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第十六話

前回の夢を見た朝から始まります。

「・・とし・・こし・・年越しそば!!!!」


自分の寝言で目が覚めた。・・って年越しそばってどんな寝言よ、私。ユージンに聞かれていたら恥ずかしいんだけど、聞こえてないよね?


それにしても、年越しそばか。こちらに来て半年以上過ぎた。向こうの世界では新年を迎えるくらいの時間がたっているだろう。まあ、帰る時間は選べるから関係ないか。そんなことを思いながら、私は無意識に自分の胸を見つめていた。


「・・ポロリはないな・・」


・・・しまった!!また何か変な夢を見ちゃったみたい。ふと気付けば悲しいつぶやきが口から出ていた。


認めたくない。本当に認めたくないのだけれど、この現象が朝に起きるとその日一日私は『痴女モード』となる。すっごく不本意な名前だけれど、ギルドではもうその名で通っている。会う女性、会う女性の胸をじっと見つめてしまうのだ。やめてほしい、私の目線。


おそらくセザン村で発症したのが最初だろう。その後数日はそんな夢(どんな夢かはわからないけど、起きてからも影響が残る夢なのは確かだ)は見なかったのだけど、今ではそんな名前が定着してしまうくらいの頻度で見ている。はぁ。ギルドに行くのが憂鬱だ。まあ、見られる相手のほうが憂鬱だとは思うけれど。


「神奈、朝ごはんできた。」


ノックの音の後にユージンが扉越しに話す。今日はユージンが食事当番だったな。わかったと返事をして着替え始める。もう一緒に暮らすのにも慣れちゃったよなあ。



・・・・・・


ギルドの付近に長蛇の列ができている。遠くからでも人がいっぱいいるのがわかるんだけど、列ってギルドに続いてる?入るにはあの列に並ばなきゃいけないんだろうか。


「ユージン、私あんなに混んでるギルド初めて見たよ。依頼、いっぱいあるかな?」

「俺も初めて見た。」


とりあえず行ってみようとすると、ギルドの方からこちらに歩いてくる男女の二人組がいる。


「あ、イシクラちゃん、良かった。まだあっちからは見えてないわね、リョク。」

「ああ、良かったな。ユージン、イシクラ、お前らにギルドマスターから伝言だ。『ギルドに来んな』だと。」

「え!?私たち、立入禁止なんですか!?」


二人組、アンさんとリョクさんだ。昨日一緒にギルドマスターの部屋にいたうちの二人だ。立入禁止ってどういう事なんだろうか。昨日そんな話はなかったんだけど。


「違うのよ、イシクラちゃん。あのギルドに集まってる人たちはね、みんな二人に会いたい人たちなの。依頼したいっていう人とか、やじ馬の人とか。ぐっちゃぐちゃ寄り集まってるのよ。」

「で、ギルドの方も対応が大変でな。当事者のお前らが来たらもっと大騒ぎになるから、あと3日は来るなって言ってたぜ。」

「何で急にそんなに人が・・」

「ああ、昨日の表彰式は国中に放送されてたからな。」

「放送!?」


テレビとかこの世界で見たことなかったのに、放送なんて技術があったの!?


「まあ、何かでかいことが起きないと放送なんてしないけどな。」

「上級者は本当に数えるくらいしかいないのよ。だから注目もされるし、当然放送もされるわ。上級者の名前と顔は放送されなきゃ偽物が出てくる可能性もあるし。」

「まあ、そういうわけだから、買い物とかもやめとけよ。下手に町をうろつくな。」


買い物もいけないのか。3日程度なら家にあるもので食事は済ませられるかな?あ、パンがないよ。3日間主食無し?


「とりあえず、3日間くらいなら収入がなくても平気ですけど・・」

「ああ、仕事は預かってきてるわ。ギルドからの依頼で、少なくなってきた薬草の補充をお願いしたいって。どの薬草でもいいけど、このリストにある薬草だったら買い取り額をあげてくれるそうよ。なるべく他の人が来ないような森で採取する方がいいと思うわ。」

「そのギルドに納めに行けないんですけど。」


薬草は鮮度も必要だ。3日前に採取したものは買い取り額が下がってしまう。ゲームみたいに個人で使える時間の進まないアイテムボックスみたいなのがあればいいのだけれど、ないみたいなんだよね。そんなことを考えてたらリョクさんが呆れたように言った。


「転送すりゃーいいだろ。クッマーンを倒したとき、転送システム使ったろ?」

「そうか、二人は中級レベルの採取依頼とか受けてないものね、馴染みがないか。採取依頼で依頼の品が遠い場所とかにあったりすると、持ってくるまでに日数が経っちゃうでしょ?そういう時も、転送システムは使われるの。別に大型のモンスターを送るためだけに使うものじゃないのよ。」


なるほど。ギルドにある冒険者のボックスは確か時間の流れを止めてあるって聞いたな。それがあるから個人のアイテムボックスはいらないのか。


「それと、いくら3日でも買い物ができないと不便でしょう?欲しいものがあったら転送システムでメモを送れば、ギルドの方でそろえてくれるわ。しばらくロープで円を作って待ってることになるけど、そんなに時間かからずに転送してくれるはずよ。」


私が困っているのに気付いたのだろう、アンさんがギルドにメモを送ることを提案してくれた。良かった。これで食糧の不足は心配ないな。


「ところでイシクラ、今日、痴女モードなのか?ユージンの腕に抱えられてアンの胸をガン見とか、なかなかイラッとする光景だな。」

「ああ!すみません、すみません!アンさんのお胸様を凝視しちゃってすみません!!」


リョクさんに言われて気づいたよ、また私アンさんのお胸様に視線を置いたままずっとしゃべってた。慌てて両手で自分の目を塞ぐ。


「イシクラちゃん、お胸様って(笑)」


幸い、アンさんはこのことで怒るような人ではないけれど、気分がよくない人が隣にいるよね。


「アンさんのお胸様はリョクさんのものですものね。リョクさん、すみません。」

「おっ、イシクラ、わかってるじゃねーか。」

「な、なな、、なななんで私の胸がリョクのものなの!?ち、違うからね!私の胸なんだもん、私のだよ。」


恐らくアンさんは顔を真っ赤にして慌てていて可愛いのだろうけれども、今私がこの両手を離したらまたアンさんのお胸様を凝視してしまうだろうから見られない。


「アンさん、リョクさん。ありがとうございました。私たちは村の近くの森に行ってみようと思います。」

「おう!そうしとけ。じゃあな、ユージン、イシクラ!」

「あ、あのねえ、私とリョクはそういうのじゃ・・・ってリョク、引っ張らないでよ。イシクラちゃんが誤解したままでしょ!」


二人のにぎやかな声が遠くなってから両手を外す。うん、私知ってる。アンさんみたいなのを『ツンデレ』っていうんだよね。


「ユージン、戻ろうか。」

「うん。」


来た道を戻りつつ、アンさんから受け取ったリストを見る。うーん、結構知らない薬草があるな。ユージンが知っているといいけど。とりあえず、村の近くの森(一番最初にレンダを採取しに来た森だ)に着いた。ユージンは私の顔を覗き込みながら、


「神奈、どうする?森の奥のほうへ行くなら結界張る。手前でよければ離れないから張らない。」


と聞いてきた。ユージンの頭が触りやすい位置にある。思わず頭を撫でてしまった。すると、ユージンは一瞬びっくりしたものの、満面の笑みでもっと撫でてほしいと催促するように頭を寄せてきた。さっきよりももっと撫でやすくなった。


ーうん、やっぱりうちのユージンのほうがかわいいー


・・・ん?うちのユージンって何だ?それじゃ他のユージンがいるみたいじゃない。頭を撫でつつ自分のふっと湧いた考えにツッコミを入れる。というか、なんで私はユージンの頭を撫でたい衝動に駆られたんだ?ユージンもいきなりの私の行動を不審に思わないのかな?


「めんどくさいけど上級者になってよかった。神奈褒めてくれた。」


とユージンがつぶやいた。あ、なるほど。上級冒険者になったお祝いもしてなかったものね。本当は太郎さんに褒めてもらいたかっただろうに、私で代役が務まっているんだろうか?うん、もうちょっと撫でていてあげよう。


ユージンが満足したあたりで、リストを見せる。ユージンも全部は知らないみたいだ。あまり、採取依頼で見たことのない名前の薬草が多い。本当ならギルドの資料室で調べてから依頼に取り掛かるんだけど、今日はギルドに入れてもらえなかったからな。こちらの世界では普通の人は本を持たないみたいだ。だから本屋さんがない。図鑑がない状態で採取って難しいよね。私の貼って剥がせる付箋も使えなくはないけれど、かなり時間がかかるし。


しょうがない。今日は知ってる薬草だけを摘んで、わからない植物は携帯で撮影しておこう。携帯は圏外だけど、写真を撮ることはできる。充電器がないのにいつでも電池が満タンなのはこの世界の不思議現象として片づけている。


「森の奥には入っていかないで、手前で知ってる薬草だけ摘もうか。」

「うん。」


私もレンダとか基本的な薬草なら覚えたし、ユージンの傍で摘んでいく。しかし、知っている薬草以外、雑草なんだか薬草なんだか毒草なんだか、全くわからないな。全部撮影するのは大変だけれど、あと2日もこの森で採取するなら後々役に立つかもしれないし、やっておくか。


「携帯のカメラ機能を呼び出して、写真を撮っておいて」


後で図鑑と見比べよう。で、画像のタイトルに名前を入れておけばいいか。


「・・・え?」


おかしい。携帯で写真を撮影すると、画像にはその植物の名前が入っていた。しかも、写真の下にずらっとその植物の説明が書いてある。


「ポ〇モ〇図鑑・・・」


説明が音声で読み上げられはしないけれど、これって、ポケ〇ン図鑑そっくりだよね。うん、便利、便利だよ。ありがたいよ。でも、せめて事前に言っておいて欲しかったです、太郎さん。日常的に使ってた道具が魔法道具になってる衝撃には慣れないんですよ!!


私が向こうの世界に戻る時には、魔法道具に変わってしまった物も、元に戻してくれますよね?

遅くなって済みませんでした。


お読みいただきありがとうございました。

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