35 魔王と少女と魔猫
出ているはずの答えを認めないが故の押し問答は、俺を非常にイラつかせた。
子供相手だろうが、口調が辛いものに変わる。
「確かにリディアは、かなりの高官だ。だがそれが何だ。あいつに人間の知り合いがいたら問題だと、誰かに言われたか」
「……言われてない」
「リディア本人に言われたか」
「言われてない。でも!」
「『でも』何だ。アルニの爺や女共にもお前を疎ましく思う奴がいたか」
「あ。……い、ないと思う」
ハッとしたような顔でこちらを見上げるガキに、やはり歳以上に賢いのだと感じた。
疎ましいなんて単語、普通ガキは知らないだろう。メリルは知っていたのか、それとも知らずとも意味を感じ取ったのか。
そして自分の中の答えを否定し始めたのか、眉を寄せ目が泳ぎだす。
小さな頭で、必死に考えを巡らせているのが見て取れた。
ガキ相手に言い過ぎたな。
苛立ちを吐き出すように、大きく息を吐いた。
「迷惑だと思うような相手に一々時間を割くほど、リディアがお人好しか暇人だと思ってんのか」
「思ってない。きらいな人には見つからないうちに逃げちゃうって、言ってたし」
あいつ、そんな事してたのかよ。
リディアの性格上わかるような気もするが、何やってんだとも思った。
思わず額を手で覆う。
「つーか、口外するなよ馬鹿が」
「?」
「何でもねえよ。これで最後にするか」
話し疲れたし。
「お前、誰かに昼に出かけたいと一言でも言ったか?」
「…………言ってない」
こちらを向いていた顔が再び下を向く。
膝に顔を半分埋めてもごもごと話され聞き取れず、面倒だったが聞き返した。
「だってめーわくって言われっちゃうの、ヤだったんだもん」
二度目も呟くように言われたが、一度目よりかは聞き取ることができた。
面倒臭え取り合わせだな、と正直思う。
リディアは言葉が足らず、メリルは変な方向へ気を使ったせいで、話が拗れたのだろう。
今更何に落ち込んでいるかのか知らないが、尚も俯いたままの頭を、毛の長い猫が脇と膝の合間から覗き込んでいた。
「面倒くせえ。おい、帰るぞ」
「え? うわぁっ!」
立ち上がるついでにガキの襟首を掴み、肩に担ぎ上げた。
帰らねえだの何だの言わせないためだが、小さなガキを担ぐのは流石に初めてで、要領が上手く掴めない。
落ちそうになっているのかジタバタもがいていたが、暫くすると大人しく
「あの、ごめんなさい。頭いたい……」
「悪い」
頭が落ちすぎていたらしい。ぐったりした声が背後から聞こえた。
抱えるように体の前で持ち直せば、短い腕を俺の首に回して一息ついていた。
「ずる〜い。陛下ぁ。わたしも抱っこしてぇ」
「へいか?」
まだそういや言っていなかったなと思いつつ茂みを越えると、待っていたのか十数匹の魔猫に囲まれた。その集団の後ろからカウの鳴き声が聞こえた。
あいつ弾き出されたな。
「陛下ー! メリルちゃんとお話しできましたー!?」
「ああ。見つけてくれて助かった。礼を言う」
「いえ、そんにゃこぐふっ」
「めっそーもにゃーですー」
「お前! 見つかってから集会に参加しただろ!」
「僕、役立たずだったニャー」
「おいら全然違う所探してたよ」
前でにゃーにゃー
横でにゃーにゃー
「…………お前ら、本当に黙れ」
「「「「はーい」」」」
今回のように手伝いもしてくれるし、いい奴らだと思う。
ただ心底騒がしい奴らと思うのも、やはり否めない。本当に。
ため息が零れるが、それよりも一瞬の騒ぎで再び弾き飛ばされたカウが気になった。
「カウ。生きてるか?」
「だ、大丈夫ですにゃ……。ちょっと蹴飛ばされただけですにゃ」
少し前までおどおどしていた猫とは思えないほど、色んな方向でタフになったようだ。
「カウ? ちゃん。大丈夫ー?」
「大丈夫だろ。それよりお前ら。もういいぞ。俺らも戻る」
魔猫達のおかげで時間が短縮できたとはいえ、だいぶリディアを待たせている。
今頃焦れて、待つべきか飛び出すか悩んでいるだろう。
カウの「かいさ〜ん」という声を聞き、集まっていた猫達は挨拶をしてから散って行った。
ぐったりしたカウも、二足歩行のできる魔猫達に抱えられ帰って行った。
静かな庭に残されたのは、俺と俺の腕に座っているガキの二人になった。
やっと静かになったと感じていると、顔の横から恐る恐ると言った感じの声がかかった。
「何だ」
「へいかって、王様の陛下だよね?」
「ああ」
「陛下って、猫ちゃんたちの王様ってこと?」
「いや。魔王」
「魔界の、王様の、ほう?」
「ああ」
「………………」
「メインやリディアから、外見くらい聞いてなかったのか」
「うえぇーーーー!!!???」
「うっせえ!」




