5 補佐官と魔王
聞き返したら、思いっきり舌打ちされた。
「てめぇ聞いてろよ」
「あっ、いえいえ、聞いていましたよ」
睨まれついでに、舌打ちもされた。酷い。
ただちょーっと似合わないなーって、考えただけなのに。
そう、似合わないから、つい空耳かなー? って考えただけ。
おっと、黙っていたら、更に機嫌が悪くなっている。
「えーと、見守るですよね。そのままの意味でよいのでは?」
うわぁ、更に目つきが悪くなった。仕舞っていた角まで、伸びてきている。
はいはい、そうですよね。
わかっているなら、聞きませんよね。
不機嫌だった理由はこれか。
上の空だったのは、たぶん……。
「まぁ一般的には、見ているだけでいいんじゃないでしょうか」
「それだと、"見ている"だろうが」
「ええ。ですから普段は見ていて、相手が困っている時に手助けをする。そんなところでしょうか」
はぁ? って顔をしている。
うん。自分でもよくわからない。
そんなもの、人それぞれだろう。
というか、何だっていきなり。
…………何故か、嫌な予感がする。
「誰かに、言われたのですか?」
「メイン」
あんのアマーー!!余計なことを!!
メインは、魔王の契約者だ。いや、"だった"女だ。
数ヶ月前に死んだと、目の前の契約者本人から聞いた。
人間界でも魔界でも、色々面倒を起こす女だったが、最期に爆弾を残して逝きやがった!
あぁ……、頭が痛くなってきた。
「で、あの女に、見守るように、頼まれたと」
「いや、最期に契約をさせられた」
「もっと厄介じゃないですか!!」
思わず机を叩けば、書類の山が少し揺れた。
普通、契約者が死んだ場合、契約は解消され、実行中の命令は、悪魔の気分で続けるか終了するか決める。
もし死に際に命令をしても同じだ。
だが、契約書に項目を追加したのなら、死んでも有効だ。
基本、悪魔は契約書には逆らえない。
詳しい理由とかは知らないが、実際に逆らった悪魔はいないらしい。
あの女、よりにもよって魔王を縛ってから死ぬとは!
「それで、その契約が"見守れ"と!」
「ああ」
魔王と契約できただけあって、かなりの数の悪魔を、使い魔にしていた。
何匹かお気に入りや、下級悪魔もいた気がする。そいつらのことだろう。
「で、その相手は、今どうしているんですか?」
悠々と暮らしているなら、タダじゃおかない。
「蔵にいる」
「くら? くらって物置きの?」
「ああ」
「それまでは?」
「普段は森にいた。先月頃だったか、捕まってな」
「……それで?」
「死にかけ……ている」
は?
「捕まってから禄に食べていないようで、だいぶ衰弱している気がする」
あれ?
この男、一月以上水晶に囓り付いていたよな。
しかも、メインが死んだのも大分前だ。
ということは、
「蔵に入れられる時も、見ていたのですか?」
「ああ」
「死にかけているのに、今までただ見ていたと?」
「ああ」
「あー……ちなみに、何故?」
「”見守る”の意味がわからん。何をするべきだ?」
さも当然のように言う魔王に対し、私は、
「いいから、とっとと保護して来い!! この馬鹿ーーーー!!!!!!」




