18 補佐官と少女
メリリアム・ハウアー、ね。
そういやメインには娘がいたんだっけ。すっかり忘れていたが。
そうか、この子が。
「リディア、どうしたの? 頭痛いの? おじいちゃん呼ぶ?」
「いえいえ、大丈夫です。失礼しました」
深呼吸をして顔を上げると、心配そうな顔で、メリルがこちらを見上げていた。
「大丈夫?」
「ええ。ちょっとびっくりしただけです。メインから子供がいるという話は、聞いていたのですが」
「うん。会うのは初めてだよ。ママがね、『体に悪いから、まだ会っちゃダメ』って言ってたから、魔界のみんなが来ていた時はお外にいたの」
「へえ、メインがそんな事を」
意外だった。
きちんと母親をやっていたのか、と正直思ってしまった。
メイン自身、子供のような性格だったのに、まさか娘を気遣う事ができたとは。
「うん。えーと、『悪魔の魔力に当てられちゃうから、ダメ』って言ってた」
「ああ、なるほど。確かに子供の身にはきついでしょうね」
下級の悪魔ならともかく、メインは上級悪魔とも契約を交わしていた。
悪魔の身体から溢れる魔力は、幼い人間の子供には毒だ。長時間傍に居るだけでも、体に不調を来すだろう。
だからこそメインは、悪魔たちとメリルを離したのだろう。
思い出しながら話すメリルの顔は、もう寂しさを感じさせず、ただ楽しそうに母親の事を思い出しているようだ。
「それにね。『それを教えてくれたのが、リディアなのよ』って、ママ言ってた」
「……そういえば。――確かにそんな話もしましたねぇ」
思わずしみじみ言ってしまった。
確かに妊娠中のメインに言った気がする。素直に子育ての参考にしていたとは、驚きだ。
それにしても、悪魔を呼ばないと言う選択肢はなかったのか、あいつは。
「だからリディアは、ずっと前からおんじんなんだよ」
「そうでしたか」
この子がここにいるのが私のおかげ、と言うのなら、とても嬉しいと思う。
どこかほっとして、メリルの頭を撫でると、照れながらも嬉しそうに笑った。
魔力が毒になるという事を、メインが覚えていてくれてよかった。
ん?
魔力が……毒。
それに……例外はない、はず……。
撫でていた手が止まる。
「メリル」
「えへへ、なあに?」
「今、体は平気ですか? 苦しい所とかは」
「ないよー。おじいちゃんも、大丈夫って言ってたよ」
撫でていた手を引き、顔色を確認をしてみるが、至って健康そうだ。
きょとりとこちらを見上げる目にも、嘘はなさそうだ。
おかしいな。アルニ老に確認しないと。
「どうかしたの?」
「いいえ。ああところで、この人形たちは誰が?」
「本はお医者さんたちがくれたの。『好きに読んでいいよ』って。ぬいぐるみは、大っきいのがリリーちゃんたち。中くらいのがナナちゃんたち。この子は、よいしょ。この子はおじいちゃんがくれたよ」
『この子』と最初に言った時、メリルは隣のぬいぐるみを抱きしめた。
『誰ちゃんたち』、が多いな。
一体何人が、この子の事を知っているのだろう?
確かに機密とは言っていなかったが、普通に考えても広めてはいけない内容だろう。
まあとにかく、小さいのがアルニ老からか。
常識的サイズだったのが、何故こんなに大きな着ぐるみサイズに?
ベット横で異様な存在感を放つぬいぐるみは、どうしても視界に入る。
ベットで半分隠れているからわからないが、もしかしたら私より大きいかもしれない。
「おじいちゃんがこの子をくれたの。そうしたら、みんなも色々くれたー」
ああああ、想像ついた。
きっと競っていって、あのサイズになったな。
まったく予算は何処から出したんだか……。
渋い顔をしたのがわかったのか、下からの視線に不安が混ざった。
予算だ何だを考えるのを止め、何でもないと言えば、メリルは更にぬいぐるみを抱きしめた。
一旦、話題を変えようか。
「えー、私から質問してばかりですね。メリルは、聞きたい事はありますか?」
「……何でもいいの?」
「ええ、もちろん。答えられる範囲なら」
「…………言っても怒らない?」
何を聞く気だ。
顔をぬいぐるみに埋めながらも、聞いてくる根性は凄いなと思う。
そんなに気になる内容があるのか。答えられるのだといいのだけど。
「大丈夫、怒らないですよ。何でもどうぞ」
「じゃ、じゃあ。あのね、えっとー……」
一拍開けて出された質問は、ちょーっと予想の斜め上を行っていた。
「リディアって男の人? 女の人?」




