無駄な交流
――やがて自己紹介が終わり、今日は解散となる。本格的な授業は明日からだろうか…面倒くさい。
廊下では沢山の生徒が話し合っている。
交友などくだらない。人との関係を築く。それ自体は素晴らしいことだ。
だが、結局。交友は交友の枠に過ぎない。支配こそが俺の無制限の枠だと思っている。
「ねぇねぇ!」
後ろから急に話しかけられる。
「ん?」
俺の前には俺のハンカチを持っている女子生徒が居た。髪色は紺色で、目は星のようだ。
走ってきたのか少し息を荒くしている。
「ハンカチ落としたよ?」
「そうか…すまない。ありがとう」
なんで俺のハンカチを…と思ったが、そういえばこの子は俺のクラスに居た気がする。
「えっとマルスくんだったよね? 私はメノン・フライメド!よろしくね」
手を前に出してくる。俺は繋ぎたく無いのだが、しょうがなく繋ぐことにした。
「あぁ、よろしく頼む」
全く警戒心が無い。勇者の素質はなさそうだ。それにしても、積極的なタイプで苦手だ。
「マルスくんはどんな魔法が得意なの?」
あまり情報の開示はしたくないところだが仕方なく答えることにする。どうせ見せることにはなるし。
「炎魔法だな。一番研究し尽くされているし、扱いやすいからな」
「炎魔法!単純だけど火力ならピカイチで強いくらいの魔法だね! 私はヒーラーメインで募集したの!一応…攻撃魔法は流星群を使えるんだけど…」
流星群と言えば、この世界では概念魔法を除いた最上級魔法と呼ばれている。モノによっては都市を吹き飛ばす程の力があるみたいだが。俺の魔力量で解き放ったらどうなるかが楽しみだ…。
「私の流星群で降らせる星の質量が軽すぎてね…上空に発生させた時点で崩れるの…だからヒーラー役を選んだんだよね〜。元から医者の家系だし、回復魔法が得意なんだよね」
最上級魔法は扱うだけならとてつもない努力を積まないとならない。本来ならその魔法だけを努力しないと使えないレベルだ。そうなっても仕方ないと言えば仕方ない。
「ほう…そうなのか…あぁそれと俺はこれから用事があるから帰る。また明日会おう」
「うん!分かった!バイバイ!」
後ろでメノンが手を振っている。特に気にしないが。
俺は別の用事がある。
学園周りの森へ俺は再び来る。
「よかった。まだ起きてない」
朝に気絶させた警備員だ。コイツは少し使い道がある。
俺はその場でまた姿を変える。
――今度は性別も。
髪色は白くなり、長くなる。そして、魔族特有の赤黒い目。胸を少し大きくし、声色も変える。これで魔族のような見た目になった。
「うーん…俺って結構こういうの得意なのかもなー!」
この状態で俺は魔王城前へと空間移動する。
辺りには黒い服を着た魔族が沢山居る。
「ねぇねぇ。城の前で装備も何もない人間の兵が倒れ込んでたんだけどどうする?」
俺は紫色の髪をした青年の魔族へと話しかける。その魔族は俺を少し不思議そうな顔で見つめてくる。
顔見知りじゃないと流石にキツイか…?
「ん〜…ロッドさんに報告だな。頼んだわ。それと、お前と喋るの初めてだよな?俺はサラム・メズンだ」
「私はサナ・グランド。実はまだ新人なの。よろしく」
女性の立ち振る舞いというのは難しい。少しずつ勉強しないとだな。
「サナって言うのか。あ〜新人って言ってたけど…そしたらロッドさんの場所教えねぇと分かんねぇよな。着いてきてくれ」
俺はサラムの後ろをついて行く。
廊下には骸骨の飾りに、松明の光だけが、廊下を照らしている。
少し廊下を進むと、部屋が見えた。
「ここがロッドさんの部屋だ。新人なら挨拶しとけよ。俺は作業に戻るから」
そう言いサラムは廊下を戻っていく。
「はーい」
――コンコン。
俺はロッドという奴の居る部屋のドアを叩く。
「失礼します。新人のサナです。人間が城前に倒れてたんですがどうすればいいですか?」
部屋の中には黒い髪をして後ろで髪を束ねている男性が居た。漆黒の目をしており、俺の手に抱えてる人間を見る。
「あ〜…うん。そこぉ、置いておいてぇ…」
マイペースな喋り方をしてくる。ちょっと面倒くさい。
「分かりました」
「それとぉ、君ぃ…えっとぉ…サナ?新人って言ってたよねぇ? 魔王レヴィア様に挨拶しに行ったのかなぁ?」
ロッドは机に頬杖をついてゆっくりと喋りかけてくる。
「いえ、まだです。人間を届けるついでに、どうやってレヴィア様の部屋に行けばいいかも聞こうと思いまして。教えてくれませんか?」
「う〜ん…ちょっとぉ、忙しいから…サラムに聞いてくんないぃ?」
こんなマイペースなやつがさん付けだなんて俺は思わない。魔力量は隠されているのかどれほどの力量を持つのか全く分からない。
そもそも、魔王城に来たのは魔王軍を裏で操作するために急遽、来たからこのロッドがどういう立場なのかも分からない。魔王『レヴィア・サタム』は流石に分かるが、細かい奴らは分からない。
「分かりました。では、失礼します」
俺は部屋のドアを閉めてサラムの所へ戻る。
「ねぇねぇ、サラム。レヴィア様の所に案内してくれない?ロッドさん忙しいみたいで…サラムが案内してくれるって言うから」
するとサラムの顔が少し青くなる。
「うへぇ〜…あの人やってくれたなぁ…殆ど俺にやらせるし…。まぁ、いいや。着いてきてくれ」
サラムは城の前にある一番デカい扉を開ける。
ゴゴゴという音と共に扉が開く。
「さっ。この先だ。さっさと挨拶行ってきな」
「ありがとね〜」
扉の先には長い階段がある。そこの階段からはとてつもないオーラが放たれている。普通の人間や魔族ならこのオーラだけで失神しそうだ。
俺は階段を一歩ずつ歩いて登っていく。
やがてドアが見えた。
俺はドアに手をかけ、開けた先には――。
玉座に座る、黒銀の髪の女。
深紅の瞳が、真っ直ぐこちらを射抜いた。
「……面白い匂いがするなぁ。新人」
この場の空気が凍る。
刺すような圧。
「名を言ってみろ」
俺は微笑む。
「サナ・グランドです。レヴィア様」
その瞬間。
魔王の目が、わずかに細まった。
「嘘の匂いがする…」
――その言葉は俺の心に確かな響きを与えた。




