表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は平和です。  作者: 斑猫
たまにはこんなことも
25/42

24 補佐官と花の精と毒蛇

不幸はまとめて起こる。


頼んでよぉーという声を聞き流し、二人三脚のように歩いていたが、意外と早く執務室のあるフロアまで来ることができた。

しかし、自分の執務室へ行く前に魔王の執務室へと行かなくてはならず、さてどうするかと、魔王の執務室へ向かう途中の廊下で悩んでいると、足元をネズミが駆け抜けて行った。

私たち以外誰もいない廊下で、ネズミの小さな足音が響く。

「あの子、ハルフィーの使い魔ちゃんですよ。たぶん、陛下の盗ちょ……陛下の様子見してたのかな」

「……貴女達ね……」

しかし、何故逃げるように走っていったのか。

知り合いの使い魔なら、リルファに挨拶くらいはするだろう。

首を傾げながら、二人でネズミの走り去った方を見ていると、後ろから声が掛けられた。

「おやおや。これはこれはリドルディア様。いえ、"補佐官様"、とお呼びした方がよろしいか」

「きゃっ!」

「! ……バーグランド公爵……」

正面に顔を戻せば、現在会いたくない人物No.1が立っていた。

いや、会いたくなかった人物、だな。

「ご無沙汰しております。御挨拶叶わず、誠に申し訳ございません」

「構いませんよ。補佐官様は大変御多忙と、陛下や伝令からお聞きしておりました故」

黒と赤を基調とした衣装の上に、真黒いマント。

魔界において、上位の魔力の持ち色とされる黒をここまで全面に出して、魔王陛下と対面するとは、本当に嫌味ったらしい。

地毛の黒髪を後ろに撫でつけ、切れ長の黄色い目を強調した風貌は、本性そのもの、蛇そっくりだと思う。

ネズミが逃げたのはこいつが原因か。

正直に言えば、私も去りたい。

しかし相手の本性を嫌という程知っている分、下手に背を向けられない。

「たかが一公爵に挨拶もままならない程お忙しいとは、陛下は分配が苦手なようだ」

「いえ、力量以上の仕事を振って頂けるほど信頼して頂き、光栄な限り。今回は私の力不足が招いた結果。誠に申し訳ない」

公爵は、細い目をさらに細めて、にいっと笑った。


昔からこの男が嫌いだ。


というより、大体の悪魔はこいつを嫌う。

ねっとりと張り付くような雰囲気に、嘲笑うような笑み、そして何より、眼だ。

奥深くまで見透かされているかと錯覚する程、値踏みするように全身舐めるように見てくる。

蛇に睨まれた何とやら、誰もが居心地の悪さか畏怖を感じ、立ち竦んでしまう。

だがもし逃げ出せば、何かに襲われる。

肉体的だったり、社会的にだったりは、公爵の気分次第だ。

故に誰もが、関わらないようにする。

恐らく、廊下に誰もいないのもこいつが原因だろう。


「ところで補佐官様。そちらのお嬢様は恋人か何かですか?」

「違いますよ。わかっておいででしょう」

「ええ、まあ」

笑いを含んだ声で返事をすると、公爵はリルファの方へ身を屈めた。

急に近づいた顔に、リルファが小さく悲鳴をあげる。

「そんなに怖がらずとも、取って食いやしませんよ。たとえ悪食と呼ばれようと、花を食べる趣味はないのでね」

小さく震えながらしがみつくリルファを抱き寄せ、背を軽く叩く。

ここで公爵の機嫌が崩れれば、被害に会うのは彼女本人だ。

頼むから落ち着け。

「バーグランド卿。彼女は急に話を振られて驚いただけですよ」

「おや? 随分とお優しい」

嫌な目がこちらに戻る。

心臓が大きく跳ね上がる。

怒り狂った時の魔王の恐怖とは、また別の恐怖が身を包む。

「やはり上が甘いと、部下も甘くなるものですね」

「私はともかく、陛下はお優しいだけです。城の者一人一人を、気に掛けて下さる方です」

「城の者、ねぇ」

「何か仰りたい事でも」

あるのか、と聞こうとした時、上衣の裾を引かれた。

リルファだ。

表情には怯えが残っているが、持ち堪えたらしい。

抱き寄せていた腕を緩める。

「し、失礼しまし、た。……リルファ・キールと申します」

「ふうん。構いませんよ」

リルファの方を横目で見ていると、急に冷たい手が頬に添えられた。

ぞっと身体を何かが走る感じがした。

息がし難い……。

「私は補佐官様に会えて、機嫌が良いのですよ」

こっちは気分が悪いよ! 早く消えてくれ!!

身体が震えそうになるのを、何とか気力で抑える。

「先程の続きですが」

まだ終わらないのかよ!? それより手、離せ!!

「最近、面白い存在が、城内に住み着いたそうですね」

「!?」

「それって……」

不味い相手に知られた。

リルファも、焦った様子でこちらを見上げてくる。

「人間如きに目を掛けるなど、陛下は本当にお優しいらしい」

「え、ええ。種別が何であれ、陛下は手を差し伸べますよ」

「ほう。では、彼女には手を出さないでおきましょう。魔王陛下からのお叱りなど、さぞ恐ろしいものでしょうから」

小馬鹿にするように言って、人の頬から喉を一撫ですると、公爵は挨拶だけして通り抜けて行った。


暫く公爵の後ろ姿を見送っていたが、姿が完全に見えなくなると、体の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。

「リディア様!?」

「大丈夫。……大丈夫ですから」

「でも顔色が……」

ああ、情けないなと思った時、甘い香りと温かい物に包まれた。

視界の下の方に揺れるカメラが見え、リルファの腕の中にいるのだとわかった。

「リルファ?」

「落ち着かれるまで、こうしてますから」

「……すみません」

込み上げる恐怖が収まるまでの僅かな間、リルファはただ抱きしめてくれた。


「ありがとうございました。もう大丈夫です」

立ち上がり、リルファに手を差し出す。

「いえ、むしろリディア様がいなければ、どうなっていたか……」

私の手を握り、リルファも立ち上がる。

胸元で両手を握りながら頬を染める姿を見て、何故かこちらまで照れてくる。

「そんな事……。あの、えっとー。ああ、今戻るとまた出会す可能性がありますし、一緒に陛下の元へ来ますか?」

「やったー! ありがとうございます! じゃあ、写真は自分で頼みますね」

「是非そうして下さい。さ、行きましょうか」

「あ、リディア様!」

「はい?」

歩き出そうとしたが声を掛けられ、振り返ると目の前にリルファの顔があった。

驚いて固まった瞬間に、軽い音を立てて、背伸びしたリルファに頬にキスされた。

「!」

「助けてくれたお礼です」

「貴女ね、そんなホイホイと……」

「あら、私は安売りしてないんですからね」

「え」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ