全てを服従させるために
――俺誕生から少し年月が経った。
大体五歳くらいだったろうか…この世界の言語はマスターした。
「むむむ…わっ!?」
自分の手の中で練っていた魔力が弾ける。
その衝撃で後ろに後退する。
「カルノ!大丈夫か?」
今のお父さん(浮気性)が、慌てた様子で俺の身体を見る。
「大丈夫だよ、お父さん」
「そうか!カルノは強いな!」
こうやってお父さんも一緒に練習に付き合ってくれている。まぁこの世界の子供達は五歳くらいからもう魔力の練習はするみたいだし、当たり前なのだが…。
「うん…やっぱりそうだよな…」
俺は一つとあることに気付いている。
それは他とは圧倒的に魔力の量が桁違いだということだ。
一度、他の子供達の練習や、父親が魔力を練っていたときの様子を見ているが、他の子供達はともかく、剣士をしている父親の魔力すら遥かに凌駕する魔力を、俺は持っているのだ。
「あの女神が関係している…のか…?」
俺は遥か空の上の太陽を見上げる。
あの女神と同じ、橙色の太陽――。
「ゴルァァッ!てんめぇクソ親父ぃ!また浮気しやがったなふざけやがってぇぇぇーー!」
母親が物凄い怒号を上げ、魔力の渦。いや――、覇気という名の圧で父親を睨みつける。
「あああああぁぁぁぁカルノぉぉぉぉ!助けてぐれぇぇぇええ」
「わははー!楽しそー!」
自業自得である。
――そんなこんなでさらに十年後。
転生したあの日から長い年月が経った。
「ふぅ…魔力の扱いにも、だいぶ慣れたな」
俺は手の中に赤黒い魔力を生み出す。生まれた頃は莫大な魔力に手こずってコントロールが難しかったが、今では簡単に操作できるようになり、魔法学も人一倍知識を蓄えた。
転生したあの日、女神から力を奪って、魔力は人の何百倍も…いや、何千倍もの魔力を手に入れた。
だが、俺はその魔力を持っているという事実を世に出したことはない。
もし、人の何千倍もの魔力があると知られれば、勇者軍に加入させられる可能性があったからだ。それに、ちゃんと使えば地球が保たないだろう。
勇者と魔王――。いつか俺と戦うことになる存在。万全に準備してから叩き潰す。そしてついに、その第一の作戦を実行する日がやって来た。
――コンコン。
俺の部屋のドアを叩く音が聞こえる。
「カルノ。もう起きてるの?朝ご飯食べなくていいかしら?」
母親があたふたしながら部屋に入ってくる。
今の俺と同じ茶色の髪を持っている。俺の髪は母親から遺伝したのだろう。
ちなみに父親は今どこに居るか知らない。母親によるとどこか遠い場所へ行ったとのことだ。
「起きてるよ。どうしたの?」
母親は学園からの手紙を確認して見る。
「今日から勇者専門の学園に入学日でしょ?寝坊しちゃいけないと思ってね」
母親は前から心配性だ、いつも俺を気にかける。
「母さん。そんなに心配しなくたって、俺が寝坊したことなんて無いでしょ」
俺は青い制服の袖に腕を通す。左腕には勇者学園の紋章が付いている。
「お母さんはいつだって子を心配するものなのよ」
転生前の親よりかはマシだろうか。こんなに俺に尽くしてくれることは一回も無かった。でも、この母も俺を勇者の仲間に…そう、俺からすれば敵へと加えようとしてくる。勇者になろうとするのがそこまで偉いことなのか、息子の意見も聞かず、勇者にしようとしてくる。ここまで育ててくれたのはありがたいが、結局は俺の敵なんだ。作戦の邪魔でしかない。
「そういうもんなんだね…。じゃあ俺は学園に行ってくるとするよ」
「え?まだ早いんじゃない?」
母親は目を点にする。
「うーん…少しルートの確認?」
そう言って俺は窓から飛行魔法【飛行】を使い、学園の方向へと向かう。ここまで早く行くのには別の理由がある。それは学園の下調べだ、全てを服従させるとなると、当然裏で勇者学園を操る必要がある。どれだけ警備が堅いのか…。どんな実力者が居るのか?俺の配下に相応しいのかとか…見ておきたいことが沢山ある。
「おお流石上級の学園…警備は堅い」
まるで城のような学園。いや、実際本当に城が一部ではあるようだが。
俺は学園の周りを駆け抜け、一番弱そうな警備員を見つける。
「ふぁ〜あ…」
一人だ。しかも呑気にあくびをしている。
俺は男の後ろに立ち、手をあげる。
――ドォッ!
手刀で警備員を眠らせる。ちょっと強すぎた気もするけど死んでは無いだろう。多分。
俺は警備員の服を脱がせ、警備員の服を自分に着せる。ちなみに倒れている警備員は適当にその辺の草むらに捨てておいた。
「さて…と。今日俺がしたいのはこういうことじゃなくて…」
俺は警備員の持っていた鍵を使い、まだ開いていない学園内に入る。学園内は流石と言うべきか、警備員の数も多いし、装飾も綺麗で、歴代勇者の絵画なんかも飾られている。今の勇者は確か十七世代目だった。
「あったあった…」
俺が手に取ったのは学園名簿。ここで俺のクラスの名簿に一つ、名前を加える。
『マルス・アンドラウド』。
この名前を追加した理由は後に分かるだろう。
俺は学園の外へと出て、元の服装に戻る。その後、俺の取った行動は――。
「よし!まぁまぁな完成度!」
自分の姿をした魔法で作った人形を作ることだった。普通の俺の姿をした人形ではない、血色は薄く、痩せ細させる。偽の血も流させる。そう、俺は自分の偽の死体を作った。
その死体を俺は適当に学園よりちょっと先くらいの所に放置する。
物陰に隠れ、人が通るのを待つ。
――数十分後。
「キャアアアアアアア!」
生徒の人通りが出来始めた辺りで俺の偽の死体が発見される。
「人が死んでるぞ…!」
ただの人形にあまりの反応を示すものなのだから俺は少し笑ってしまった。
「さて…準備は整った…」
後ろで警察が生徒を学園へと向かわせ、人形を調査している。とりあえず入学式は無事に行われそうだ。
――さらば、『カルノ・ミアシュ』。十五年の短い間だったけど楽な生活だった。
俺は学園へと戻る。さっきとは違い、人が沢山いる。ざっと千人…全員が入学者で、勇者の仲間に…勇者になるために来ている人達だ。
ただ俺一人を除いて――。
俺は陰で元の自分の姿を変える。声色も、顔も、髪型、髪色も、身長すらも。
カルノの姿の時とは違い、黒髪で赤いメッシュを入れて目も銀色という姿で、俺は教室へと入る。
自分の用意した席に、俺は座り込む。
――少しすると、先程まで賑わっていた周りの声は鎮まる。
先生ガチャの時間と言ったところだろう。
――ガラガラガラ。
ドアが開く。
赤い髪をした凛々しい目の男が教室に入って来た。
「皆、おはよう!そして初めまして!僕は担任のレオル・カルレリーノだ」
印象だけならかなりいい奴という感じだ。
最初の担任としては扱いやすそうな奴…とはいえ勇者学園の先生――。それはつまり、実力者を意味する。勇者学園の先生というだけで、生徒には圧倒的な実力差を見せつけることが出来る。
「早速だが…今朝、このクラスに入る予定だったカルノ・ミアシュさんが登校途中だったのか…亡くなられていて…学園には来れないんだ…」
ざわざわとクラスが不安の空気になる。
「あの人だよな…?」「まじかよ…」「いきなりすぎない…?」「どーでもよくね」など色んな言葉が飛び交う。
「はいはい、落ち着いて!気は乗らないかもだけど、カルノさんの分も皆で楽しい思い出を作っていこう!」
クラスが少しざわざわとしたが、すぐに明るい雰囲気が戻る。
拍手が響く。耳障りでしかない。
「それじゃあ、みんな、自己紹介いってみよう!」
クラスの人が一人ずつ、立って自己紹介していく。
つまらない時間だ。
適当に聞いて流していると、俺の番が来た。
「はい…!じゃあ次の人、どうぞ!」
「マルス・アンドラウドだ。よろしく頼む」
本来存在しないはずの人物の名前が、このクラスに刻まれた――。




