17 補佐官と少女
どうやら警戒心を解くのは、思っていたより簡単だったようだ。
警戒心剥き出しかと思っていたが、何だろうこの子は。すごい素直だ。警戒心という物がないみたいだ。
捕まったりしていたのだから、もう少し疑心暗鬼かと思っていたんだけど。
『友達』というのが嬉しかったのか、赤く染まった頬に手を当て、照れている様子は凄く可愛い。
時々漏れる笑顔と笑い声に、こちらまで笑顔になりそうだ。
うーん、他の来訪者も"これ"にやられたな。
いつまでも見ていたいが、一応は面会時間がある。話を戻さないと。
「ねえ、メリル。話を戻してもいいかな?」
「は! ご、ごめんなさい! つい嬉しくって」
素直だなー。どうやったら育つんだ、こんな子。
子供の世話なんてした事がないからわからないが、こんな素直には育て難いだろう。
「いいですよ。さっきの『助けてくれた』って、何の事ですか?」
「えっと、蔵に来てくれたのは魔王様だって聞いたの。それで、魔王様が来てくれたのは、リディアが言ってくれたからだって。だから、だからリディアに会ったらお礼しなきゃ! って思ってたの!」
キラキラした目に、つい首が明後日の方向を向く。
うう、心が痛む……。
実は魔王は叩き出したし、人ではなく動物だと思ってペットもいいな、なんて考えていたとは言えない。
……ごめん、メリル……。
「そ、そうですか。無事でよかったです……」
「うん! ありがとう! リディア!」
にこにこ、キラキラ。
ああ、辛い……。
「それにね。ママが、私は『リディアのおかげで生きてるんだよ』って言ってたの」
「? "ママ"って、メリルのお母さんだよね?」
え、この子とは初対面じゃないのか?
母親の方とは、面識があったのか?
メリルの笑顔が急に曇った。
「うん。この前の夏に死んじゃったけど」
「あ! ごめん……」
そうだ。蔵に閉じ込められていたのに、親が近くにいるはずない。
亡くなったとは聞いていなかったが、考えればわかる事じゃないか。
小さく笑う姿は、どこか寂しそうだ。
「いいの。『ママは死んじゃうけど、いつも一緒だよ』って、お守りくれたから、さみしくないよ」
そう言って、棚の引き出しを見る。
恐らくそこに仕舞ってあるのだろう。
「そう、偉いですね。それに、優しいお母さんだったんですね」
「うん! みんなのことも、ママから聞いたよ。リディアってえらーい人なんでしょ!」
寂しそうな表情から、すぐに明るいキラキラした目に戻った。
感情豊かなんだな、と感心する一方、メリルの言葉が引っかかった。
? えらーい人、って魔王補佐の事だよな。
腕を組み、考える。
その事を知っている人間は、とても少ないはずだ。
名だたる上級悪魔と違い、私の一族は契約向きではない。一族の者で契約をしている奴もいるが、何かしらで有名な奴らだ。
名前を知らないと召喚できないのに、有名ではない私が呼ばれる事は数少ない。
第一、好き好んで"私を"呼ぶ奴なんて、それこそ稀だ。
だからこそ、近年は誰とも契約をしていない。
まず、呼ぶ人間が……………………いたな、呼んでいた奴。
行き着いた嫌な答えに、思わず手で顔を覆う。
あー、そうか。
そういうことか。
「ねえ、メリル」
「なーに?」
「君の名前、もう一回教えてくれますか? 苗字も含めて」
きょとり、とした顔が指の間から見えた。
「名前? メリリアム・ハウアー。メリリアムだから、メリルなんだよ」
やっぱり……。
「じゃあ……、お母さんの名前は?」
「あれ? おじいちゃん、言ってないの? ママは"メイン"・ハウアーだよ」




