21 補佐官と医者
大丈夫そうだと言われ、ひやりと冷たい蹄が額から外される。
酷い顔でもしていたのか。
「さて、これは渡しておくでの」
そう言ってアルニ老は、近くにあった小さい棚の一番下の引き出しを開けた。
ちらりと覗けば、大量の書類やカルテの類がみっしり入っている。
その中から一つだけ色の違う、付箋のついたファイル取り出すとこちらに渡してきた。
紅茶を机に置いてから受け取るが、流石に開けてもいいのか悩む。
「えっとー、見ても構わないのですか?」
「ふむん。メリルの居住やその他諸々の手続き書での。ほれ、いつまでも病室住まい、という訳にもいかんからの。いつ患者で埋まるかわからんし」
受け取ったファイルを開けば、中には城での住まいの手続き等、城勤務の者なら一度は書いたことのある書類が入っている。
「あの、住まわせるって城内だったのですか」
「他にどこが?」
「……ないですね」
人間がいるということ自体、機密なのだ。外部に任せられるはずがない。
見ても構わないと言われたので、書類を捲っていくと、途中であることに気がつく。
「あの……アルニ老。何故、保護者が私の名前に?」
「だって、適任じゃもん」
こっのじじい!! もん、とか言っても可愛くない!
何が適任なんだ! 子育て経験者に任せろよ!
ついつい書類を握りしめてしまい、くしゃくしゃになりかけ、慌てて一度膝に置く。
だがすぐに、気がついたアルニ老に持っていかれる。
「あーあ、しわくちゃにしてー。わしの推薦での。なに、とりあえずじゃ、とりあえず」
「なら、いずれ代わっていただけると?」
「ふむん。嫌なら仕方ないでの。まあ、しばらくは任せるでの。代わりはすぐ見つかるじゃろうから、安心せい」
ならいいか、と思いほっとする。
メリルの事を知っている人物は、少なくなさそうだし、嫌われてもいないのだろう。最初から他に任せて欲しい。
第一、私は普段から仕事でいないのだし。
そう、仕事が……
「そうだ仕事!! 保護者とかやっている時間ないですよ!!」
「大丈夫大丈夫。ちゃーんと、陛下にも許可はとってある。仕事に影響は出ないじゃろ」
話しながら、シワを伸ばしたファイルを渡されるが、上手く掴めず下に落ちた。
床に書類が散らばる。
え、今、何て?
「へ、へへへ陛下にも、話したのですか!?」
「当たり前じゃろ。陛下の契約者の子でもあるんじゃ。報告するのは当然じゃろ」
「そうですけど!」
そこじゃない! 問題は話した内容の方だ!
ああもう! 絶対に面倒なことになるー!!
凄くいい顔で人を揶揄おうとする魔王が頭に浮かび、頭を抱える。
「ほっほっほ。陛下に知らせた時、悪童みたいな顔して笑っておったの!」
もこもこした身体を揺らしながら笑うアルニ老を、久々に本気で引っ叩きたいと思った。




