33 魔王と魔猫
「わわ私にゃんぞに、にゃにゃにゃんのご用でにゃー?」
「落ち着け。何言ってんのかわかんねえよ」
あまりの怯え具合に、つい止めてしまったが、カウは余計に縮こまってしまった。
仕方なく生垣を乗り越え、魔猫達の中で震えるカウを撫でる。
手を出しただけでビクリと小さな体が跳ねたが、毛並みはいいから使い魔だろうかと考えた。
「カウは臆病な性格でして。それに、その……今日、初だったんです」
ビクビク震えるカウを見兼ねたのか、隣のサバ柄がこっそり言ってきた。
臆病な猫が初めて、この落ち着きのない集まりの進行役をしていた所に魔王乱入、とは怯えても仕方が無い。
「そうだったか。済まないことをしたな」
「そんにゃ!? 陛下は悪くにゃいですにゃ!!」
にゃーにゃーと弁明しているが、正直聞き取れない。
話を進めたいのに面倒臭いなと思い、周囲に溜め息をつかれ始めているカウを抱き上げた。
「邪魔して悪かった。お前みたいな性格じゃ、さぞ緊張していただろう。俺はそういう奴を多く見てきたから、どれほど辛いかわかっているつもりだ」
「へ、陛下……」
「ただの小さな集まりでも、纏め役ってのは重要な役だ。途中だったとは言え、それをこなしていたお前は凄いと思う」
お前達もな、と周囲の魔猫達にも言ってやれば、陛下ー!! と合唱された。
五月蝿い。すり寄ってくるな。
寄ってくる魔猫を軽く足でいなしながら、カウに話続けた。
「俺はお前達も城の住人で、"家族"だと思ってる。俺が頼む内容は、事によっては進行役以上の大役だが、同じ"家族"のために引き受けてくれないか?」
とりあえず宥めて任せようと話してみたが、何処か話がズレた気がする。
そう感じていたが、一層騒がしくなった鳴き声の合唱に、泣き声が加わり始めていた。
特に腕に抱いたカウが五月蝿い。
「わ、わたじのご主人じゃまだって、ぞんにゃ言ってくれないですにゃー!!」
ああ、やっぱり使い魔だったか。
逆に騒がしくなってしまったカウの背を軽く叩いていると、顔を拭ってこちらを見上げてきた。
緊張が取れたというよりは、使命に燃えている感が溢れている。
「陛下のためにゃらこのカウ、どんな願いも引き受けますにゃ!」
「「「「引き受けるにゃー!!!」」」」
「そうか。助かる」
これでやっと話が進むと胸を撫で下ろした。
異様に盛り上がっていた魔猫達には悪いが、俺の出した命令は『メリルという名の人間の子供を見つけて来い』、ただそれだけだった。
カウの指示の元、四方八方に散って行った魔猫達の中には、名前を聞いた時に反応した奴もいたから、案外早く見つかるかもしれない。
探しに行った魔猫達を待つ間、生垣の中で寝転がり大きく息を吐いた。
つーか、使い魔にも知れ渡ってんのかよ。
リディアが心配するのも頷ける。幾ら何でも広まり過ぎだと、俺でも思った。
だが人の口に戸は立てられない。
城内の悪魔達だけではなく、使い魔や住み着いている獣達も同じだ。
人の子、という物珍しさから普通より速く広まったのだろう。
「……。どうでもいいか」
広まった速度を気にしても仕方が無い。
広まってしまった以上、どこまで広まっているのか、を気にしなければ。
城には当然だが人間嫌いも訪れる。
ガキの身の置き方はリディアが心配すればいい。
俺は身の安全を考えるだけだ。
メインとの契約も約束もそれで済むだろう。
せっかくのいい月夜に酒もないのだし、魔猫達が戻るまで寝ててもいいだろうと考え、体の力を抜いて息を吐いた。
「騒ぐ程の事じゃなかったら、リディアを締めるか」
「またそんにゃ物騒にゃこと言ってー」
「!?」
気を抜いて呟いた瞬間、頭の真上から声がした。
驚いたが、すぐさま平静を戻して見上げれば、すぐ目の前にカウの顔が生垣から生えていた。
「お前、いつからいた」
「えー? 陛下がおっきな溜め息をついた頃ですよ」
「そうか」
寝始めた頃か今か気になるが、そんな話をしている場合ではないだろう。
見つかったのかと問えば、見つかったと予想通りの答えが返ってきた。
「さあさ、陛下参りましょう! ご案にゃいいたします」
「他の猫共は?」
「いずれ追いつくか、そのまま帰るでしょ」
さあさあと急かすカウを追い、生垣を乗り越えれば、反対側にはすでに数匹の魔猫が待機していた。
あ? 追いつくってこいつら全員付いて来る気か?
それにしても、と思う。
カウが何も言わないという事は、俺が驚いたのは気づかなかったらしい。
あの至近距離でも解り辛いのか、俺の表情は。
そしてふと、これから子供と会うのに大丈夫だろうかと思った。
昔から、無表情過ぎて恐がられる事はしょっちゅうだ。
……不安定でもリディアを連れて来るべきだったか




