第三話
衝撃(笑撃)の事実がもろもろ。
いつものように村を出て、午前中に依頼主たちへ挨拶回り。お腹もすいたし、さっき山道でモンスターを倒したときに手に入れたアイテムを売るためにギルドに向かう。
このアイテム分で今日のお昼代になるだろうか?持ってるアイテムは普通に売ることができるけど、依頼された品と違って買い取り金額は低いんだよね。依頼を受けられないユージンはこれで生活をしていたらしい。まあ、ユージンは強いから、モンスター倒すのも楽々だし、手に入れられるアイテムも他の冒険者より数が多い。ユージンだからできた生活方法かもしれない。
ギルドに入ると、
「おっ、イシクラー。今日も姫扱いか高貴だな!」
と全身筋肉のオヤジが大きい声で話しかけてきた。失礼、マッスルオヤジがでかい態度のでかい声で話しかけてきた。あれ?言い直したのに綺麗な言葉が使えなかったわ、おほほほほ。
こんなむさくるしいオヤジがこのギルドのほぼ不在のマスターである。なんか領地を持ってて、そこの管理に行ったり、どこかの城で兵の指導を頼まれたり、無性に暴れたくなり魔物がわんさかいる洞窟に突進して行ったりと忙しいので、ギルドにいることは少ない。
まだ2度くらいしか会ったことはないのだが、何しろうざい。そして人の神経を逆なでする。今だって私がふれてほしくないことをわざわざ大きい声で言うのだ。高貴だなんて嫌味までつけて。
姫扱い、そうこのオヤジが言う通り、私はほとんどの移動をユージンに姫抱っこされて移動している。いつからかと問われれば・・・初対面の時、山田さんの家を出てからだ。山田さんの家からユージンの家に行くまでのこと、正直に言えばあまり思い出したくない。
当然、いきなりのお姫様抱っこに驚き、拒否したら、『何で?』と定例文のように言われ、『恥ずかしいから』というと『俺は恥ずかしくない』と言われた。また手を繋ぐ等代案を出してみたが、受け入れてもらえず、恥ずかしいやら、頭を使うやら疲れたのだ。もう今ではお姫様抱っこにも慣れた。諦めが肝心だ、どうせ向こうの世界に帰るし、恥も外聞もないと思ってる。
そして、そのことを教訓に、ユージンの行動を否定するときは説得できる材料を持ってから挑もうと思った。絶対に『何で?』が返ってくるからだ。論破できなければ無駄に疲れることはわかったし。
さすがに挨拶回りに姫抱っこはよろしくないので、礼儀上好ましくないと言ったのだが、納得してもらえなかった。なので、歩き方を忘れる、足の筋力が衰える、いざという時に逃げられない等とりあえず適当な理由を片っ端から並べていったら、しぶしぶ承諾してくれた。してくれたのはいいが、何時から何時までを歩く時間にするかって返された。犬の散歩か!
まあ、そんな理由でギルドの中に入るときも、依頼を見てるときも姫抱っこだ。ギルドの人たちもユージンの行動に、最初は大変だねとか同情してくれたが、その反応が却って私をいたたまれなくしていると気づき、スルーしてくれるようになったのに。このオヤジはニヤニヤとからかうのだ。ほんとウザい。
「こんにちは、ギルドマスター様。」
「・・・・コンニチワ」
うん、ちょっと嫌嫌な感じは抜けないけど、ユージンもちゃんと挨拶したし、さっさとアイテムを売りに行こう。ユージンは基本的に愛想が悪い。いや、冗談じゃないんですよ、本当なんです。私にはそれはもう犬が尻尾を振り回さんばかりになついてるけど。山田さんにもそこそこなついてるけど。それ以外には不機嫌というか、あまり関心がないって言った方がいいのかな。
最初にギルドに来た時も誰にも挨拶しなかったしね。挨拶は社会人の基本でしょ、と思って躾けました。だって、ギルドで依頼を受けるんだもん、せめて受付の人には印象を良くしておかないと。
「待て、待て、イシクラ。ユージン。ちょっと話があるから、奥まで来い。」
嫌だ!全身全霊で拒否したいが、ここのギルドで仕事をさせてもらってる以上、ギルドマスターの命令は絶対なんだそうで。ほんとにほんっと~~に嫌だったのだけれど渋々付いていった。お腹すいたのに、ご飯にありつけるのはまだみたい。ユージンの特別扱いを無くすって話かなあ。もうちょっと見逃してもらえると思ったんだけどな。
・・・・・
「がっははははははは!!!」
マッスルオヤジが大声で笑う。まあね、笑うとは思ってたよ。それにしたって、人を指さして笑うとか、こっちでは失礼に当たらないのか!?
部屋に入って、ソファに腰掛けるよう促され、ユージンが座り、その上に私が座る。ひざ抱っこです。ちょっと前にギルド内で酔っぱらった他の冒険者にちょっかいを出されたことがあって、まあ、ユージンがすぐ助けてくれたけど、それからユージンの腕の中で守られて座るようになりました。うん、安全重視で有難いんだけどさ。羞恥心には出かけてもらってる。もう、元の世界に帰るまで旅しててもらっていいと思う。
「ユージン、ここ一応ギルドマスターの部屋だから、安全だよ。普通に座るわ。」
「ダメ、こいつには注意しろって太郎が言ってた。」
山田さん!ちゃんとユージン言いつけ守ってますよ!!山田さんの教育の賜物ですね(感涙)
「相変わらずお前は太郎の犬だな。」
今まで大笑いしていたのに、ガラッと雰囲気を変えたギルドマスターは言った。とても不機嫌な感じで怖い。ユージンを見上げると、こちらも怖い顔でギルドマスターを睨んでいる。
「お前はイシクラを見つけてもらったことに感謝してるのかもしれねえが、元はと言えば、太郎の責任だろ?恩を感じる理由にはならないぜ。」
「・・・でも神奈を見つけてくれた。」
秘書を見つけるのは山田さんの責任?よくわからないな。
「あの、ギルドマスター、確かにユージンはこのギルドに所属していますが、ユージンは山田さんの村の村人です。貴方に二人の関係に口を出す権利はないのではないですか?」
「太郎は俺の兄貴で、ユージンは俺の側近になる予定だった。それを兄貴が横取りしてったんだ。口を出す権利はあると思うが?」
ありえない!!一万歩譲って、山田さんの遠い遠い親戚のお嬢さんの旦那さんの父親だったくらいなら許せるが、血の繋がりがあるだと!?しかも山田さんが年上とか・・・ナイワ~。
「全部口に出てるぞ、イシクラ。」
「すみません。ちょっと驚きすぎて本音をオブラートに包むことすらできませんでした。でもユージンが何も言わないところを見ると、本当のようですね。山田さんは天使さまみたいで、若々しいのに、貴方が弟ですか~。」
「お前も相変わらず太郎の犬なんだな。」
「犬という扱いはどうかと思いますが、山田さんは命の恩人で、貴方はウザいおっさんです。どちらの味方になってしまうかは考えるまでもないでしょう。」
ああ、ユージンと共に私もギルドマスターにケンカ売っちゃった。むしろギルド追放とか?
「ぐあはははははは。」
なんか上機嫌に笑い出した。意味がわからん!!
「大人しい顔して言いたい放題だな。・・・ユージン、カンナがお前の隣にいることを今だけは祝ってやる。」
「・・・ありがとう、次郎。」
ユージンがお礼を言った!次郎ってギルドマスターのことなのかな?さっきまでの重苦しい雰囲気がなかったかのように、ギルドマスターは最初の感じに戻った。
「そろそろ本題に入るぞ。お前たちに頼みがある。」
頼み?良かった。特別扱いを無くすって話じゃないみたい。
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