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第十四話

神奈はしっかり者なのか、うっかり者なのか。

今更ながらに気付いたことがある。私はユージンの秘書を始めるにあたって、期限を設けなかった。いや、でもさ、言えないでしょ!?命を救ってもらった相手に、


「命の恩人の頼みですから、お引き受けしますよ。で、いつまでですか?」


とか、聞けないでしょ!!本当に恩を感じてるのかとか思われそうじゃない!?で、私なりに考えていたのはユージンのレベルがある程度上がったら、もしくは仕事が順調に進むようになったらってところだった。


今が正にその時なんじゃないかな。予想以上に冒険者レベルがアップして、中級どころか、上級の依頼まで受けられるようになった。


太郎さんと話し合わなくちゃ。すぐに元の世界に戻るかどうかはおいておき、太郎さんが納得のいく仕事ができたかどうか、まだ駄目なのならば、どこを目標にすればいいのか、それだけでも聞いておかなきゃいけない。


太郎さんに会ったら、ご苦労様でした。お帰りいただいて結構ですって言われる確率が高いと私は思っているのだけれど。そんなことを考えながら、表彰式の終わったギルドから家に帰っている途中だ。


「ユージン、太郎さんに会いたいんだけどい」

「ナンデ?」


『今から会いに行こう』と続くはずだった私の言葉をユージンはさえぎった。そして毎度お馴染みな言葉のはずなのに、いつもと声のトーンが違う。いつもは子供が純粋に何で?って聞いてくるような感じなのに、今は、少し、怖い。私の心のうちを見透かされている感じだ。私が後ろめたいからだろうか?


「ゆ、ユージンがレベル上がった報告をしなくちゃ。ほら、太郎さん心配してたでしょ?」


嘘は言っていない。ただ、その先を言わないだけで。


「報告・・・いる?」

「いやいや、いるでしょ。私はどちらかと言えば太郎さんに雇われてユージンの秘書をやってるんだから。特に、上級者レベルになりました!なんて大事なこと報告しないわけにいかないでしょ。」


いつもの調子に戻ったユージンに内心ほっとしながら話す。


「きっと、よくやったって褒めてくれるよ。」

「褒めて・・・」


適当に口から出てしまった言葉なのに、ユージンはすごく嬉しそうな顔になった。ご主人様に褒めてもらう犬を思い出してしまった。以前、次郎に言われた言葉があるからだろうか。


ぬか喜びさせては可哀想なので、太郎さんには褒めてあげて、って言おう。こんなにユージンが楽しみにしているのだから。


「今から会いに行こうよ。」

「・・・今はダメ。太郎、忙しいから。」

「そうなの?」


出鼻をくじかれてしまった。でも、なるべく早くしないと。私は帰らなくちゃいけないんだから。早く、早くこの決心が鈍らないうちに、でないと・・・。


「太郎さんの仕事を私たちが手伝うことはできないのかな?ほら、分担した方が効率がいいこともあるし。」

「太郎にしかできないことだから。」

「そっか・・・いつ頃会えそう?」

「しばらくは無理。・・・今、すごく神経使ってる。手元狂わせたくない。」


村長ってそんな大変な仕事があるのか。手元って何かを作ってるような言い方だけど、こんなにユージンが太郎さんに気を使っているんだもの、きっと、とてつもなく大変な仕事なんだろう。手伝えないのが心苦しいくらい。せめて邪魔だけはしないようにしよう。


そんな話をしていたら、村に帰ってきた。そう言えば、家とギルドの往復で、きちんと村の人と話をしたことがないなあ。今も向こうの方で畑を耕している人が見えるけど、用もないのに話しかけるのは悪いし。あれ?よく考えたら一番最初にこの村に来た時に話をしただけじゃないかな!?よそ者は気に食わんとか、挨拶もなしに、礼儀知らずめとか思われてたらどうしよう。


ユージンに、村の人たちに挨拶をしなきゃとか言っても、きっといつも通り、何で?って言われそう。くっ、頼りにならない。やっぱり太郎さんからそれとなく、挨拶をするタイミングを逃して気まずいようですよ、とか言ってもらう?いやいや、さっき邪魔をしないようにって決めたばっかりじゃない。手土産を持って家を回る?でも、夜はユージンが外に出してくれないし、昼間はああやってみんな農作業してるみたいだし。道の近くとかにいてくれれば話しかけるのに、大体みんな遠いところで畑を耕して・・・じゃあ、何であの時は何度も村の人に会ったんだろう?


「神奈、もらったカード、落とした?」

「はぁ!?ちょ、重要な物でしょ!!無くしたの!?」

「・・・落とした?」

「私が聞いてるの!!もう、戻って、来た道戻って、早く!!」

「ギルドに忘れた?」

「覚えてないんでしょ!とりあえず、来た道戻って、探しながらギルドまで戻るの!!」

「うん。」


ユージンの爆弾発言で私はさっきまで考えていたことをスパーンと忘れてしまったのだった。


・・・・・


地面を見ながらギルドまで戻って来たけれど、見つからなかった。誰かに拾われちゃって悪用されたらどうしよう。ギルドに忘れてますように!!


「あのぉ、チョコさん、その、ユージンのですね、カードなどが落ちていたり、なかったり・・」

「あら、イシクラさん、お困りのようね。」


私はギルドに着くと、受付のチョコさんにそっと話しかける、チョコさん以外にも受付の人がいるのだが、一番話しやすいのがチョコさんなのだ。包み込むような優しい雰囲気があふれている人なので、困ったことがあるとすぐ頼りにしてしまう。


「はい、ユージン君の冒険者カード。」

「ありがとうございます!!やっぱりギルドに忘れていったんですね。」

「多分、ユージン君、落としたんじゃないかしら。もしかして、ギルドマスターからカードのこと、聞いてない?」

「えーと、壊れないから大丈夫って話なら聞きました。」

「あら、それだけ?じゃあ、説明するわね。このカードは持ち主から一定時間離れると、所属するギルドに戻ってくるの。落としたり、盗まれたりしても他の人が使えないようになっているの。」

「そうなんですか。知らなかったです。」


次郎は言い忘れたのか、言わなかったのかはわからないけど、私のすっごく焦った時間を返せと言いたい。いや、落としたユージンにまずお説教か。


「そう言えば、なんでギルドに戻るんですか?本人のもとへ戻ればいいんじゃ?」


そう尋ねると、チョコさんはうつむき加減で声のトーンを落とした。


「上級者レベルの依頼は、危険なものが多いのはわかるわね?・・・命を落とす冒険者がいないわけではないの。どんなに気を付けても、どんなに準備万端で挑んでも、そういう事があるの。冒険者カードは持ち主が亡くなった時もギルドに戻ってくるのよ。死亡という情報と共に。・・・そういう役割もあるから、冒険者カードはギルドに戻ってくることになってるの。」

「そう、なんですか。」


冷水を浴びせられた。そうか、上級者には危険な仕事が回ってくるんだ。モンスターがどんなに強くてもユージンは勝てるんじゃないかと思う。でも、採取依頼で崖とかから落ちたり、そういうことだってある。青くなった私に気付いたチョコさんが慌てて言う。


「ユージン君は大丈夫よ。とっても強いし。」

「神奈、大丈夫。俺、神奈を悲しませない。」


チョコさんの言葉を後押しするように、ユージンが力強く言ってくれたので、少し落ち着いた。


「ありがとうございました、チョコさん。カードのことも、先程のお話も。依頼には細心の注意を払うこと、それを改めて肝に銘じます。」

「ええ。ユージン君と二人で頑張ってね。そしてこのギルドを有名にしてほしいわ。」

「それはお約束できませんけど(笑)その、チョコさん、カードを落としたことはギルドマスターには内緒にできませんかね?いただいた貴重なものをすぐさま落としたとか言ったら、ものすごく怒られそうなので。」

「ふふ、了解。いいわ、内緒ね。」

「ありがとうございます!」


今度は失くさないようにしなくちゃ。そうだ、確か部屋にバイトで使ってた名札を首から下げる奴があったはず。それをユージンに渡して首から下げててもらおう。私が持っていても結局はギルドに戻っちゃうんだろうし。



今度は無事に家までたどり着き、部屋から名札入れを持ってくる。私の顔写真と名前が入った名札は、ユージンの冒険者カードと似ている。うん、サイズ的にも入りそうだ。 


「ユージン、これにカード入れればいいよ。私の名札は邪魔だから取っちゃうね。」


入っている名札を取ろうとすると、ユージンが横から手を出す。自分で取るのかな?と思って渡すと、


「複製」


魔法を使った。


「ユージン、複製してくれるのはありがたいんだけど、私の名札まで増えちゃってるんですけど。」


とりあえず本物を返してもらって、ユージンがコピーした方の名札入れから今度こそ私の名札を取り出そうとしたのだけれど、ユージンはもうその上から自分のカードを入れてしまった。


「ユージン、私の入ったままだよ。」

「これでいい?」


ユージンは首から下げて見せる。


「うん、それでいいんだけどさ、私の」

「大丈夫、これで絶対なくさない。」

「・・・そう。」


もんのすっごく嬉しそうな顔で言われた。定期入れの中にこう、写真を入れちゃうような、乙女チックな・・・いやいや、違うよ、きっと。取り出すのが面倒だったんだよ。そう言うことにしておこう。

大事なことに気付いたのに、ユージンの絶妙なタイミングの失敗ですっかり忘れてしまった神奈でした。(ユージンは狙ったわけではありません。)


1月23日、『神奈の名札が顔写真入り』を追記。

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