全ては手の中に
――ネオンの喧騒を抜け、俺達は一つの建物の前に立っていた。
「……ここが」
赤い光に照らされた看板。
人の出入りは激しく、入口には既に列ができている。
「参加表明所……」
サラム、今はエスが口元を緩める。
「思ったより人多いな…」
「そりゃね…メステイスマリアに入るため、皆必死なのよ」
レフィアが辺りを観察するように見る。
そして中に入ると、空気が一変した。
ざわめき、殺気。
そして――期待。
「ここに居る全員が、同じ目的ってわけか…」
ミナノ――いや、エムが小さく呟く。
「メステイスマリアへの道……」
俺達は受付へと向かう。
「ゲームに参加したい」
すると係の者が無機質に言った。
「参加希望ですね。こちらへどうぞ」
俺達はそのまま案内され、奥の一室へと通される。
扉を開け、そこに居たのは――。
「……ほう」
椅子に座る一人の男。
ワイン色のスーツに金のネクタイ。
黒のドミノマスクを着けているが、その上からでも分かるくらい、整いすぎた顔立ちをしている。
だが――どこか“人間ではない”違和感がその男にはあった。
レフィアが小さく呟く。
「魔法人形ね…」
「なるほど…」
男は静かに微笑んだ。
ミステリアスな雰囲気を漂わせていてどこか優しげな印象も受ける。
「初めまして」
「参加希望者の皆様」
その声は落ち着いていて、どこか余裕があった。
「私はこの場の管理を任されている存在」
「その名は――」
わずかに目を細める。
「カミス・ネオン」
部屋の空気が一瞬で張り詰める。
エスがカミスの魔法人形をじっと見る。
「本人……じゃねぇよな?」
カミスは自身の体を差す。
「ええ、これは魔法人形です」
「ですが――思考回路は私本人と同一…なので会話も判断も、すべて本体と同じです」
俺は笑う。
「便利なものだな」
「では――始めましょう」
カミスは指を組んだ。
「あなた方に、いくつか質問をします」
「それに答えていただきます」
静寂が広がる。
「一つ目…」
カミスの視線がまっすぐこちらへ向く。
「なぜ、このゲームに参加したいのか…理由を教えてください」
一瞬の間。
俺は一歩前に出た。
「代表して答えよう」
「構いません」
カミスは頷く。
俺は口を開いた。
「メステイスマリアに行くため…」
「そして――」
エムを見る。
「こいつの姉に会う。元の場所に連れ戻し、平和に暮らさせる…それが理由だ」
カミスは静かに頷いた。
「なるほど」
「目的は明確ですね…」
「では二つ目――」
わずかに空気が重くなる。
「人を殺すことをどう思いますか?」
エスが目を細める。
エムは黙ったまま。
俺が回答する。
「手段だ」
カミスの目がわずかに揺れる。
「ほう?なんの?」
「頂点に立つためのな」
静寂。
そして――。
「では三つ目――」
カミスはゆっくりと口を開く。
「なぜ、正体を隠しているのですか?」
その瞬間、空気が凍った。
俺の思考は一瞬止まる。
「……なに?」
「えぇ…」
エスは明らかに動揺する。
カミスはため息をついた。
「分からないとでも思いましたか?店の中や路地裏でコソコソと姿を変えて…」
「もう終わりね…」
レフィアは半ば諦め気味で姿勢を崩す。
「この街で嘘をつくのは――」
カミスは手を机に置く。
「ハサミの前に紙の盾を構えるようなものです――」
「無意味なのですよ…」
カミスは立ち上がる。
「結論を言いましょう…」
「あなた方は――不合格です」
エスが眉をひそめる。
「はぁ?」
カミスは淡々と続ける。
「真正面から戦う覚悟がない者に――」
「殺し合いの資格はありません」
「そして――」
冷たい視線。
「その程度の覚悟で目指す頂点に価値はない…魅力のかけらも無いんですよ」
――その瞬間。
「……ほう」
俺は小さく笑う。
一歩前に出る。
そして――。
剣を抜く。
カミスの眉がわずかに動く。
「何のつもりです?」
俺は剣を向けたまま言う。
「勘違いしているな…」
俺は一歩、また一歩と近づく。
「嘘も――」
「殺し合いも――」
「俺の前では“無”に等しい」
カミスの視線が鋭くなる。
「……続けてください」
「人を殺すことも、嘘をつくことも」
「俺にとっては全部ただの手段だ」
「そして――」
剣先をわずかに上げる。
「その手段を邪魔する奴は」
「全部、踏み台だ」
「踏み台……?」
「一歩一歩の踏み台が――」
「頂点を支える経験になる」
そして――。
「なら見せてやる」
俺は仮面に手をかけた。
「本物をな」
仮面が外れ、変装が解ける。
「――っ!?」
エムとエスがわずかに驚く。
そこに立っていたのは――。
「ミロク・プリンス…!分かりづらかったが…やはり君だったのか…!」
空気が変わる。
カミスは数秒、沈黙した後――。
「……はは」
そして。
「はははははははっ!!」
カミスは高らかに笑った。
「面白い……!」
目を細める。
「こんな人間に会うのは初めてだ」
カミスは椅子に座り直す。
「いいでしょう…」
「他の参加者の対応が終わり次第――」
「本体と会わせます」
エスがニヤリと笑う。
「マジかよ!てかもう俺達正体隠す必要ないな…」
「確かに…」
エス、エム…サラムとミナノは本当の姿を現す。
「それじゃあ…私達は合格ということですか?」
カミスは指を振る。
「いや…そう簡単には行かない…なんせこれは不合格と決めた後に言われたこと…本来は試験外の話にしかならない…だから――」
「あなたが“私を納得させることが出来れば”」
「ゲーム参加を認めましょう…ミロク・プリンス」
静寂の中。
俺は剣を収めた。
「なるほど…いいだろう。お前の実力を是非とも見せてみろ」
「やはりあなたは面白い…」
ネオンの光が窓から差し込む。
「全部――」
ネオミシスカだろうが、勇者だろうが、魔王だろうが――。
「手の中に収めてやる…!」
ネオミシスカの中枢へ向けて――。
俺達は道を開いていく――。




