無駄な交流
――やがて自己紹介が終わり、レオルは満面の笑みを浮かべる。
「うん…うん…!皆自己紹介ありがとう!それじゃあ次のことだ、魔導書を配るから皆受け取ってくれ!」
魔導書がレオルの魔法で浮かんで生徒達の席に配られる。
「そうだなぁ…今日は特にすることが無いからな…もう皆帰っていいぞー!」
このレオルとかいう奴は適当な奴だ…。
それにしても本格的な授業は明日からだろうか…面倒くさい。
特に誰とも話もせず廊下に出てみると、廊下では沢山の生徒が賑やかに話し合っている。
全く交友なんてくだらない。人との関係を築く、それ自体は素晴らしいことだ。
だが、結局は交友は交友の枠に過ぎない。支配こそが俺の無制限の枠だと思っている。
「ねぇねぇ!」
明るく可愛い声で後ろから急に話しかけられる。
誰だろうか…
「ん?」
振り向けば俺の前には俺のハンカチを持っている女子生徒が居た。髪色は紺色で、目は星のようだ。
走ってきたのか少し息を荒くしている。
「はぁ…はぁ…ハンカチ落としたよ?」
「そうか…すまない。ありがとう」
なんで俺のハンカチを…と思ったが、そういえばこの子は俺のクラスに居た気がする。
「えっとマルスくんだったよね?私はメノン・フライメド!よろしくね」
メノンは手を前に出してくる。俺は繋ぎたく無いのだが、しょうがなく繋ぐことにした。
「あぁ、よろしく頼む」
全く警戒心が無い。勇者の素質はなさそうだ。それにしても、積極的なタイプで苦手だ。
「マルスくんはどんな魔法が得意なの?」
あまり情報の開示はしたくないところだが仕方なく答えることにする。どうせ見せることにはなるだろうし。
「炎魔法だな。一番研究し尽くされているし、扱いやすいからな」
「炎魔法!単純だけど火力ならピカイチで強いくらいの魔法だね!私はヒーラーメインで募集したの!一応…攻撃魔法は流星群を使えるんだけど…」
流星群と言えば、この世界では概念魔法を除いた最上級魔法と呼ばれている。モノによっては都市を吹き飛ばす程の力があるみたいだが。俺の魔力量で解き放ったらどうなるかが楽しみだ…。
「私の流星群で降らせる星の質量が軽すぎてね…上空に発生させた時点で崩れるの…だからヒーラー役を選んだんだよね〜。元から医者の家系だし、回復魔法が得意なんだよね」
最上級魔法は扱うだけならとてつもない努力を積まないとならない。本来ならその魔法だけを努力して磨かき続けないと使えないレベルだ。メノンの努力だと、そうなっても仕方ないと言えば仕方ない。
「ほう…そうなのか…あぁそれと俺はこれから用事があるから帰る。また明日会おう」
「うん!分かった!バイバイ!」
メノンが手を振っている。俺は軽く手を挙げ振る。
踵を返し、学校の外へと出る。俺には別の用事がある。
学園周りの森へ俺は再び来る。
「よかった。まだ起きてない」
朝に気絶させた警備員だ。コイツは少し使い道がある。
俺はその場でまた姿を変える。
――今度は性別も。
髪色は白くなり、長くなる。そして、魔族特有の赤黒い目。胸を少し大きくし、声色も変える。これで魔族のような見た目になった。
「うーん…俺って結構こういうの得意なのかもなー!」
この状態で俺は魔王城前へと空間移動する。
辺りには黒い服を着た魔族が沢山居る。
「ねぇねぇ。城の前で装備も何もない人間の兵が倒れ込んでたんだけどどうする?」
俺は紫色の髪をした青年の魔族へと話しかける。その魔族は俺を少し不思議そうな顔で見つめてくる。
顔見知りじゃないと流石にキツイか…?
「ん〜…『ロッド』さんに報告だな。頼んだわ。それと、お前と喋るの初めてだよな?俺はサラム・メズンだ。よろしく頼む」
「私はサナ・グランド。実はまだ新人なの。よろしく」
女性の立ち振る舞いというのは難しい。少しずつ勉強しないとだな。
「サナって言うのか。あ〜てか新人って言ってたよな…そしたらロッドさんの場所教えねぇと分かんねぇよな。着いてきてくれ」
「えぇ、分かったわ」
俺はサラムの後ろをついて行く。
廊下には骸骨の飾りに、松明の光だけが、廊下を照らしている。薄暗いこの雰囲気が魔族っぽい。
サラムの背中を頼りに少し廊下を進むと、部屋が見えた。
「ここがロッドさんの部屋だ。新人なら挨拶しとけよ。俺は作業に戻るから」
そう言いサラムは廊下を戻っていく。
「はーい」
――コンコン。
俺はロッドという奴の居る部屋のドアを叩く。
「失礼します。新人のサナです。人間が城前に倒れてたんですがどうすればいいですか?」
部屋の中には黒い髪をして後ろで髪を束ねている男性が居た。漆黒の目をしており、俺の手に抱えてる人間をじっと見る。
「あ〜…うん。そこぉ、置いておいてぇ…」
ロッドはマイペースな喋り方をしてくる。ちょっと面倒くさい。
「分かりました」
ロッドの隣の床に放り投げる。
「それとぉ、君ぃ…えっとぉ…サナ?新人って言ってたよねぇ? 魔王レヴィア様に挨拶しに行ったのかなぁ?」
ロッドは机に頬杖をついてやる気無さそうにゆっくりと喋りかけてくる。
「いえ、まだです。人間を届けるついでに、どうやってレヴィア様の部屋に行けばいいかも聞こうと思いまして、教えてくれませんか?」
「う〜ん…ちょっとぉ、忙しいから…サラムに聞いてくんないぃ?」
こんなマイペースなやつがさん付けだなんて俺は思わない。魔力量は隠されているのかどれほどの力量を持つのか全く分からない。
そもそも、魔王城に来たのは魔王軍を裏で操作するためにという目的で急遽来たから、このロッドがどういう立場なのかも分からない。魔王『レヴィア・サタム』は流石に分かるが、細かい奴らは分からない。
「分かりました。では、失礼します」
俺は部屋のドアを閉めてサラムの所へ戻る。
「ねぇねぇ、サラム。レヴィア様の所に案内してくれない?ロッドさん忙しいみたいで…サラムが案内してくれるって言うから」
するとサラムの顔が少し青くなる。
「うへぇ〜…あの人やってくれたなぁ…仕事も殆ど俺にやらせるし…。まぁ、いいや…着いてきてくれ」
少し歩くとサラムは立ち止まり、城の前にある一番デカい扉を開ける。
ゴゴゴという音と共に扉が開く。
「さっ。この先だ。さっさと挨拶行ってきな。俺は顔を合わせたくないからな…」
サラムは身震いし、体をそわそわさせながら来た道を戻って行く。
「ありがとね〜」
扉の先には長い階段がある。そこの階段からはとてつもないオーラが放たれている。普通の人間や魔族ならこのオーラだけで失神しそうなくらいだ。
「さっ…行くか…」
俺は長い階段を一歩ずつ歩いて登っていく。
するとやがて目線の先にドアが見えてくる。
俺はそのドアに手をかけ、開けた先には――。
玉座に座る、黒銀の髪の女。
深紅の瞳が、真っ直ぐこちらを射抜いた。
「……面白い匂いがするなぁ。新人」
この場の空気が凍る。
刺すような圧。
「名を言ってみろ」
俺は微笑み、敵意が無いことを示す。
「サナ・グランドです。レヴィア様」
スカートの端を持って少し上に上げ、レヴィアにお辞儀する。
「うぅん…」
その瞬間、レヴィアの目がわずかに細まった。
レヴィアは薄く笑う。
「貴方からは…嘘の匂いがする…」
――その言葉は俺の心に確かな響きを与えた。




