめているとエリが口を開く。
「あの…カネダさんはさ…妹とか居たことある…?」
「妹…?」
一応居た。こっちの世界では妹が居たのでそれなりに妹の気持ちと言うものは理解してるつもりではある。
「あぁ、居たが…どうした?」
「実は…!私…色々あって…誰かを殺すことになってて…」
「なに…?」
まぁこの街ではあり得なくも無さそうだけど…。
「それのせいなんですかね…気が動転したのか分かんないけど…なんか昔の記憶が無くて…それで…唯一覚えてるのが…妹が居たってことくらいで…覚えてはいない存在だけど、なんとなく妹は巻き込みたくないなってずっと思ってるんです」
そんな過去が…それじゃあまともな家も無いのだろうか。それに妹を守りたくなるって思うのは普通の家族なら当然だろうな。
「そうか…確かにお前が居ることによって妹になにかしらの被害は行くかもしれないな…それで悩んでたんだな…?」
「そうです…それに…カネダさん…」
エリは俺を路地裏の壁に押し付ける。
「え…エリ…?」
エリは胸元の空いている服を下にズラし、俺に顔を近付ける。
「私のモノに…なってくれませんか?」
「――ミロクさん」
「…!なぜ俺の正体を――」
――ドスッ。
生温かい感覚が俺の腹からじわじわと感じる。
「ゴホッ…ぐほっ…お…」
ポタポタと俺の腹からなにか垂れる。
手で触れて確認してみるとネオン色の光に照らされよくそれが見える。
――血だ。
「ぐぅっ!」
俺は剣を生成し、攻撃しようとする。
だが――。
――ズサッ。
「あがっ!」
喉元を斬られ思わずその場に倒れ込んでしまう。
「はっ…はっ…」
息ができない…言葉も出せない…
それに…回復魔法を使って傷を癒してるのに全く効果が無い。
「ふふふ…可愛い…ミロクさん…アウルさんを殺した代償は大きいですよ…?」
エリは不気味な笑みを浮かべる。
そしてアウルの名前が出てきた…つまりコイツはディアマテ解放教だ…!
「アウルさんは…私の好きな人だったんですよ?」
あんなのが好きとか物好きすぎるだろ。
いや…そんなことを考えてる暇はない。反撃したいけどクラクラして動けない…。
「私…強い人が好きなんですよ。だからアウルさんに惚れた…でも死んじゃったならもう恋なんて出来ない…だからアウルさんより強いのが証明されてるミロクさんを私のモノにするしかないですよね?」
確かに真っ向の実力なら俺の方が強いけどアウルを倒したのはロッドだぞ!!俺じゃねぇし!!
それにやっぱり回復魔法を回し続けてるけど一向に癒えない…。
「あぁ無駄ですよ。このナイフは魔法具です…回復魔法を無効化する魔法具なのでそんな小細工は意味が無いです」
そう言いエリは自身の顔を魔力で覆い隠す。
その瞬間その魔力の奥から出てきた顔は――。
薄いピンク色の髪、紺色の目、右耳にハートのイヤリング…
「さて…次はお仲間さんですかね?」
『ミリア・カーシャ』!!
「あぐ…」
俺は圧縮した魔力を飛ばそうとする。
「あぁ駄目ですよ…今動いて死んじゃったら――」
ミリアは俺の手を自身の手で包み、下に降ろす。
そして――。
「チュ…」
「…!?」
ミリアは俺にキスをする。
「――あなたを新鮮な状態で食べれなくなっちゃうじゃないですか?」
これは…まずい…意識がどんどん遠のいて行く…
「それじゃあ…あなたは最後に取っておいて置きますから〜」
その言葉を聞いて俺は意識がどんどん落ちていく。
ネオミシスカのネオン色の光がどんどん灰色になっていく――。
***
「ん〜…」
メステイスマリア内にて、サラム、レフィア、ミナノは集まって話していた。
「ミロク様帰ってこないし…ミリアさんは居ないし…どうなってんだ…」
サラムはつま先で床をトントンと叩く。
「ミロク様の帰りはとりあえず待つとして…ミリアさんは地道に探すしか無いわよね…」
レフィアは辺りをキョロキョロする。
「姉は…ミリアは居るんでしょうか…」
ミナノは地面を見て不安そうな顔をする。
「なーに言ってんだよ。ここまで来て諦めるわけには行かねぇ。ここに居る可能性高いんだろ?」
「…」
「ミリアさんの居る可能性が高かろうが…低かろうが…可能性があることには変わり無いわ。今はその可能性を信じて探しましょう」
レフィアはミナノの肩に手をぽんっと置く。
「そう…ですよね…!ありがとうございます!」
ミナノはパッと明るい笑顔を見せる。
「――キャァァァァァァァ!」
女性の声が奥から響く。
「なんだ…?」
「行ってみましょう」
サラム達は声の聞こえた場所に走る。
そこには――。
「んな…人が死んでるじゃねぇか…それに…!」
人の死体の前には白マントが三十人ほど居た。
全員が人形のように淡々とその場に立ち尽くしている。
「白マントてめぇら…!」
「え…あれって…」
「んなっ…おいおいまじかよ?」
そして白マント達の中心には胸元の空いた服に白いマントを羽織る薄いピンク髪の少女が立っていた。
「――お姉ちゃん!」
ミナノが叫ぶ。
そこにはミリア・カーシャが確かに居た。
「ん…?あぁ…あなたが私の妹?あなたはなんとなく死なせたくないから…他の人達を殺すとするね」
ついに、ネオミシスカにも白マント…ディアマテの魔の手が侵攻して来ていた――。




