26 補佐官と魔王
やっちゃいけないお酒の飲み方が書いてあるので、気になる方は人読まないでください!!
割れたグラスや、ワインで染まったタオルをそのままに酒盛りは続く。
そして再開するリディアの愚痴大会--ではなく惚気。
「もう本当にね! 可愛いの何のって」
「……」
グラスを手離しても、リディアの惚気は続く。
「笑った顔がさ~すごい可愛いくってさ! 癒されるっていうの?」
「……」
まだ続く。
「保護者なんて嫌だけど、このままでも構わないかな~? ってたまに思っちゃうんだよね~」
「……そうか」
そこまで話して、リディアはテーブルに突っ伏した。そしてまた似た内容を話し出す。
適当に聞き流していたが、流石に聞き飽きてきたと思う。
こいつ、やけに酔うのが早いな。そこまで飲ませていないはずだが。
テーブルに突っ伏したまま、話続ける金髪を眺めていたが、右手に巻かれている包帯が目に入り、酔いの原因に気がつく。
「でさ~」
「リディア」
「な~に?」
な~にじゃねえよ。ガキか。
こちらを上げる顔は、瞼が半分ほど落ちかけている。
「もう限界だろ。いいから寝ろ」
「えー。まだいつもの半分ぐらいだって~」
首だけで周囲を見渡す姿につられ、見回してみるが、確かにいつもより少ない。
しかし、確実に半分は超えている。
「半分は行っているか……」
リディアも気がついたらしい。
「でも大丈夫だって~」
何か眠いけどね~と言いながら起こす上体は、ふらついている。
「いいから寝ろ。お前、薬飲んでる事忘れてんだろ」
「? ああ。ちんつーざいか~。……ねー。そういえばこれ、何であんなに怒ってたの?」
ぷらぷら振られる右手を見て、はて何故だったかと思い出す。
確かこいつに叩かれて、とりあえず帰ったら仕置きしようと思って。その後、ガキを連れ出しに行って……。
ああそうだ。思い出した。
「腕の立ちそうな兵士と、殺りあえなかったんだ」
「えー、八つ当たりって事ー?」
まあ確かに、八つ当たりだろう。
しかし原因はこいつが作ったのだから、自業自得でもいいだろう。
「まあいいけどさー。いつもの事だし?」
「うるせえな。いいから寝ろよ」
「う~……。でも、もう動きたくない」
言うだけ言って、リディアはソファに横に倒れた。
ここまでくると、寝付くまで時間はかからないだろう。
「おい、上衣脱げ。また朝から『シワが』って騒ぐ気か」
「わかってるよー」
愚図りながらも起き上がり、何とか脱いだ上衣をソファの背もたれに掛けた所で、リディアは力尽きたのか再び倒れた。
やっと寝やがった。
今飲んでいるボトルは空けてしまおうかと思い、一人飲み続けていたが、リディアが寝返りを打ち、意識がそちらに向かう。
うつ伏せになったリディアを見て、ついいつ見ても妙な形の服だと思った。
俺の対だという意味の白い衣装は、リディアの意見が取り入れられ、装飾は少ないが代わりに刺繍が多い。
俺は派手すぎるのと動きにくくない限り、衣装課に任せっきりにしている。
まあ、色だとかはどうでもいいとして。形が妙だと思うのだ。
悪魔にはそれぞれ特性がある。
種族名もないような下位の悪魔だろうと、何かしらある。
城内の制服に関しては部署ごとに基本衣装が定まっているが、特性を活かせるよう、それぞれ多少カスタマイズしている。
しかし、上位の悪魔はそうはいかない。
特性を引き出せるように、かつ、衣装課が趣向を凝らして個別制作する。
城にわざわざ衣装課があるのは、そのためだ。
その中でも、リディアの衣装は妙な形の部類に入ると思う。
上衣さえ着ていれば目立つ箇所はないが、脱いでしまえば別だ。
ぱっと見は人間界の神父服に似ているが、背中が空き過ぎている。首や襟、腰の部分は前面と繋がっているが、襟首から腰にかけては、一切布がない。
これで本人は寒がりなのだから、笑える。
案の定、暫くすると「さむ……」と寝言が聞こえた。
「しょうがねえな」
ボトル片手に立ち上がり、ブーツだけ脱がして抱き抱える。
相変わらず薄っぺらい身体してんな。
「なに……? ここでいいのに」
「うるせえよ」
酒盛りをした日は、毎回どちらかの部屋に泊まっている。
互いのベッドも、男が二人寝ようと余裕がある程広いので、わざわざソファで寝ようとも、寝かせようとも思ったことはない。幸い、二人とも寝相が悪いなんて事もない。
今更だろう。
完全に寝落ちたリディアを抱え、寝室の扉を足で蹴り開ける。
とりあえずリディアをベッドの上に放り投げ、ボトルをベットサイドに置くと、灯りを消しに部屋へと戻った。
灯りだけ消して寝室へ戻れば、リディアはちゃっかりシーツに包まっていた。
どうやら運ばれた後、適当にシーツだけ被って眠ったらしい。
窮屈そうな官服のままだが、気にならないのか、寝顔は穏やかだ。
ベッドサイドの明かりだけ残した部屋で一人、ボトルを呷る。
襟元を緩めてやった後、何と無く頭に手を伸ばし、クシャリと金髪を混ぜるが身動ぎもしない。
寝室まで移動しても、ベッドに放り投げても、リディアが起きることはなかった。
薬と酒の作用で、余程深く寝ているのだろう。
後、あのクソ蛇のせいで、だな。
三日前、ガキの元から来ると聞いていた俺は、まさか具合の悪そうな雰囲気で来るとは思いもしていなかった。
キールもだいぶ怯えさせられたと聞いた。偶然居合わせたとはいえ、酷い目に合わせてしまったと思う。
「……あの蛇。いつかシメる」
こいつに構うなと、何回言えば済むんだ。
ガキの頃に出会って以来、あの蛇はリディアのトラウマだ。
クソ蛇も知ってか知らずか、妙にリディアに絡む。
俺ですら極力会いたくないのだから、キールが居なければ、どうなっていたか。
礼にもならないが、今回は大人しく写真を撮られてやろうと思う。
一人飲み続け、ついにボトルの中身がなくなった頃。
さっきまで聞いていた話、というか惚気を思い出していた。
「メリリアム、か」
メインが生きていた頃も含め、話した事はまだない。
リディアや女共から、報告という名の惚気や自慢を聞くだけだ。
会いに行くべきかと思ってはいたが、俺一人で子供に会いに行くのも気が引け、後回しにしていた。
だが、明日ならリディアも時間が取れた気がした。
昼間は視察だった気もするが、リディアなら飛んで帰ってこれるだろうと考えつつ、自身の明日の予定を考える。
行くかと思った時に動かないと、また機会を逃しそうな気がした。
西の案件は後少しだし、書類を片付ける程度か。……どうしても夜になるか?
どう予定を練り直しても、面会時間外になりそうだった。
急だが、予め爺に言っておけば大丈夫だろう。
「まぶし……」
なら行けるなと思ったところで、隣から小さな声が聞こえた。
見れば、モゾモゾとシーツの中に声の主は潜って行った。
灯りをベッドサイドだけにしていたのが、逆に眩しかったらしい。
「俺も寝るか」
寝支度を簡単に済ませ、残っていた灯りも消す。月明かりが十分入り込むが、眠りを妨げる程ではない。
ベッドに入れば、寒かったのかリディアが寄って来た。
だが、たとえ女だろうが、官服の奴を抱いて寝る趣味はないので引き剥がす。
リディアの場合、冬場以外は一度引き剥がせばもう寄ってくる事はないので、それ以上気にせず俺も眠りについた。




