表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は平和です。  作者: 斑猫
たまにはこんなことも
29/42

28 補佐官

「あー……、どうしよう」

書き終えた報告書の束を手に、ため息をつく。

就業時間を過ぎているがそれは大した事ではない。いつも通り、我らが魔王様が原因だ。


ありきたりだが、事は今朝に遡る。


飲み会の翌朝恒例、メイドの悲鳴を目覚ましに、魔王と二人遅めに起きた。

そして、メイドに勧められるまま共に朝食をとっていた時から、二日酔いとは別の頭痛に悩まされる羽目になった。

いや、別に二日酔いにはそうそうならないけど。今回もなってないし。

『今夜行く、爺に言っとけ』

『は? 行くってどこに? ――もしかして、メリルの所?」

『ああ。今夜も時間空いてんだろ』

『でも面会時間外じゃん』

『だから爺に言っとけって言ってんだろ。ガキにも』

『メリル』

『ガキに』

『メーリール!』

『……。メリルにも言っときゃ構わねえだろ。とにかく、伝えておけよ』


と、いうわけである。


「伝えたけどさー」

魔王は知らなかったようだったが、午後は城にいる時間はなかったのだ。

まあ、伝言を引き受けた時の私も自分の予定を忘れていたけれどさ。

「ああもう! 今日が視察だったなんてー!」

言いながら書類の間に突っ伏して、机に張り付くように力を抜くと背中が軋んだ。

最近デスクワークばっかりだったし、久々の遠出に疲れたのかな?


予定では、面会終了時間30分前に帰る予定だった。どう考えてもギリギリ過ぎる。

もし面会時間を過ぎた後に「今夜会いたい」と言っても、確実に却下される。

医務室関係者は基本、『魔王<<<<患者』の考え方だ。誰であろうと医務の規則を厳守させられる。

なので、出発前に部下に言付けを頼んだのだが、珍しい事にアルニ老が捕まらなかったらしい。

それは仕方が無い。


仕方が無い、が!


私から部下、部下から看護師、看護師から別の看護師、別の看護師からまた別の――と、伝言ゲームになってしまったのはどうなのか。

しかも、誰一人メモを使わなかったとか。

……せめて最初の私が書けばよかった!

一人執務室で頭を抱える。後悔先立たず、とはこの事だ。


「ちゃんと伝わったかなー」

帰ってからは報告書に追われ、きちんと伝わったのか確認できなかった。

一応別の部下がアルニ老からの了承を教えてくれたが、正直不安だ。

伝わったかどうかではない。伝わった内容が不安だ。

お喋り好きの看護師達を数人挟んだ分、内容が変わっていないか不安だった。

「まあ『今夜行きます』って伝言じゃ、そう変な内容にはならないか。……うん。ならない、はず……。ならないよね、普通」

ならないならないと、自己暗示のように声に出して繰り返す。

うんうん、部下や看護師達を信じよう。元はと言えば、急に言い出した魔王が悪い。

そこまで考えた所であくびが一つ。

うーん……やっぱり疲れてるのかな。昨日は飲んでて遅くまで起きてたしなー。

時計を見れば、少しくらいなら余裕はある。

「ちょっと休憩しちゃおうか」

どうせ魔王の仕事が終わらないと、メリルの元へは行けないのだし。

大丈夫だろうと考え、腕を枕に体の力を抜いた。




『リディア』



『リディア。またそんなところで寝てるの? ふふ。もう、風引くよ。ただでさえ不健康なんだから』

うるさいな。知ってるよ。

『約束があるんでしょ。ほら、早く起きて』

あとちょっとだけ。

『だ~め。時間がないの。あたしも行かなきゃ』

行くって、何処へ?

『ふふ。ないしょ! あなたも遅れたら大変よ。何処かに行っちゃうかもしれないわ』

え、行っちゃうって! 誰が!?

『ほらほら! ちゃっちゃと起きて、会いに行って』

おい! まだ聞いてないぞ!

誰がいなくなるんだよ!?

『いいから起きて!!』



「!?」



誰かの声に突然目が覚めた。

体を起こして周囲を見回すが、当たり前だが誰もいない。

確か、起きてって……。


「…………あれ?」

何の夢、だった……?


覚えていない、というより、思い出せない。

確かに夢を見ていたはずなのに、何も思い出せない。

唯一残った誰かに起こされた感覚、そんな妙な感覚に首を捻る。

そこでようやく、室温は高くないのに髪が顔に張り付いている事に気がついた。

汗で張り付いた前髪をかき上げると、額が冷たい。

いや、冷えているのは額だけではない。体中が冷え切っていた。

「……寒っ」

汗で濡れた剥き出しの背中に寒気を感じ、思わず両腕で体を抱く。

その時、腕に付いていたのか、書類が落ちた。

「あ、報告書。届けなきゃ」

落ちた書類を拾って卓上の小さな時計を見れば、大分時間が過ぎていた。窓の外も真っ暗になっている。

「うわー、いつの間に」

やはり疲れていたのか、少し寝過ぎたみたいだ。

覚えていないが、妙な夢を見たのもそのせいだろう。きっとそうだ。

急いで提出する物をまとめて抱え、上衣を羽織って席を立つ。

夢もインクも気にしていられない。あまり遅くなると、魔王の機嫌が悪くなる。

メリルの元へ不機嫌な彼を連れて行く訳にはいかない。

絶対怖がる! それは阻止せねば!

それに、これさえ届ければ後は簡単な仕事だけだ。

もう一度少しだけ休む事も、汗を流して着替える事も出来るだろう。

「少しお腹空いたなー。――ああでも、お茶だけでいっか」

この発想が不健康と言われる原因だって事ぐらい、とっくに自覚している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ