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従う奴と従わせる奴

 「嘘の匂い…とは。具体的にどのようなことで?」


俺は高い椅子から見下げてくるレヴィアの赤い目を睨む。


「その目つき…とても魔王様を見るような目とは思えないわね…それに、あなたは妙に"なにか"を探っているような仕草を取っている気がするの…」


魔王の前では嘘は通じない。小さい頃に言われてた気がする。まさか本当だとはな。


「ご無礼な態度…失礼しました。私がなにかを探っていると…なぜそう思ったのですか?」


俺はバレないように取り繕う。


「周りを見過ぎて目がグルグル回ってるわよ?そんなに物珍しいものがあるわけでも無いと思うのだけれど…」


目線か。流石、魔王と言ったところだ。


「すみません。レヴィア様に会えると考えると、つい緊張してしまいまして…癖のようなものでございますよ」


俺は咄嗟の言い訳を考えて言い放つ。


「それじゃあ…信用出来んな。我に対して絶対的な服従を誓うために覚悟を示してみろ」


魔王は黒銀色の髪をイジりながら俺を睨む。


また服従させられる。

だが、ここでやめてしまえばきっと、もうこの世界を支配することは出来なくなってしまうだろう。

――そんなことになるくらいなら。


「はっ…!!」


俺は自らの心臓に氷の剣を作り出し、それを突き刺そうとする。


「えっ!?」


レヴィアは血を操作し、俺の手を拘束する。氷の剣は既に皮膚を掠め、俺の体からは少しだけ血が出ていた。


「まさか本気にするとは思わなかった…あなたの覚悟…相当なものね…分かったわ。信用してあげる。これからよろしく頼むぞ?サナ」


レヴィアは俺がここまですると思ってなかったのか、少し焦り気味に俺を魔王軍へと引き入れてくれた。随分と容易いものだ。心の弱みというものは、俺が誰よりも知っている。支配する奴と支配される奴はお互いに心を掴み合っているものだ。


「ありがたき御言葉…ありがとうございます」


俺はそう言い、踵を返す。

後ろでは魔王の威厳がまだ異彩を放っていた。

だが、なんだろう。

どうにも、俺は奴を魔王とは思えない。


「サラム。挨拶に行ったわ」


俺はサラムにレヴィアと会ったことを報告する。


「ん、よかったな。適正無いやつだとワンチャン殺されてるぜ」


魔王軍はもっと殺伐としている所だと思っていたが、どうにもそういうわけではないようだ。


「あなた…優しいのですね。私はもっと…過酷な環境を生きてきてたので」


「人間とはちげぇよ。人間は…嘘ばかりで過酷な環境なんだ」


この時、サラムは後ろを向いていたが、俺には分かる。

――魔族達も、なにかを抱えているのだと。


「そうですね…人間は…つまらないですよ」


俺がそう言うとサラムは『プッ』と言い吹き出して少し笑う。


「やっぱ、嘘つきだ…"人間って"」


「んな…」


サラムは俺に近づいてきてサラムの腰に下げている剣を俺の首元に一瞬で近付ける。あまりの速さに少し風が吹いた。


「俺はな、心が読めるんだ。お前、人間だろ」


「へぇ…分かっちゃうんだぁ?」


サラムは俺の目を見てニヤリと笑う。


「ん〜でも。お前の心を見た限り、どうやら悪いことをしてぇ訳でもねぇみてぇだな。勇者と魔王…全てを束ねる…か」


サラムは剣を鞘に納める。


「俺があんたの仲間第一号になってやる。あ〜いや、あんたの考えからして…下僕ってとこかい?」


サラムは相変わらずニヤニヤして言ってくる。

コイツが何を言っているのか、俺には最初分からなかった。

自ら下僕になりたい奴が居るのか?と。


「なんでよ…?下僕ってどういう立場か分かって言ってるの?」


「アハハ。俺、誰かの命令無しにじゃあ動けないからさ。誰かの下について勇者軍を倒すために魔王軍に入ったんだけど……俺が魔王軍に入って、勇者軍を潰すと言ってから…何年経ったか…なら、あんたと手を組んだほうがマシだよ」


こんな考え方のやつ、初めて見た。昔の俺からは考えられない。


「っ…裏切ることになるんだぞ…仲間を…なんで…」


俺はサナの変身を解いてカルノの格好へとなる。

仲間を裏切ることへの意味と、俺の下僕になる意味。どっちもわけが分からない。

裏切られた仲間はどう思うのか、裏切った側はどういう気持ちなのか。今思えば、和真達(あいつら)も俺をどういう目で見てたのか。

俺は悔しさと憎しみで拳を握る。


「俺も、あんたと同じで昔はイジメを受けてたのさ。剣を振るうことしか考えられなくて、剣バカとか言われて剣を隠されたこともあったっけか…まぁ、今ではそいつら負け組なんだけどさぁ」


サラムは俺の顔の前に顔を近付ける。


「あんたが、服従して何をしたいのか…教えてくれよ」


俺は一呼吸置いて答える。


「俺は、全ての種族を服従させるために、自らの正義と悪を執行し、絶対の王の象徴となる。全ての種族を服従させたら、俺はそいつらを俺の正しいと思える奴らにさせる」


「やっぱ、おもしれーな。人間ってのは…」


サラムは俺の前で膝を付く。


「んじゃ、よろしくな。えーと…なんて呼べばいいんだ?」


「俺は…世界を裏で操る者、ミロク・プリンス!正義と悪の執行者だ!」


俺の姿はまた変わる。

赤ワイン色の髪に、橙色の目を持たせる。


「そして、王の前では常に敬語を使え、サラム」


俺はサラムを仲間とは別のものを見るような目で見つめる。


「ハハッ…よろしくお願いしますよ!!ミロク様!」


俺とサラムは風を切って、二つの影が魔王城を越え、夜の街の空を駆け抜けた。

従う奴と従わせる奴。

本当に強いのは、どちらなのか――。

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