8 魔王
……何処だ、ここ。
メインが住んでいた森は、異様に広い。
『報酬代りに押し付けられた』とか言っていたが、気に入っていたのだと思う。
森は整備され、普段は街の住人達もよく訪れているらしい。
何故か、森からも街からも離れたところに着いたが、おかげで、すんなり来ることができた。
それに、色々話も聞けた。
聞いた、というより、捲くし立てられたようなもんだが。
「水飲みてぇ……」
木に寄りかかり、街で会った婆さんに、押し付けられた地図を広げて眺める。
地図の通りに進んでいるはずだが、一向に辿り着かない。
飛んで行ければ楽だが、明るい内は誰かに見つかる可能性もある。
街を出たというのに、羽や角は仕舞いっぱなしだ。
「ったく、めんどくせぇ」
リディアに城を追い出され、すぐに人間界に来たが、正直早まったと思う。
あいつ、俺のこと何だと思っていやがる。ぜってぇ、王だと思ってねえな。
出際にはまた怒鳴っていた。そういや、叩かれたな。
すっかり忘れていたが、叩かれた所に手をやれば、少し湿った感触。
「?」
手を見れば、乾きかけの血がついている。
あの馬鹿、角で切ったらしい。どんくせぇ。
どうせ城でまた、後悔の嵐に苛まれているだろう。
後悔するなら抑えろ、って言ってんのにあの馬鹿、昔っから懲りやしねぇ。
「髪洗いてぇ」
地図が正しいのなら、川はメインの屋敷の近くだ。
……仕方がない。
ため息と共に、再び歩き出した。
メインの屋敷に着いた時、すでに日が暮れていた。
時間が掛かった理由は、意外にも単純だった。
森のあちこちに、掛けてあった魔術のせいだ。気がつくのに時間がかかった。
よくは見なかったが、大方、魔術関係者が道に迷うように、とかそんな所だろう。
魔力の塊のような、魔王に効かないはずがない。
メインの物ではなかったから、恐らく新しい領主の物だろう。
街の奴ら曰く、新しい領主は魔術嫌いらしい。
魔術に頼って、魔術を追い払うとは、何とも皮肉なもんだ。
「にしても、どういう事だ?」
小屋と屋敷の中間のような小さな建物に、僅かだが灯りが点いている。
今はメインの屋敷に、誰も住んでいないはずだが……。
しかも、屋敷の周りには兵士らしき影もあり、迂闊に近づけない。
後で誰かに調べさせるか。
リディアがまた騒ぐだろうが、知ったことか。
あー、確か、蔵は裏だったな。
屋敷を囲むように生えている木に隠れ、裏へと回る。
音を立てないよう静かに回り込めば、小さな蔵と、入り口に二人の兵士。
思わず舌打ちが出る。
邪魔っくせぇな。メインの奴、何かしてから死んだのか?
とにかく、あの兵士を何とかしねぇと。
仕舞っていた羽と角を出し、空へと飛ぶ。上からなら、気がつかないだろう。
幸い、月も出ていないから、簡単に近づける。
そのまま真上に浮遊しても、気がついた気配はない。
そこから落ちる容量で一直線に、兵士達の前に着地すれば、いい具合に怯えた表情。
「ヒッ!」
「あっ悪魔!?」
「おいおい、大声は困る」
口を塞いでやれば、片方は触った瞬間気絶した。
……お前、兵士だろうが。もう少し粘れよ。
気絶した方を地面に転がせば、もう片方に腕を掴まれる。
「ムー! ンーッ!」
よしよし。兵士ってのは、こう威勢が良くねぇと。
良い気分のまま笑えば、一層睨みつけられた。
大体の奴は、俺が笑えば逃げるのにな。
「ふん。お前はいい兵士だな。生かしてやるよ」
「!?」
「というより、遊びたいが時間がないんだ。悪いな」
「ングッ! グッ……」
空いた手で喉を締め上げれば、多少もがいた後、動かなかくなる。
口も抑えていたからだろう、落ちるのが早かった。
とりあえず約束通り殺していないから、起きても害のないよう、武器は取り上げておく。
「なんか、無駄に時間食った……」
やっと蔵に入れる。
当たり前だが、鍵が掛かっている。が、問題ない。
蔵の鍵を叩き壊し中に入れば、薄暗い中は書籍や薬草、薬品が所狭しと並んでいる。
それらの僅かな隙間に、"それ"はいた。
「おい、生きてるか」
ピクリとも動かない。
遅かった、か……。
近づいて、軽く蹴ってみる。
「おい」
返事はなかったが、確かにズボンの裾を掴んだ。
「ほお……。上出来だな」
ボロ雑巾のような"それ"を脇に抱え上げると、その場に陣を開き、足を踏み入れる。
帰ってからの予定を考えて、ふと気がつく。
あぁ……、そういや仕事溜まってたな。




