32 魔王と魔猫
よく晴れた夜空の下、城と居住塔を繋ぐ回廊の石柱に寄りかかり、ぼんやりと考えていた。
任せろと言ってしまったが--まあ、実際には言ってないが--、メリルの居所にアテがあるはずもない。
ましてや、会った事もないガキだ。知るはずがない。
水晶を使えば早いが、生憎とっくに暖炉上の置き物に戻っている。
「どうすっかな」
正直、面倒臭いとも思っていた。
居所の検討もつかないのに、地道に足で捜すしかないのだから仕方がない。
しかし探すと言ってしまった手前、ただぶらぶら歩くだけ、という訳にもいかないだろう。
無意味に時間をかければ、焦れたリディアが来るかもしれない。
……それにしても、リディアはどうしたというのか。
ガキ一人いなくなった程度で、ああも取り乱すとは思っていなかった。
「いや、ある意味『予想通り』……か」
そうだ。ある程度の予想はしていたのだ。
ただ、予想以上の取り乱し様だっただけだ。
「クソ。面倒な物遺しやがって」
つい、今はいないメインへ文句が零れる。
確実に貧乏くじを引いたのは、リディアではなく俺だと思う。
まあ、とにかくだ。
今更メインに文句を言っても仕方が無い。
面倒になると承知の上で引き受けたのは、俺の意思だったのだし。
とりあえず考えを切り替えようと、石柱に頭を預けて空を仰ぐ。
雲一つない夜空を、飛行の出来る悪魔達が飛んでいる。
ああ、--いい夜だ。
とっとと見つけて、酒でも飲みたい。
リディアの様子も気になるが、ガキを見つける方が先決だ。
見つけてやれば、リディアは落ち着くだろう。
「仕方ねえ」
石柱から身体を離せば、冷たい風が背を撫でた。
石柱に体温が移り気がつかなかったが、意外と冷えてきていたらしい。
とっとと見つけてやるか。
歩き出した俺が最初に向かったのは、城内でも爺の自室でもなく、城のほぼ真横に当たる場所だった。
無駄にでかい城の、これまた無駄にでかい庭は、東西で趣が全く違う。
東側は兵士達の訓練場も兼ねた、土と芝生の広場になっているが、西側は庭というより庭園と言った方がいいだろう。
設計士と歴代庭師達による傑作だ。
巨大な噴水を手前に直線上に池があり、それぞれを繋ぐ細い水路が常に庭園中に水の音をさせている。
幾何学模様を描くように配置された生垣は、様々な種類が植えられており、季節によって庭園の色を変える。
更に庭師達の努力により、ほぼ一年中緑を茂らせている。
その中の一角。
生垣に囲まれた内部が、比較的水場から遠い位置に俺は向かっていた。
着いた先の、腰の位置にある生垣の中を覗けば、案の定"そいつら"はいた。
呼びかける前に、数十の眼が一斉にこちらに集まる。
「あー、陛下だニャー」
「どーりで匂いがすると思ったよ」
「にゃにかご用ですかー?」
「えー陛下の頼み事ー? 難しいのは嫌よ」
柄も種類も様々な魔猫たちが、人を認識したと同時に喋り出した。
月の形毎に様々な魔物達があちこちで集まったりするが、今日のような天気のいい半月の夜は、城内や城周辺の魔猫達がこの場で集会を開いている。
「おい。にゃーにゃーうっせえよ。喋らせろ」
「「「「はーい」」」」
城に住み着いている魔猫だけでなく、誰かしらの使い魔猫もこの集まりに参加しているので、とにかく数が多い。
そいつらに口々に話されては、話がまったく進まない。
「よし、全員黙ったな。お前ら、ガキを見なかったか?」
「ガキ?」
「子供って事だにゃ」
「それくらいわかるよ!」
「ガキって誰の事?」
「お城に子供っていたっけ?」
「それより誰の子だニャー。子連れもいるからわからんニャー」
「それは観光客だにゃん」
「あー……ちょっと黙れ」
「「「「はーい」」」」
いい奴らなのはわかっているが、とにかく数が多い分、五月蝿い。
関係のない話まで持ち出される前に、一旦止めておく。
このまま行けば、観光客の話題に転がるところだったからだ。
「今日の進行役は誰だ?」
「「「「カウでーす」」」」
「私ですにゃー」
名指しされ、カウというぶち猫が前へ出てきた。
初めて話す俺にか、数十の視線を集める事に慣れていないのか、しきりに周囲を見回す顔の、小さな耳はぺったりと倒れている。
緊張というより、怯え切っているらしい。




