第十七話
すみません、また遅くなりました(汗)
森で採取した薬草を転送するときにパンが欲しいとお願いしたら、お惣菜も送られてきた。チョコさんだろうか?野菜たっぷりなお惣菜で、野菜も取りなさいってことかなあと思う。・・・私、あんまり野菜好きじゃないからなあ(苦笑)
その食料と一緒に採取してほしい薬草のリストも送られてきた。数も種類もすっごく増えてる。あれか、とりあえず大急ぎで仕事を作ってみたけど、思った以上に使えるからもっと取ってこさせようってことかしら?まあ、お仕事なので文句は言いませんけどね。
それと最後に可愛らしい赤い巾着が送られてきたものの中にあって、何かと思って開けたら報酬だった。買い物をしてもらった金額が差し引かれている。あれ?お惣菜の分が引かれてない。これはチョコさんからの差し入れってことなのかな?
・・・・・
そんな感じで3日間、ギルドの採取依頼をこなし、チョコさんのありがたい差し入れをいただき、やっと今日で4日目だ。ギルドにいける。
「おはようございます!!」
「おはよう。」
「あら。イシクラさんにユージン君。早いわねえ。」
ギルドの食堂で朝ごはんをいただこうと、朝早く出てきたのだ。挨拶をしてギルドに入ると、ちょうどチョコさんが受付にいた。
「チョコさん、おはようございます!あの、お惣菜ありがとうございました。美味しく頂きました。」
「ギルドの食堂に来ないと野菜なんて食べないって言ってたから、心配だったのよ。」
「ちゃ、ちゃんと食べましたよ、お野菜も。ね、ユージン!」
「うん。食べてた。少し。」
「そこは言っちゃダメだよ。」
「あらあら。」
思わぬユージンの告げ口に焦ってしまった。誤魔化すように、ユージンに掲示板の方へ移動するように言う。
「ユージン、とりあえず、依頼を見てみようよ。」
上級者が受けられる依頼はあんまりないだろうけど、それでも上級冒険者と認められたんだから、依頼者の人たちもユージンを信頼してくれただろう。『ユージン不可』の文字がなくなっているのを確かめておきたい。
「・・・・・。」
あれ?おかしいな。もう一度よく見てみる。幻覚かな?目をこすってみる。
「・・・・・・・。」
おかしい、『ユージン不可』の文字の羅列が見える。思わずチョコさんの方を見てみるけど、チョコさんは笑顔のままだ。
「3日前、違うか、4日前かな?その時から依頼って変わってないんですか?」
「いいえ。」
「ええと、この掲示板に貼ると『ユージン不可』の文字が浮き出てくる仕掛けじゃないんですよね。」
「ふふふ。そんな仕掛けがあったら面白いわね。」
「面白くないです。」
え?どういうこと?
「おかしくないですか?上級者になったんですよ!?・・・あ、そうか、上級者になったユージンはもう初級レベルとかの依頼を受けられないから、わざわざみんな書いてくれたんですね。」
依頼者の方たち、親切ですねって言ってみたけど、笑顔のまま何も言わないチョコさん。
「・・そう言うことにしておいてくださいよ、悲しくなります。」
「まあ、上級者になったとしても、ユージンはユージンだからな。元からその実力があるのは大体の人間が知ってたし。やっぱ不可の文字は入れたいよな、依頼者として。」
「リョクさん、追い打ちをかけないでください。ユージン泣いちゃいますよ?」
「そうか?全く気にしてないみたいだけどな。ま、飯にしようか。おごってくれるんだろ?今日は痴女モードじゃないから安心してアンを会わせられるな。」
チョコさんと話していると、リョクさんとアンさんがギルドへ入ってきた。わざわざ私たちにギルドからの連絡事項を伝えに来てくれたので、ご飯をご馳走することになってる。
「イシクラちゃん、いいのよ。リョクの言うことなんか気にしなくても。」
「いえ。助かりましたので。お礼をするのは当然ですから。」
そうして、4人で朝ごはんを食べて、リョクさんたちは仕事に出かけていった。さて、私たちはどうしようかな。
「チョコさん、私たちが受けられる依頼ってここにはないんですよね?ギルドマスターが用意して下さるというお話なんですが。」
「ええ、それは」
外が急に騒がしくなり、チョコさんの話の途中でドアが勢いよく開いて、女性がたくさん入ってきた。いったい何事!?なんて思っていると、すぐさまその女性たちに囲まれた。
「キャー♡ユージン様よ!!」
「ユージンさま、結婚してください」
「その綺麗なお顔、泣かせてみたい。」
「ユージン様のためにうちの職人に特別な武器を作らせますわ。」
キャーキャ-甲高い声で騒ぐ彼女たち。一斉にしゃべるからよくわからないんだけど、どうやら、ユージンがお目当てらしい。姫抱っこされている私は非常に邪魔だろうに、目に入っていないようだ。少しの空間が私たちと彼女たちの間にはあるので、ユージンが結界を張ってくれてみたい。だけど、ユージンに向かって伸ばされる手はたくさんあって。
「ひっ」
ぶつからないと分かっていても怖くて声が出てしまった。ユージンの胸元に顔を伏せる。手が迫ってくるホラー映画みたいに見えるんだよ!私の反応を見て、不機嫌を通り越したユージンの気配に慌てて止めようとすると、急に辺りの景色が変わった。
あ、ここ、資料室だわ。以前次郎に転移させられたことを思い出す。ってことは今回も次郎が?と思っていると、やつれた次郎がドアのところに寄りかかっていた。目線はギルドの受付の方で、さらにげんなりしているようだ。
「はぁ。やっと人の波が治まったと思ったら、今度はユージン目当ての女たちか。」
「ギルドマスター、あの、転移をして下さってありがとうございます。」
「あの騒動の中に入れといたら、ユージンがキレるだろう?」
「ええ、キレるところでした。」
「そりゃ間に合ったようで良かったよ。」
ため息をつく次郎。この女性たちも何とかしてくれるんだろうか?その間またギルド立入禁止なんだろうか。
「もうちょっと遅い時間に押しかけてくるもんだと持ってたんだがな。読みが外れたぜ。貴族の令嬢ってのはそんな早起きしねえはずなんだがなあ。」
「え?あの方たちって貴族のご令嬢なんですか?」
「ああ。中には結構な上の身分の奴もいるみたいだな。」
「そうなんですか。」
私たちだけじゃ対処できないよ。やっぱり何とかしてもらおう。
「心配すんな。あいつらの対処も俺の方でしておく。でもなあ、1週間はかかるぞ、最低でも。」
うわ。あの大行列よりも時間がかかるってことは、たちが悪いってこと?思わず顔をゆがめると、次郎は苦笑した。
「ああ、まあ、厄介な奴らなんだよ。今回は自宅待機じゃねえから、安心しろ。依頼だ。俺からのな。」
「ギルドマスターの依頼ですか?」
「ああ。要人警護だ。お偉いさんをきちんと家まで送り届けてくれ。いいな。迅速に、寄り道せずに、まっすぐに家に送り届けるんだぞ。家にそいつが入るまできちんと見届けろよ。」
そんなに念を押さなくても。家に帰るまでが遠足です、みたいな。そんなことを考えていると、受付の方がさっきよりも騒がしくなった。もしかしてそのご令嬢たちが増えたんだろうか(汗)
「あの、お偉いさんって」
「ミコトだ。お前らも会ってるだろ?ここにミコトが来たらすぐに出発しろ。俺は・・はぁ。あの厄介な奴らのほうに行くからよ。」
もう一度深~いため息をつくと、次郎は騒音レベルになっている受付のほうに行ってしまった。よろしくお願いします、それしか言えないわ。
そうか、家まで送り届けるのはミコちゃんさんなのね。ミコちゃんさんも3日前の表彰式に出席していたから、これから帰るのか。式が終わってすぐ帰らなかったこと、息子さんに怒られないのかな。あ、もしかして次郎と仲がいいみたいだから、あの大行列を捌くのを手伝ってくれたの?だとしたら、お礼を言わなきゃね。あと、息子さんにお詫びも。
神奈とユージンが転送された直後の話
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「ユージン様が消えたわ!」
「ちょっと、どこ!?」
「ユージン様をどこに隠したのかしら。答えてくださるわよね。」
「ユージン様を出しなさいよ!」
口々に文句を言うご令嬢たちに受付に出ていたギルドの職員は困っていた。むしろ先ほどの流れからいえば、ギルドマスターがユージンを転送させなければ、神奈を怯えさせたことに怒ったユージンが何をするかわからなかったというのに。ご令嬢たちに呆れながらも、受付係として丁寧に接してはいるが、一向に騒ぎは収まらない。
「皆様、あちらをご覧ください!!」
そんな騒ぎの中、その声はマイクを使っているわけでもないのに、よく響いた。今まで騒いでいたご令嬢たちもその声に従うようにあちらと言われた依頼の掲示板を見る。その様子を見て、チョコさんに任せておけば安心ね、と受付の職員たちがささやいた。
「御覧のように、ユージンにはちょっとした問題があり、受けられる依頼は少ないのです。その数少ない依頼にユージンは出かけました。」
確かに『ユージン受付不可』と書かれた依頼が多く、ご令嬢たちは困惑する。その戸惑いにさらに追い打ちがかかる。
「皆様もギルドの放送をご覧になったかと思われます。ユージンは上級者の証である腕輪を壊しました。ですが、弁償しようにも仕事が少なくてまだ借金を抱えたままです。負債を一刻も早くなくすためにユージンは受けられる仕事を急いでしなければなりません。しばらくはギルドに顔を出しても、またすぐ仕事に出てしまうことになるでしょう。」
そこまで聞くと、半分くらいのご令嬢はそっと帰って行った。自分たちも金に困っていたのだろう、ユージンに借金があると聞いたとたん帰った者もいた。上級冒険者の稼ぎはいいはずだが、依頼を受けさせてもらえない現状を見て期待できなかったのだ。
その話を聞き、また改めて出直すというご令嬢もいた。借金がなくなったころ来るつもりらしい。いつぐらいに返し終わるのかと聞いた人もいた。(ギルドの方では依頼を受けられる回数によりますと曖昧に濁したが)
あとは仕方がない、一人一人説得するしかないかと、ギルド職員が気合を入れたちょうどその時、ご令嬢第二陣がやってきた。早起きができなかったご令嬢の方々だ。先ほどの第一陣よりもはるかに人数が多い。
「だめだ!ギルドマスター呼んで来い!!」
そんな職員の声もかき消されたのだった。




