6 補佐官
「やっちゃったー……」
魔王を、城から叩き出してから早一時間ほど。
今度は私が、自分の執務室で頭を抱えていた。
抑えろと言われた直後に、思いっきり怒鳴ってしまった。
しかも怒鳴っただけでなく、思いっきり頭を引っ叩いた。
決してわざとではない。つい手が出ただけだ。
魔王の角で切った手が、ズキリと痛んだ。刺さった、が正しいのか?
まぁいいや、手のひらをざっくり切ったせいで、仕事をするたびに血が出る。
手は痛いし、部下には代わる代わる心配されるし、仕事は減るどころか増えた。
そう、増えた。
これも頭を抱えている原因だ。
怒鳴って引っ叩いたのは、謝れば許してくれる……はず。
でも仕事の期限は延びてくれない。
なのに増えた。
理由は簡単だ。魔王が水晶の相手を保護しに行ったから。
完全に、自業自得だ……。
「あぁぁぁ!! 急ぎの分だけでも終わらせてもらえばよかった!」
文句を言っても、後の祭り。
「すぐに行け!」と言ったら、魔王は本当にすぐに出発した。
たぶん、本人も無意識に気にしていたのだろう。
だからこそ、上の空だったのだと思う。
でなければ気にせず、いつも通り仕事をしていたはずだ。
以前部下に、私と魔王は働きすぎだ、と言われたくらい仕事中毒だし。
怠惰な上司より、良いことだと思うのだけど。
そこまで考えて、思わずため息が出た。
「……また現実逃避しかけてる」
中毒かどうかなんて、今はどうでもいい。
この書類の山を何とかしないと。
それから更に数時間後。
昼食を抜きつつ、何とか小さな一山を終わらせた。
握り続けていたペンには血が付いている。
仕事中は上衣を脱いでいるし、書類や袖は避けていたから無事だったが、これ以上血が止まらなければ、縫おうかな。
いや、その前に医務室に行こう。
引き出しからハンカチを取り、ペンの血を拭きつつ考える。
「……にしても、減らないなぁ」
確実に減らしてるはずだが、正直減った気がしない。
追加や報告で訪れていた部下も、あまり来なくなったのに。
あまりの部屋の惨状に、気を使われているのだと思う。
途中で来た補佐官の顔が、引きつっていたし。
恐らく彼のおかげだろう。
同じくらい忙しいはずなのに、部下達は追加を持って来ないようにしてくれている。
本当、出来た部下って最高。
魔王の机に負けず劣らず積まれた書類の山は、下手に揺らしたら雪崩を起こしそうだ。
崩したら今日の業務は終わってしまう。
冗談抜きで、落としたら一巻の終わりだ。
なにせ床には、今朝、魔王の机の上にあった書類が置いてある。
機密書類もあるからと、ここに持ってきたが、机の横にするんじゃなかった。
混ざったらと思うと、気が抜けない。おかげで余計に疲れた気がする。
「あ゛ー、背中痛い」
背中を伸ばすと骨が軋む音がした。
終わらせた小山を床に下ろし、今朝よりも増えた魔王宛ての書類を見下ろす。
部下から来た物や、終わらせた書類は追加しているから、魔王宛ては増えていく一方だ。
ははは、ざまぁみろー。
帰ってきたら書類の山に捕まればいい!
でも、すぐに戻って来てくれないと、城全体の業務にも影響が出る。
うぅ、それは困るな。
「……ま、とにかく自分の分だけでも進めよう」




