第六話
さて、ただいま私の頑張ってひねり出した屁理屈を他の冒険者の方々へ説明中。
「というわけで、ギルドマスターはユージンに依頼を優先してくださったのです。一応、ユージンもレベル2になりましたが、わたくしがいない状態で依頼を受けるようなことがあれば、また底辺へ逆戻りです。」
「違いねー!!!ギャッハハハ!!!」
「っていうかぁ、そもそもユージンてイシクラがいなくちゃ依頼受けられないわよねぇ。」
「ギルドが一人の冒険者を優遇するのは歓迎しねえが、ユージンはなー。もう、仕方ないだろ。」
「そんなに猛反対するようなことでもないしね、報酬額は少ないし、セザン村は遠いし。」
「この報酬でタツカイヨオを探すのもなあ。クッマーンが出るかもしれないとか、いいことなしだぞ、この依頼。」
「クッマーンを倒せるなら、いい依頼じゃね?倒した分は冒険者の丸儲けだ。クッマーンは高く売れるからな。」
「倒せたら、だろ!?オレなんか食われないように逃げるのが精いっぱいだぜ。」
ふむ、そんなに反対意見もなさそうで安心だ。レベルを上げてもらった後の説明の方が大変そう。ああ、さっき笑ってたヤローが私が今こうしてユージンにひざ抱っこされることになった元凶。酒の入ったこいつがお酌しろとか、今晩つきあえとか、私に触ってこようとして、ユージンが一撃で沈めた相手だ。
「なあ、イシクラちゃん。そんな奴と組むのやめて、オレと組もうよ。」
「ユージンと組んだままでいいから、ちょこっと私の仕事も手伝ってくれない?依頼を受けるときに、私に有利なように交渉してほしいのよ。」
こういう人たちも増えた。まあ、ユージンがいつものように私の後ろから一睨みすると散っていくのだけれど。ユージン女の人にも容赦ないよなあ。
さて、早速セザン村へ出発するわけですが、この世界に来てあんまり遠出ってしたことないんだよね。移動手段って乗合馬車とかかなあ?まさか、馬車の中でひざ抱っことかないよね(汗)流石にこれ以上恥の上塗りはごめんなんだけど。
「ユージン、馬車ってどこで乗るの?」
「馬車は使わない。さっき神奈と離れた時に手配しておいた。」
ギルドの玄関を開けると、フラフープを首に下げた大きなアシカがそこにいた。え?何でアシカ?
「俺は最近神奈の国を勉強してる。」
「え?初耳なんだけど。」
「馬車は遅いし、乗り心地が良くない。このアシカサンは神奈の国の乗り物に近い。」
「アシカさん?」
このアシカが一体何の乗り物に近いというのだろうか。しかも、どこに乗るの?背中?でもなんか滑り落ちちゃいそうじゃない?
「アシカサンは魔獣だけど、大人しい奴だ。結界を張るから風も問題ない。」
「ユージン、ちょっとよくわからない。」
「実際に乗った方がわかる。」
ユージンは私を先にアシカに乗せた。そのあと自分がまたがり、私を横抱きにすると、自分の左足の上に私の足を乗せた。私のお尻はアシカの上なんだけど、すっごく柔らかくて座り心地がいい。私もまたがればいいのだけれど、スーツのスカートではちょっと難しい。恥ずかしい体制だけれど、これが一番安定するようだ。
「なるほどな、アシカサンか。考えたな、ユージン。」
次郎が笑いながらそう言う。先ほどまで私たちの周りにいた何人かのギルドの職員や冒険者たちも見送ってくれるようで、アシカに乗った私たちを見上げているんだけれど、苦笑い、爆笑、生暖かいまなざし、まともな見送りじゃないんだけど、どういうこと?
「動くよ、神奈。」
「あ、うん。では、行ってまいります。」
挨拶もそこそこにアシカが動き出す。・・・もんのすごく速いんですけど!!でもジェットコースターみたいに風を感じはしない。そうか、結界を張ってあるから風が通らないのか。イメージ的には車というより電車に近いかも。もしかすると、新幹線?それくらいの速さだ。でも新幹線とかと違ってガタンという揺れがない。乗ったことはないけど、リニアモーターカーみたいなものかな。線路を走っているのではなくて、アシカが床の上をスーッと滑っている感じ。実際は床の上じゃなくて、石とか草とかでこぼこしてる道の上なんだけど、このアシカ、痛くないんだろうか?
「ユージン、このスピードで歩いてる人とか轢いちゃわないの?」
「大丈夫。アシカサンの首輪には障害物を自分の後ろに転送する魔法がかけられてるから、ぶつからない。」
首輪って、フラフープにしか見えないんだけど、これなんだろうな。首に輪で、間違いじゃないし。
「それに、遠くにアシカサンが見えたら、大体の奴は道を譲る。」
「へえ。」
まあ、轢かれないと分かっていても、このスピードが迫ってくるのは怖いわよね。
「ユージン、確認だけど、セザン村に着いたら、まず宿に一泊する。そして、早朝からクッマーンの討伐ね。」
「うん。」
「それから、クッマーンを倒し次第、順次タツカイヨオを採取。」
「神奈がタツカイヨオを見つけるの、あの紙を使う?」
「うん、そのつもりよ。1つ1つに張り付けるから、時間がかかっちゃうんだけど。」
次郎がセザン村での宿泊の手続きをしてくれてたけれど、2泊しかしない予定になってる。最悪、タツカイヨオは1つでも取れればいい。もともとはクッマーンの討伐が目的なんだから。でもなるべくなら多く採取したい。セザン村が困窮しているのは本当のことだし。
「俺が魔法で紙を『複製』して、風で飛ばすから、時間はかからない。」
「そうなの?良かった。ありがとう、ユージン。」
こんな風にユージンと今回の細かい打ち合わせをしたり、時折横に避けてくれてる他の人から手を振られ、手振り返してみたり、そんなことを繰り返していたら、セザン村に着いた。馬車だと乗り継いだりして5日間くらいかかるみたいだけど、5時間くらいで着いたわね。
本当は依頼を受けるにあたって、移動方法や宿泊の手続きだって秘書の私がするべきことなんだけど、いきなりの遠出と次郎の無茶ぶりでそこまでできなかった。次回はちゃんと自分で手配できるようにしよう。
「ままー、あの二人。」
「しっ!指をさしちゃいけません。」
「こんな村に来るなんて、物好きだよな。」
「まあ、静かだけどさ。」
村に着いて、アシカを降りると、こちらを見てひそひそ言っている村の人たちの声が聞こえる。うん、最初の二人は何が言いたいかわかってるよ、アシカを降りた時から、またいつもの姫抱っこですからね。子供が指をさしたのもわかるよ、何であの人たちあんな恥ずかしい格好をしてるのって言いたいんだよね。うん、わかってるよ。子供に見なかったことにしてっていう大人対応を求めちゃいけないことも。
・・・私は仕事で来てるのだ。秘書なのだ。秘書秘書秘書。よし。恥ずかしさは振り切った!
ええと、なんだっけ。そうだ。セザン村の村長さんのところに行かなくちゃ。それにしても、さっきの物好きって声が聞こえたんだけど、依頼を受けたことかな?そんなことを考えていたら、村長さんのほうからやってきてくれた。
「ユージン殿と、カンナ殿ですな。お待ちしておりました。さあ、狭いところですが、わが家へお越しください。」
「ありがとうございます。」
「色々と予定外のことが起こりまして、家の中でお話を聞いていただけませんか。」
「わかりました。お邪魔させていただきます。」
村長さんは次郎から聞いているのだろう、この恥ずかしい格好については突っ込まずにいてくれた。それにしても、予定外のこと?悪い事じゃなければいいけれど。
アシカサンに乗った二人を見送った人たちが笑っていた理由は次回明らかになります。
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