第七話
応接室に通され、椅子に腰かけると(まあ、私はユージンの膝の上だが)、村長さんは話を切り出した。ほんと気にしないでくれて助かる!
「改めまして、この度の無茶な依頼を受けてくださり、誠にありがとうございます。村の者にはクッマーンのことは内密にしておりますので、お二方は新婚旅行でこの村に来られたということになっています。」
「は?」
いけない。つい、仕事モードが取れてしまった。村長さんには聞こえていなかったようで、そのまま話し続ける。
「次郎殿からも部屋は一つで構わないと伺っておりますし、アシカサンに乗って来てくださったのも好都合です。」
あの筋肉オヤジに任せたのが間違いだった。帰ったら猛抗議だな。なるほど、村長さんは私たちが結婚間近なバカップルに見えてるってことか。だから私たちの格好に突っ込まないのか。それにしてもアシカさんが好都合ってなんだろ?到着が早かったってこと?
「あの」
「実は、ご領主様が今日この村にお越しになるのです。ギルドに依頼を出したことで、生活をするにも困っているのかと、心配して視察に来てくださるそうなのです。本来ですと、このような依頼を受けてくださったお二方にはわが家にお泊りいただくのが礼儀なのですが、ご領主様が来られることになりますと、申し訳ないのですが、その、ご領主様を優先と申しますか、村長の家でもてなすのが慣例となっておりまして」
口をはさむ暇もないなあ。
「お二方には別の家にお部屋を用意いたしました。あいにく狭い村ですので宿屋などもなく、民家の一室で申し訳ございません。それと、そのご領主様はとても良い領主様なのですが、、、あの、その、、、とても女性が好きな方でして」
「はあ?」
「で、ですから、まだご結婚はなさっていないようですが、お二方にはご夫婦としてご領主様にお会いしていただきたいのです。」
グッと私のお腹のあたりに回っているユージンの腕の力が強まる。ちょっと苦しい。ええと、つまり、女好きな領主が私にちょっかいを出してこないためにも、ユージンと夫婦としてふるまった方がいいってこと?いや、私たちが領主に会う必要はないよね。
「あの、少しよろしいですか?」
「ご領主様が到着なさるまであまり時間がないので手短にお願いします。」
「なぜわたくしたちが領主様にお会いしなければならないのでしょうか。」
「ご領主様たってのご希望ですので。領地を救おうとしてくれてる冒険者にぜひ会って激励をしたいと。」
激励とかいらないわ。そんなことより部屋を二つください。
「いえ、わたくしたちは」
「では、夕食の際にご領主様とご同席していただきますので。それまでしばしお部屋でご休憩ください。誰か!お二方をお部屋へご案内しなさい。」
パンパンと手を叩き、村の人を呼ぶと、私たちはその人に促されて村長さんの家を追い出された。着いた先は普通の家の2階で2つ部屋があるうちの一つだった。チラ見してみたが、隣の部屋は物置になっていて、いろんなものが詰め込まれてあった。人は泊まれそうにない。さて、どうするべきか。
「ユージン、一つ聞きたいんだけど。」
「何?神奈。」
「アシカさんってどういう時に乗るものなの?」
「うーん、自分の花嫁とか花婿を見せびらかせたい人が、ハネムーンの時に使う乗り物?」
「どういうこと?」
「アシカサンは速い。」
「うん。」
「一刻も早く二人だけになりたいから速さは重要。それと、アシカサンは馬車とかと違って屋根とか壁とかないから、周りが良く見えるし周りからも良く見える。」
「それってつまり、ここに来る道中、私たちはそういう頭の痛いバカップルな新婚さんだと思われてたってこと?」
「神奈は俺のだから誰も手を出しちゃダメ。だからアシカサンに乗った。最近ギルドにいる奴ら忘れてる。」
「ユージン、『秘書』って言葉が抜けてるわ。まあ、確かに最近ユージンと一緒にいても勧誘を受けるようになったけどね。何もここまでずっと見ず知らずの人にまで『ユージンの秘書』を宣伝する必要はなかったでしょ!?」
これならまだ馬車の中でひざ抱っこの方がましだったよ。馬車の中だけいたたまれない思いをすればよかったんだもの。思い出したくないけど、ものすごい人数をアシカさんに乗って追い越してきたよね。
「そう言えば、アシカさんをみんな避けるって・・」
「愛し合う二人を邪魔しちゃいけない」
馬に蹴られると同じ意味か!!何なの、この公開羞恥プレイ!!
「相手のことしか見てない花嫁花婿に巻き込まれたくない。だから道を譲る。」
ああ、うん、それ聞いたら私だって、下手に関わり合いになりたくないから避けるよ。後悔先に立たずって言うけど、今まさにその状態だわ。自分で移動手段を手配しなかったことも、宿泊の手続きもしなかったことも全部自分の首を絞める結果になってる。
一応念のためにさっき案内をしてくれた人に聞いてみたんだけど、小さな村なので、他に空いている部屋はないそうだ。ここだって隣の部屋を見る限り、無理やり一部屋空けた感じだし。・・・仕方ない。そこそこの広さはあるし、荷物で境界線でも作って私の陣地にユージンが入ってこないようにしよう。
この部屋にはベッドがない。まあ、恐らく直前まで物置だったんだろうから仕方ないけど。布団で寝るのかな?床はただの板で土足で出入りしてるんだけど、ここにいきなり布団を引くの?それに、防寒対策が家にされていると言っても、物置まで万全ではないだろうし。雪山が近いだけあって、雪は降っていないけど、結構な寒さだ。夜になるともっと寒いよね。
そんなことを考えているとこの家の人が絨毯を抱えてきた。なるほど、この上は靴を脱げばいいのね。その次の人が布団を抱えてきた。広げた絨毯のど真ん中にその布団を広げる。次の人もその次の人も毛布やら布団やら持ってきたものを広げ、最後の人がぺこりと礼をして部屋を出ていった。
部屋に完成していたのは一つの寝床。・・・え?ちょ、ちょっと待て、一つ?いや、このサイズの布団ならもう一組作れるでしょ!慌ててさっきの人を捕まえてもう一組布団を!と言うと、その人は不思議そうに、布団は一つしかないと答えた。領主様とそのお付の人たちと私たちで予備の布団や毛布を全部使ってしまったのだそうだ。むしろ私たちが新婚で、その分一つ布団が浮いて間に合ったと言われた。
「・・・・そうだ。私、村の女性に一緒の布団で寝させてもらうよ。ユージンはここで寝ていいから。明日はクッマーンの討伐っていう大変な仕事なんだから、ユージンはゆっくり休まなきゃね。」
それぞれ絨毯の上に座り、持ってきた荷物を整理して、どうしようか考えてたら、ものすごくいい案が浮かんだ。そう、別に布団が一つだからと言ってユージンと二人で使うことはない。別の人、この村の女性と一緒に使わせてもらえばいいんだ。早速誰かに頼みに行こうと立ち上がると、同じく立ち上がったユージンに腕をグッと引かれ、ユージンの腕の中に倒れこむ。
「ゆ、ユージン、いきなり、危ないでしょ」
「ダメ。」
「は?駄目なのはユージン」
「ダメ。神奈は俺と一緒に寝る。」
「いや、一緒って」
「ここは太郎の村じゃない。危ない。」
「え?何が危ないの?」
「結界がない。何が起きるかわからない。俺はこの部屋だけなら結界張れる。神奈を守るのに一緒じゃなきゃダメ。」
知らなかった。太郎さんの村に結界が張られているなんて初めて聞いたよ。つまり、私が他の人の家に行っちゃうと守れないってことか。でも、結界がなくてもこの村の人たちは普通に暮らしてるよね。危ない事なんてないと思うけど。
「結界は寒さも防ぐ。結界ないと、神奈風邪ひく。それに夜にたちの悪いのが来る。村の奴らじゃ防げない。」
「たちの悪いって、クッマーン以外にも何か危ないのがいるの?でも、資料にはそんなこと書いてなかったけど。村の人たちだって危険じゃない。」
「村の奴らは平気。狙われるのは神奈。」
え。なにそれ。何で私が狙われるの?異世界から来たことに関係があるの?ユージンと一緒の布団に入るか、村の女性にお世話になるか。どちらの方が私にとって危険が高いのだろうか。
「・・・ユージン、布団の中にも境界線作るからね。そこからこっちに来たら怒るから!!」
貞操の危機より命の危険を取ろう。ユージンは言い聞かせれば、ある程度私の意見を尊重してくれる・・・はず。
村長さんはご領主様が来ることで慌てています。なので、神奈たちの話もほぼ聞いてません。
たちの悪いのは次回現れます(笑)
お読みいただきありがとうございました。




