第八話
遅くなりました。
ユージン、頑張る。
嫌だ嫌だと思うものは案外早くやってくるもので、女好きのご領主様との夕食会がやってきてしまいました。領主がいわゆるお誕生日席に座り、私の向かいには村長さんの奥様、そしてその左隣(私から見て)は村長さん。
さて、問題です。私の左隣に座り、女好きのご領主様とにこやかに堂々と話している人は誰でしょう。正解は?
じゃじゃーん!いつも他の人に不愛想で必要な時すらしゃべるかどうかなユージン君です!
・・・ビックリだよ。何度も見間違いかと思って目をこすってしまった。それで領主に
「おやおや、新婚さんなだけあって寝不足かな?」
とかセクハラ攻撃を受けたよ。それすらもユージンが軽く流してくれました。
「ええ、ひとつ前の仕事からこの村の依頼まで期間があまり無かったものですから、妻には徹夜で調べ物をしてもらいましたので。それで、大変申し訳ないのですが、なるべく早い時間に退席させていただきたいのです。」
「そう言えば、明日も早いと聞いたが。」
「はい。明日は日の出とともに山へ入りたいと思っています。」
「そうか。その間、奥方は私がもてなしていよう。」
いやいや、旦那(仮)がいない間に奥さん(仮)に近寄ろうとか、ほんと節操なしだな、この領主。
「いえ。妻はわたくしと共に山へ向かいますので、ご領主様にご迷惑をかけることはございません。」
「奥方は冒険者ではなく、秘書と聞いたぞ?共に山へ入るのは危険ではないのか?」
「そうですね。妻に身を守るすべはございません。ですが、妻がどうしてもわたくしと離れたくないと申しますので、仕事中はいつも結界を張り、妻はわたくしの傍で仕事を見ているのです。」
ユージンが照れたように頭をかき、顔を赤くしてそう言った。私がユージンが大好きすぎて困るみたいな。え?そういう設定なの?まあ、ここで否定したらおかしいし、私は今のところ一言もしゃべってないので、このままやり過ごそうと思う。
ちなみに、私は今薄いベールをかぶっている。女好きなご領主様は好みの女性だと無理やり自分のものにしようとするのだそうだ。ちょっと誰か制裁してやって。そんなわけで万一私が好みのタイプだったら困るので、顔を見せないようにしている。ご飯が食べづらいけど我慢するよ。
それからも、領主が私に話を振ってきてもユージンがさらりと間に入り、私が話さなくてもいいようにしてくれたり、領主が私の顔を無理やり見ようとしてもユージンがやんわり止めてくれたりして、気疲れしかない夕食会が終わった。正直、仕事中以外でこんなにユージンが頼もしかったのは初めてだ。
「ユージン。領主から私を守ってくれてありがとう。」
「当然。あんな奴に神奈の顔も見せたくないし、声だって聞かせたくない。」
「私、ユージンがあんなにスラスラ笑顔でしゃべってるの初めて見たんだけど。」
「太郎が権力者にはそれなりに対応しろって。練習した。」
太郎さん!ありがとう!!
「さて、それではこれから就寝しますが、絶対にこの荷物を並べた境界線からこちらに来ないように!」
結局ユージンと同じ布団で寝ることになってしまった。本当に不本意だけれど、これ以上いい方法がないのも事実。荷物を真ん中に置いても何とか二人布団からはみ出ないように工夫する。
「神奈、荷物邪魔。」
「来・な・い・よ・う・に!」
ものすごく不服そうな顔をしているユージンに念を押す。
「いい?ユージン。私とあなたは夫婦設定ですが、この部屋の中まで夫婦設定は必要ありません。秘書と雇い主?になるのかしら。まあ、そんな間柄にふさわしい距離を保つように!!」
「いつもくっついてるのに。」
「う、そ、それはユージンが・・・とにかく!駄目なの!!」
確かにいつもくっついてはいるけど、同じ家で暮らしてるけど、一緒に寝たことなんて一度もないでしょうが。
時々思うんだ。ユージンは私をどうしたいのかと。ちゃんとおかしいとは思っているんだよ。姫抱っことかひざ抱っことか。秘書って言ってるのに扱いがもっと私的というか。なんだかお気に入りの玩具を誰にも取られたくない子供に似てると思ってたんだけど。それとは少し違うような気もする。
でも。私はこの世界の人間じゃないし、日本に帰るのだ。それ以上を考えたところで意味はない。だからほぼユージンの望むまま流されてきたんだけど、今回は流されない!ユージンは子供っぽいけど一応成人男性だ。私の貞操の危機は何が何でも回避する!
・・・・・
朝になって目が覚めた。何か、夢を見ていた気がする。ふと自分の胸を見つめ、ため息をついて、そのまま視線を下に向けるとおなかのあたりに腕が・・・。
うん?
今の私の状態は、横向きになって寝ている。自分の腕は目の前に二本ちゃんとある。じゃあ、この腕は誰?っていうかここどこだっけ?寝ぼけた頭がだんだんクリアになっていく。
「ちょ、ちょっとユージン!?」
そう、私の背後にいる可能性があるのはユージンしかいない。当のユージンはもう起きていたらしく、後ろを振り返ると、笑顔でこちらを見ていた。寝起きにいくら中身が残念とはいえ美形のドアップ、しかも笑顔とか、心臓に悪い!
「おはよう、神奈。」
「・・・おはよう、ユージン。」
うん。挨拶は大事だが。ちょっと起き上がりなさい、そこに正座しなさい。
「ユージン、荷物、どうしたの。」
「どけた。」
「境界線を越えるなって言ったわよね。」
「超えてない。無くしただけ。」
あー言えばこー言う!今度ばかりは流されない。きちんと叱っておかなくちゃ!
「それでも、私との約束を破ったことに変わりないわ。」
「・・・緊急事態。」
「え?」
「あいつ来た。部屋開けて覗くから。」
「どういうこと?」
よくよく話を聞くと、領主が部屋に来たらしい。マジですか。え?新婚さんの部屋に夜這い?ありえないでしょ。まあ、とにかく事実として来たようだ。ユージンの結界はこの部屋に張られたものだったので、部屋の中に入ることはできないけれど、部屋のドアを開けることはできるようにしたらしい。下手に警戒が強いと何かあると疑われる元になるからだそうだ。
ユージンも念のためその措置をしておいただけだったのだが、階段を上がってくる気配がしたので、慌てて私たちの間に会った荷物をどけて、仲睦まじい夫婦が抱き合って寝てる構図を作り上げたのだそうだ。そして、ドアは開き、私たちの様子を見た領主は部屋に入ってこられず(入ってこようとしたの!?)大人しく帰っていったそうだ。
「怖っ!!領主怖っ!!あ、もしかして、たちの悪いのって、領主のこと?」
「うん。」
「村の人たちじゃ防げないって、逆らえないってこと?」
「うん。」
「・・・全然いい領主じゃないじゃない。とりあえず、ギルドに帰ったらこの領主のことも含めての報告にしましょう。・・・怒って、ごめんなさい。」
「ううん。」
部屋から出て、この家の人に朝食を用意してもらった。わざわざ早朝に起こしてしまって申し訳ないと思ったのだけれど、日照時間の短いこの村では朝日が昇る前から起きて仕事を始めるらしいので、別段構わないそうだ。そんな話をこのうちの女性としていても、目線が胸のほうに行ってしまう。今日は朝からおかしい。
外に出ても、女性を見るたびに胸のあたりを気づくと見ていて、まさか、領主に毒されて、痴女になったしまったのだろうかと心配になった。結局この日一日だけでこの現象は起きなくなったのだが、もしかすると忘れてしまった夢はバストアップのための方法だったのかもしれない。寝ぼけているうちに頑張って夢を思い出していれば今頃は!!ユージンがちょっぴり憎らしくなった。
領主サイッテー。
神奈の見た夢はそのうち明かされます。決してバストアップの方法の夢ではないです(笑)
お読みいただきありがとうございました




