ゲームすらも支配
黄金の光に包まれた空間――メステイスマリア。
ネオミシスカの喧騒に満ちた賭けとは違い、ここには静かな熱気があった。
豪奢な装飾、磨き上げられた床、そして至る所に設置されたゲーム台。
「……ここが上位層か」
俺はゆっくりと周囲を見渡す。
人はいる。だが、下層とは違う。
無駄に騒ぐ者はいない。全員が“勝つために来ている”目をしていた。
「凄い人ですね…」
サラムもキョロキョロ見渡す。
「とりあえず――」
俺は小さく息を吐く。
「ミリアを探すか」
「そうですね…もうここしか無い…はずです」
ミナノは左手に星のイヤリングを握りしめ、それを左耳に着ける。
ミナノからは何かの覚悟を感じる。そんな気がした。
「それは?」
俺は一応ミナノに聞く。
「姉が…右耳にハートのイヤリングを着けているので…私も似たような感じにしようかなって…!それで…真似し始めたら…いつしか私と姉の気持ちの表れ…みたいな感じで着けるようになったんです」
ミナノはどこかさみしげな表情で言う。
ミリアを危険な目に合わせたくない。またミリアと遊びたい。その一心でここまで来たのだ。
「そうか…絶対見つけるぞ」
「はい…!」
ミナノは決意を固める。
「それじゃあ皆でそれぞれ姉を探すとしよう。とりあえず今日は三時間…それで現れなければまた明日、五時間くらい探すとしよう」
「「「はい!」」」
ミナノ、サラム、レフィアの返事が響く。
それと同時に全員バラける。
ミナノの姉。
ここにいる可能性は高い。
だが――。
「……」
歩きながら視線を巡らせる。
薄いピンク髪、ハートのイヤリング、長身。
特徴に合いそうな人物を一通り確認するが――それらしい人物はいない。
「本当に居るのか……?」
疑念が一瞬よぎる。
その時だった。
「……ん?」
視界の端に、光が差す。
それは装飾とは違う、どこか“意味のある輝き”。
俺は足を止め、それを見つめる。
視線の先――ガラスケースの中に収められた一つの宝石。
淡く光るそれは、ただの装飾ではない。
「……あれが」
ミナノの言っていた“ゲームを有利にする宝石”か。
本物でありながら、ゲームの要素でもある。
この街らしい、歪んだ価値観の象徴。
「……なるほどな」
じっと見つめる。
あれを使えば、ゲームの流れすら変えられる可能性がある。
そう思った瞬間。
――ドンッ。
「っと……」
誰かが俺の肩に軽くぶつかる。
視線を下げると、小柄な少女が尻もちをついていた。
「……大丈夫か?」
俺は手を差し出す。
少女は顔を上げる。
青空のような澄んだ髪――。瞳は片方は、ピンクでもう片方は黄色のオッドアイ。
外見は可愛らしい。
「ひゃっ……ご、ごめんなさい……!」
少女は慌てて謝るが――次の瞬間。
――ガシッ。
「……は?」
少女は俺の足にしがみついてきた。
「お願いです!!助けてください!!」
「……離れろ」
「無理です!!離したら終わるんです!!」
即答だった。
「……」
俺はため息をつく。
なんとなく状況を察した。
「話くらいは聞いてやる。要点を言え」
少女は顔を上げる。
「次のゲーム……負けたら、全部無くなるんです……!」
「金か?」
「はい……それと……色々……!」
色々の部分で、俺は察した。
この街の“賭け”の性質を。
「だから……代理で出てほしいんです……!これで勝ったらもうメステイスマリアでゲームはしないと誓うので…!」
「……」
ネオミシスカの人間らしいな〜。というかゲームをしないとか圧倒的に信頼出来ない言葉なんだけど。
可愛らしい見た目だけど…やっていることは、他人に命運を丸投げし、挙句には金を賭けさせるクズと変わらない行為。
――でも。
「……いいだろう」
「えっ!?」
少女が目を見開く。
「俺もゲームをするつもりだった。どうせ勝つし、その話ノッてやろう」
俺は腕を組んで横目で少女を見つめる。
「ただし条件がある」
「な、なんでもやります!」
「人を探しているんだ」
「人…ですか?」
「あぁ、ミリア・カーシャという女だ。情報を集めろ」
「ミリア……」
少女は少し考え――すぐに頷く。
「分かりました!やります!」
「ならいい。契約成立だ。それと――」
俺は足を軽く動かす。
「いい加減離れろ」
「あ、すみません!」
少女は慌てて俺の足から手を離す。
「そういえば…名前は?」
「エリカノス・アンメノリアです!」
元気よく言い切る。
「エリでいいですよ!」
「分かった……エリだな」
「えっと…あなたは?」
エリが上目遣いで聞いてくる。
「カネダだ」
「カネダさん…本当にありがとうございます…!」
「礼はいい。それで?そのゲームはどこだ」
エリはぱっと表情を明るくする。
「こっちです!すぐ近くなんです!」
そう言って、俺の手を引く。
「引っ張るな」
「あ、ごめんなさい!」
エリの足取りは軽い。
先程までの絶望感は消えていた。
俺はその様子を見て思う。単純な奴だ。やっぱり人間は己の私利私欲の為だけにしか動けないもの。俺でさえそうだ。でも俺とコイツとじゃ覚悟が違う。俺は他人に自分の願いを任せるほど、単純な願いじゃない。
なんて考えるうちに気付けばエリのしていたゲームの会場前に到着する。
俺は一つのゲーム台の前に立つ。
周囲には数人の観客。
そして対面には、既に対戦相手らしき男が座っていた。
「……来たか」
男は低く笑う。
エリは俺の後ろに隠れる。
「この人が……相手です……」
「……」
俺は椅子に座る。
テーブルの上には、いくつかのチップと――奇妙な盤面。
「おうエリ…まさか他人に任せるとはな。ま、どのみち潰すだけだがよ!」
あれだ。裏の界隈の人って感じの雰囲気ある。
ドラマとかで見たことあるけどなーんか独特の雰囲気漂ってるんだよな。
「あんたは強いのか?」
怖いからとりあえず聞く。
男はニヤリと笑う。
「このゲームでは最強さ!」
終わったかもしれない。調子乗ったけど正直こういうのあんまルール詳しくないんだよな。
で…でもこれは噛ませ犬発言!これは俺の勝ちフラグが来ているぞ!
「なら俺は最強を支えるための台である頂点だ――」
周囲の空気がわずかに張り詰める。
「お…おう。そうか」
あれ?なんか失敗した?めっちゃカッコよくなかった?今の。
とりあえず俺は盤面に視線を落とし――
そして、ゆっくりと口元を歪める。
「……なるほど」
見たことがある。ルールは大体分かる。
「ポーカー…か」
俺の目には既に、勝利の道筋が見えていた。
「いいだろう」
俺はチップを指で弾く。
「遊んでやる」
――ゲームすらも支配するために俺は戦う。




