メステイスマリアに行くためには
ネオンが照らす街路を歩きながら、俺達は先程の店を後にした。
夜のネオミシスカは相変わらず騒がしい。
笑い声、怒号、酒の匂い、そして金の匂い。
まるでこの街そのものが巨大な賭場のようだ。
「……で?」
前を歩いていたミナノが腕を組んだまま振り返る。
「説明してもらえますか?」
ミナノの視線は俺ではなく――
俺の隣に立つ少女へ向けられていた。
白銀の長い髪。
少し不安げな表情を浮かべている。
レフィアだ。
「え……」
レフィアは少し肩をすくめる。
「この人……」
ミナノは俺を見る。
「大丈夫なんですか?こんな簡単に味方にして…元ディアマテ解放教の人だったんじゃ…」
俺は肩をすくめる。
ミナノの意見も間違ってはいない…
「まぁ仕方ない、戦力が足りないのだし…でもまぁ大丈夫だ。レフィアからはそんな感じがする」
そしてレフィアの方を見る。
「な?」
レフィアは小さく頷いた。
「え…えぇ…ありがとう…ございます」
サラムがニヤリと笑う。
「まぁまぁエム。ミロク様…カネダが大丈夫って言うなら大丈夫だろ」
ミナノは少しだけため息をつく。
「……分かりました」
そしてレフィアを見る。
「それで?あなたはネオミシスカの事情に詳しいんですよね」
レフィアはゆっくり頷いた。
「えぇ……少しだけなら」
「じゃあ教えてください」
ミナノは真剣な顔で言う。
「メステイスマリアについて」
その名前が出た瞬間、レフィアの表情が少しだけ変わった。
「……分かったわ」
レフィアはネオンの街を見上げる。
「まず、ネオミシスカがどうして世界の財産の二割を管理しているのか…」
「それは一人の男が関係しているわ…」
サラムが眉を上げる。
「一人?」
レフィアは頷く。
「えぇ…」
「この街のカジノリーダー兼ゲームマスター――」
少し間を置いて言う。
「カミス・ネオン」
その名前を聞くが、誰も反応は示さない。
「カミス・ネオン…?」
「聞いたことないな」
レフィアは続ける。
「彼は世界中のカジノで稼いだ莫大なお金を、様々な国へ供給しているの」
「人生の勝ち組じゃん…すげぇ」
「つまり、ネオミシスカは彼の資金で動いているようなものなのよ」
ミナノが驚いた顔をする。
「……一人で?」
「えぇ」
サラムが口笛を吹く。
「そりゃすげぇな」
レフィアはさらに言う。
「カミス・ネオンは時々、メステイスマリアにも姿を現すわ」
「だけど――」
レフィアは少し声を落とす。
「彼のゲームは……普通じゃないのよ」
「普通じゃない?」
俺は聞き返す。
レフィアは頷く。
「まるで……未来の展開を知っているかのようにゲームを進めるの」
サラムが眉をひそめる。
「未来?」
「そう…予言のようなこともしているわ」
レフィアは続ける。
「だから彼はこう呼ばれています」
「未来の戦略家」
ネオンの光がレフィアの瞳に映る。
「もちろん、不正を疑う人も多いわ」
「だけど――」
「誰が見ても、不正には見えない」
ミナノが小さく呟く。
「つまり……」
俺は腕を組みネオミシスカの先を睨む。
「完全な実力にしか見えないってことか」
レフィアは頷く。
その時、サラムが小さく笑った。
「……カネダ」
「俺達、同じこと考えてません?」
俺は小さく笑う。
「あぁ」
「――時間遡行だろ?」
ミナノが目を見開く。
「確かに…時間を遡ってるから未来が分かる……ってことですか?」
俺は夜空を見上げる。
「可能性はある」
だが――。
俺は眉をひそめる。
「妙なのだ…」
サラムが首を傾げる。
「なにがです?」
「時間遡行は使いすぎれば魔力になって消える…そう言われているはず」
「そんな術を、何度も使えるはずがないがな…」
ネオンの街を眺めながら、俺はため息をつく。
「……どうやってる?」
「確かに…気になりますね」
しばらく沈黙が流れる。
そしてミナノが咳払いした。
「その話は後にしましょう。今はメステイスマリアです」
レフィアは頷いた。
「そうね…」
「メステイスマリアに行くためには条件がある」
サラムが目を輝かせる。
「おっ、やっと本題か」
レフィアは説明する。
「この街の遊戯――」
「ギルティ・ジャッジとクライム・チェイス。そのどちらかに参加する必要があるわ」
「参加…どこでするんですか?」
レフィアは続ける。
「参加とは言っても、それだけではメステイスマリアに入ることはできないわ」
俺は眉を上げる。
「ほう?」
「条件があるのよ」
レフィアは指を立てる。
「ギルティ・ジャッジ側の場合――」
「懸賞金が十万円以上賭けられていること…」
サラムが口を開ける。
「うわ…結構高ぇな」
レフィアはさらに言う。
「クライム・チェイス側の場合は――」
「五万ポイント以上を持っていること。これが条件よ」
ミナノはレフィアを見る。
「つまり……実績が無いと入れない。そういうことですか?」
「そうよ」
レフィアは言う。
「メステイスマリアは、この街の上位プレイヤーしか入れない場所なの」
俺は小さく笑う。
「なるほど…タダで行けるほど甘くはないか…面白い」
「そういえば…どうやって参加する?」
レフィアはネオン街の奥を指差した。
「あそこです」
遠くに、少し異様な建物が見える。
赤いネオンの看板。
人の出入りが激しい場所。
「参加表明所か…」
サラムが腕を回す。
「よし!いよいよゲームか」
レフィアは少し緊張した顔で言う。
「でも……」
「参加するには、ゲームマスターのカミスに認めてもらう必要があるわ」
「審査があるってことですね」
「そう…どれだけこのゲームに参加する資格があるか…それを見られる」
俺は鼻で笑う。
「ふん…面白い」
そして歩き出す。
「行くぞ」
ネオンの光の中へと進む。
「メステイスマリアに行くための――」
「最初のゲームだ」
俺達はレフィアに案内され、ネオミシスカの参加表明所へ向かうのだった――。




