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最強が居ない時間

 ――メステイスマリア。

先程まで煌びやかな光に包まれていたその空間に、今は異様な静けさが漂っていた。

倒れた死体。血の匂い。そして――白いマント。


「……なんでだよ」


サラムが低く呟く。


「どうやって……ここに入ってきた?」


ミナノも周囲を見渡しながら、震える声で言う。


「ここって……十万円以上の懸賞金か、五万ポイントが必要なんですよね……?」


「えぇ、そうよ」


レフィアが頷く。


「それを満たしたプレイヤーしか入れない……なのに」


視線の先には――三十人近い白マント。


「こんな人数……普通じゃあり得ないわ」


全員が“条件を満たしている”など、現実的ではない。

異常だ。

明らかに、この場のルールが歪められている。

その時――。

――カァン。

静かにエレベーターの音が響く。


「……っ」


三人の視線が一斉にそちらへ向く。

ゆっくりと扉が開く。

そこから現れたのは――。

ココア色の髪。黄色の瞳を持つ青年だった。

白マントを羽織り、どこか余裕を感じさせる佇まいだ。


「……遅かったね」


ミリアが軽く笑う。


「外の状況は?」


「問題ありませんよ」


青年は淡々と答える。


「既に外周は制圧済み。侵入経路も確保しています」


「へぇ〜、優秀じゃん」


「やはりあなた一人じゃ心配なので」


ミリアは楽しそうに目を細める。


「……誰だあんた?」


サラムが一歩前に出る。

青年はゆっくりと視線を向け、口元を僅かに歪めた。


「あぁ自己紹介が遅れましたね」


わざわざ一歩踏み出し、軽く礼をする。


「俺は――カリスイノ・マレーティカ」


「……え?」


ミリアが肩をすくめる。


「別に名乗らなくてもよくない?」


「いいえ」


カリスイノは静かに首を振る。


「こういうのは、“名前を刻みつける”ことに意味がある」


カリスイノの瞳がわずかに細くなる。


「後で思い出した時に、一生立ち直れなくなるように」


「……気持ち悪いね〜」


ミリアはくすくすと笑う。

その軽いやり取りとは裏腹に、場の空気は完全に凍りついていた。


「――上等だ」


サラムが腰のブロードソードに手をかける。


「なら、その名前……覚えてやるよ」


――次の瞬間。

サラムの姿が消えた。


「なっ――」


誰も反応できない速度。

踏み込みと同時に距離を詰める。


「――てめぇらをいつでも殺せるようにな!!」


ブロードソードが振り抜かれる。

その一撃は敵だけでなく――

空間そのものを斬り裂いた。

――バキィンッ!!

まるでガラスが砕けるような音。

黄金の壁、床、天井――全てに亀裂が走る。


「……!」


次の瞬間、視界が反転する。

ネオンの光が戻る。

メステイスマリアの“外”へと強制的に押し出されていた。


「はぁ……はぁ……」


サラムが肩で息をする。


「やっぱりな……ここ自体が魔法だったか…魔力の気配あったし…」


カミスの魔力で構成された空間。

それを――力で破壊した。

カリスイノ達もただでは済まないはず…


「……おや」


カリスイノが軽く首を傾げる。


「面白いことをしますね」


ミリアも退屈そうに欠伸をする。


「えー壊れちゃったじゃん。囲ったと思ったのに」


「……っ」


サラムの目が見開かれる。

――無傷。

二人とも、まるで何も受けていないかのように立っていた。


「……ふざけんな…もう一回…!」


「――私も行くわ」


レフィアが前に出る。

レフィアは鋭い視線でカリスイノを睨む。


「へぇ」


カリスイノがじっと見つめる。


「あなた……どこかで」


そして、思い出したように口を開く。


「あぁ、“追い出された側”ですか」


「……!」


「白マントにすら居場所がなかった弱者…」


「黙れ!!」


レフィアの感情が爆発する。

手を前に突き出す。


「――光よ!!」


眩い光が収束し、無数の光弾となって放たれる。

――ドドドドドッ!!

続けて、


「私も……!」


ミナノが前に出る。

両手に魔力を集中させる。


「お姉ちゃん目を覚まして!!」


高密度に圧縮された水が、光線のように放たれる。


――ギュォォォォォ!!


光と水二つの魔力攻撃が重なり、直撃する。

爆煙が立ち上る。


「……これなら!?」


サラムが叫ぶ。

だが。


「――いえ」


煙の中から、声が響く。

風が吹き、煙が晴れる。

そこには――。


「効いていませんよ」


無傷のカリスイノとミリアが立っていた。


「……なんでだよ…クソっ」


サラムの声に焦りが混じる。

その時。


「じゃあ、次はこっちから――」


ミリアが手を上げる。

魔力が集まり始める。

――その瞬間。


――ズガァァン!!


サラムの後ろで地面が爆ぜた。


「うおっ!?」


そこから飛び出してきたのは――。


「……やれやれ」


カミス・ネオンだった。


「随分と荒らしてくれましたねぇ…人のゲーム場を」


スーツの土埃を払いながら立ち上がる。


「カミス!」


サラムが叫ぶ。


「助太刀に来たのか!」


「まぁ、そんなところです」


カミスは笑う。

そして手を上へかざす。


「――ギルティ・ジャッジ」


空間に魔法陣が展開される。


「ここからは――俺のゲームですよ」


――しかし。


「……遅いですね」


カリスイノが一歩前に出る。

そして、手をゆっくりと前に突き出した。


感覚破壊デッド・リバインド


「――ん?」


カミスが眉をひそめる。

その瞬間。


「……消えた?」


カミスの視界から、全てが消えた。


「どこだ……どこに行った……!?」


目の前には何もない。

敵も、仲間も、景色すら。


「……なにをしているのですか?」


カリスイノは、すぐ目の前に立っていた。


「おい!カミス!!」


サラムが叫ぶ。

しかし。


「……?」


カミスは反応しない。


「聞こえてないのか……?」


レフィアが顔を歪める。

カリスイノは淡々と告げる。


「視覚、聴覚、空間認識――すべてを遮断しました」


「なっ……」


「彼はもう、“こちら側”には戻れません」


カミスはその場で虚空を見つめたまま、動かない。

完全に切り離されていた。


「せっかくなので教えましょうか…俺の魔法は認識と座標の変更。この白マント達は私が即興で洗脳して集めた方々です。あなた達の攻撃がずっと効かないのもこの魔法のお陰…」


「ってことは…この俺達が倒してきた白マントってまさか…!」


「殆どが俺の洗脳です」


「……くそっ!」


「酷い…」


「私の居ない間にそんなことをしてただなんてね…」


サラムは歯を食いしばる。


「一人……削られたか」


「どうしますか?ディアマテ解放教に入るなら許してあげてもいいですよ」


ミリアが楽しそうに笑う。


「まだやるって言うの?」


「……当たり前だろうが」


サラムが剣を構える。

レフィアも、ミナノも前に出る。


「ここで止める…!」


「これ以上……好きにはさせない」


「お姉ちゃん……!今取り戻すから…!」


三人の覚悟が重なる。

カリスイノはそれを見て、わずかに笑った。


「いいですね…」


「では――始めましょう」


白マント達が一斉に動き出す。

ネオミシスカの夜。

最強不在の戦場で――

本当の絶望が幕を開けた。

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