魔力で変わるもの
夜の森――、静寂が森全体を包み込んでいる。その中で俺とサラムは森の中を突き進んでいく。
「サラム。俺とお前で初めての任務と行くぞ」
俺はサラムに顔を向ける。
サラムは緊張しているのか若干不安な表情を浮かべる。
「初めての任務…?」
サラムは目線を鋭くし、俺を真っ直ぐに見る。
任務…とは言っても何をするかはまだ具体的には決めてないのだが…
「そうだな…俺は世界を支配する。そのためにまず必要はことはなにか」
サラムは「う〜ん」と悩んでなにかをひらめく。
「相手を殺します!!」
コイツ、意外と…
「……それは当たり前だ」
「あぁ…そうですね」
ほんとに元魔王軍かと疑ってしまった…コイツ大丈夫か?
「…まずは、勇者軍と魔王軍をぶつけさせる」
「何年もぶつかってなかった種族なのに…可能なのですか?余程の理由が無ければ、両者動きませんよ」
「魔族と人間では、魔力の質が違うから、使える魔法と使えない魔法が両者にあるのは分かるな?」
「えぇ、もちろんです。人間…つまり勇者達は、神族からの魔力を借りて使っている状態。何かを創り出したり、聖の力を使う事に長けている。一方で魔族は神族に対抗するために、上級魔族達が破滅させるための力の魔力を魔族達に借りさせ、使わせる事に長けていて、聖なる力と拮抗する力を持つ…ですよね?」
「その通りだ。だから、ここ数日でじっくり時間をかけて、魔族の魔力波長を人間界にばら撒かせる。もちろん、目立たないようにな」
俺は森の中の湖に指を入れる。
その瞬間――。湖の水は黒く濁り、中で魚が死んでいく。俺の持つ魔族の魔力により水を破壊していく。
「魔族の魔力をもう使いこなしているのですか、ミロク様…」
サラムは驚いた様子で湖を眺める。
「あぁ、レヴィアから貰った魔族の魔力…これを俺の魔法で何千、何万倍にも増やして使っているんだ…」
「えぇ…そんなに増やせるものなのですか…?」
「あぁ、使うのが難しい上級魔法ももう使用出来る…それぐらいしないと、勇者や魔王には勝てないだろう」
「そう…ですね」
恐らく、この世界で神族と魔族の魔力を両方持つ奴は存在しないだろう。
これは十四歳の時に習ったが、一般的な魔力量にその数十〜数百の魔力を持っていたとしても、違う魔力同士を体内で使い分けることは不可能らしい。神族と魔族の力の波長が合わずに逆に魔力を消しちゃうんだとか…
まぁ、俺は常人の数万倍の魔力を持っているから、違う魔力波長が混ざり合うことはない。魔力で魔力を隔てることが出来るのだ。
「流石、ミロク様ですね。私はそういう細かい魔力を扱うのが苦手なんですが。どうすれば?」
そういえば来る段階でサラムが言っていたか…最初俺と戦いになった時も剣で戦っていた…
「そうか…苦手なのか。ならば、もっとシンプルな作戦で行こう。その方が速い」
俺は手に魔力を極限まで圧縮させる。
溜める圧が高すぎて周りの葉っぱも、俺の手の周りに溜まっていく。
「一体なにをするつもりなのですか…?」
「今、ここで魔族のせいということにして大戦争を起こす…!」
サラムはポカンとした表情を浮かべる。
「ちょ…ちょと!どうやってですか…?今この陣営には俺しか魔族は…」
「察しが悪いなサラム…俺は魔族の魔力を使えるんだ…つまり魔族の魔力を俺が使えばいい」
「しかし…ミロク様の魔法だと上級魔族を越える力を出してしまう…そんな似たようなことが出来るのはレヴィアだけ…あの人はそんなことわざわざしないから犯人が特定出来ず、未解決事件になってしまいます…」
俺は魔力を手から消す。
集まっていた力が一気に解け、周りの圧は消える。
「それも…そうか。では、どうするか?」
サラムは考える仕草をする。
「あっ!なら、もうミロク軍として、勇者軍と魔王軍に宣戦布告の手紙を送るというのはどうでしょう?」
「つまり、一気に勇者軍と魔王軍と戦うということか…?少なくともどっちかの軍の数が大幅に減らないと流石に俺でも分が悪いぞ。お前が居ても二人だ…このままじゃ勝算は薄い」
「というか…そもそもがミロク様に勝算が無いかと…」
「なんだと…?」
「あぁ!!いやいや!ミロク様が弱い言ってるわけではありせんのですが……」
サラムは何か考えるようにして顔を背ける。
「魔王レヴィアも…勇者エクスも…魔法の力がまだ未知数な上に…圧倒的な力を持つ二人が戦争するとなると…きっと他の国の強者も来るはず…その状態で世界に宣戦布告をしているミロク様が入ってしまえば…きっと勝てないです。なにより…自分のこの魔法が…レヴィアのその力を見抜いています」
「……そうか…それがお前の意見か…」
確かに…その意見は間違っていない。俺は少々急ぎすぎたようだ…
「そうだな…一度この作戦は諦めよう…勝算は無いかもしれない…だから――」
「お前は一旦魔王城に戻っていろ。この世界を巻き込んだ戦争…それが始まる時、またここで集まろう、これは俺達の最終目標だ」
「はい!」
サラムは敬礼をし、魔王城へと帰っていった。
「ふぅ…疲れた」
かなり眠かったので、俺は木に寄りかかって寝ることにした。睡魔が俺の意識をゆっくりと鎮めていく。
「ん…ここは…」
意識が途切れた時、俺の前には黒い空間が浮かんできた。黒いだけだが、ぼやけて見える。
「――よくも、やってくれたわね」
橙色の髪をした女性――女神が俺の前に再び現れた。
十五年ぶり…か。久しぶりに見たが、その姿を忘れることはない。
「今更、なんだと言うんだ。今、お前は俺に従わらされているんだぞ。こんな夢に出たところで何をするって言うんだ」
「私の力を支配に使うなんてことは許されない。今ならまだ間に合う。あなたの意思は強すぎてる。いつか、私の力無しでも、意思を魔力にするだけで、今の何万倍以上の魔力を手に入れることになる」
「なにが間に合うんだ。俺がこの戦争で死ぬのを止めるかのような言い草だな…」
女神はキッと俺を睨む。
「私は未来を見れる。ハッキリ言わせてもらうと、あなたは死ぬわ。魔力そのもの…つまり、この世界の秩序となり、あなたという存在が消えることになる」
「へぇ…世界の秩序…悪くないじゃないか。俺が世界の裏に立つ、魔力という存在そのもの…秩序を示す者の最期としてはむしろ相応しい結末だとは思わないか?」
俺は女神を見て煽るように嘲笑う。
「それに、そんな結末は存在しないように塗り替えさせてもらう。いつか…な」
「結末の塗り替え…まさか神族でさえ辿り着かないとされてる因果律の完全掌握の魔法を習得するの? 無理な話だとは思うけど…勇者でさえ、因果律の完全掌握は出来てないわよ」
俺は女神の後ろに立って喋りかける。
「これさえも、俺の書き換える前の結末に過ぎない…」
俺はそう言い、女神の前から姿を消す。
――チュンチュン。
鳥の鳴き声。そして朝の光が木の陰から差し込んで来ていた。
姿を消した時には俺は夢から目を覚ましていた。いや、厳密にはあれは夢だったのか――。まぁ、そんなことはどうでもいい。
朝日を見ながら、俺は勇者学園に登校する準備を始めた――。




