覚悟を賭ける札
――黄金のテーブルの上。
静かにカードが配られる音だけが響く。
俺は椅子に深く腰掛け、目の前の男を見据える。
「ルールは理解してるよな?」
男は聞いてくる。
多分この世界だし普通のゲームじゃないんだろうな…パッと見た感じはポーカーっぽいけど…
「普通のポーカーなのでは無いのか?初めてで分からんこともある」
男はニヤつきながら言う。
まるで俺が負けるのが分かっているかのような。
「あぁ、ポーカーだ。だが――、ただのポーカーじゃねぇ」
カチッ、と音が鳴る。
テーブル中央に埋め込まれた魔法陣が淡く光る。
「この“ギルティ・ポーカー”はな――」
ギルティ・ポーカー…?この街特有のルールみたいなものなのかな。
男は得意気にチップを指で弾く。
「ここじゃチップイコール魔力だ」
「……なるほど」
え、どゆこと?
「賭けた分だけ、自分の魔力を削る。ゼロになれば――」
男は首を横に切る仕草をする。
「“行動不能”。つまり実質敗北だ。魔力も他人から与えられるみたいなことが無い限り、ゲームが終わっても永久的に魔力は没収される」
エリが後ろで息を呑む。
「お前はこれにビビって……」
「はい……」
エリはこくりと頷く。
「な〜に安心しろ。分かってるだろうが死にはしねぇよ」
男は目を細め笑う。
「ただし――」
一瞬だけ目が冷たくなる。
「この街じゃ、“死以下”になる可能性はあるがな」
「……」
俺は無言でチップを一枚持ち上げる。
なるほど。ルールは大体理解はした。
チップイコール魔力なら、その人の持つ魔力量の分だけゲームを続行出来る。そういうこと…なはず。
魔力量、判断力、精神力、全部を削るゲーム。
――面白い。この異世界特有っての悪くない。
「では、始めよう」
俺はネクタイを締める。
「あぁ…」
ディーラーの声と共にカードが配られる。
初期手札、二枚。
俺はカードを確認する。
……悪くない。でも勝ち確定ではないだろう。
観客がざわつく。
「へぇ……」
男が笑う。
明らかに“何か持ってる顔”。
ブラフか?それともマジか…まぁ関係ないけど。
俺は悟られないように平然を保つ。
「俺は五千…」
男がチップを出す。
エリが震える。
「か、カネダさん……!」
「静かにしてろ」
まぁ、序盤は大丈夫だ。
俺もチップを同じ額出す。
「コールだ」
場に新たなカードが来る。
……揃ったな。俺の中で一つの形が完成する。
だが――まだ確定ではない。
「一万だ!」
男が一気に上げる。
周囲がどよめく。
「――おいおい飛ばすなぁ」
「――ビビってるなら降りろよ」
挑発が飛び交う。
「……」
俺は目を閉じる。
この程度で揺らぐわけがない。俺が焦るのはテスト中にトイレ行きたくなった時だけだ。
そして俺はチップを指で弾く。
「レイズ。二万」
「なっ……!?」
男の表情が一瞬歪む。
最後のカードが開かれる。
――その瞬間。
俺の口元をわずかに歪ませる。
間違いなく勝ちだ。ここまで来たらもう勝ちを匂わせるのもいいだろう。
――だが。
「……へぇ」
男が笑う。
「その顔……揃ったな?」
「ふん、さぁな」
「じゃあ見せてみろよ」
男はチップを全て前に出す。
「オールインだ」
場の空気が凍る。
エリの顔が真っ青になる。
「ま、待って……それ全部……!」
「……」
なるほど…オールイン……
つまり――。
勝てば全取り、負ければ全損。
でも俺は確信している。この盤面は俺が上だ。
……いや。でも違和感がある。
男の目が――“死んでいない”。
何かある…だがそれでどうにかなるか?
俺は一瞬だけ考える。
そして――。
「いいだろう…」
チップを全て前に出す。
「受けてやる」
「ははっ!来たな!」
男がカードを叩きつける。
「ストレートだ!!」
観客がざわめく。
「強い……!」
エリが絶望の表情を浮かべる。
「……」
俺は静かにカードを開き、にやりと笑う。
「フルハウスだ」
「――は?」
一瞬の沈黙。
そして。
「なっ……!?バカな……!!」
男が立ち上がる。
「なんでだ!!さっきの流れなら――!」
「読めるだろ」
俺は冷たく言う。
「お前のベットは強すぎた」
「……っ」
「“勝ってる奴”はあんなに焦らない」
チップが俺の方に流れ込む。
同時に、男の魔力が削れていく。
「ぐっ……!」
膝をつく男。
「くそ……くそぉ……!」
静寂。
そしてすぐに歓声が上がる。
「すげぇ……」
「一切ブレなかったぞ……」
エリはぽかんと口を開けていた。
「か、勝った……?」
「当たり前だ」
俺は立ち上がる。
「俺が負ける理由がない」
男は地面に崩れ落ちる。
男の完全敗北。いやー、完全勝利ってのは気持ちいいね〜。またやりたくなっちゃった…
その時、
――ピコン。
銀カードが光る。
「……?」
俺はカードを見る。
表示されたのは――。
「特別ゲーム解放?」
そしてその下に高位プレイヤーより挑戦申請と表示されている。
「……来たか」
俺は目を細める。
ちなみに、誰なのか知らない。なんだよ高位プレイヤーからの挑戦申請って…なにそれ知らん怖案件だよ。
「高位プレイヤーからの挑戦申請って…!来たばかりって言ってましたよね…!?凄い…」
まぁこの程度は前座ってことだろうな。
本番はこれからなはずだ。
エリが震えながら言う。
「つ、次……どうするんですか……?ホントに上位プレイヤーへ挑戦するんですか…?」
俺はゆっくりと笑う。
「決まってるだろ」
カードを一枚、指で弾く。
「――全部、奪う。上位プレイヤーだろうが…この俺に勝負を仕掛けたのだ。後悔させてやろう」
メステイスマリアの“本当のゲーム”が今、始まる。
――多分。




