13 補佐官と医者
サイドテーブルの水差しからグラスに注ぎ、薬と共に一気に飲み込む。
「まったく。仕事中毒も良い加減にしなされ」
「今は休めないんですよ」
「ああ。確かに書類が、稀に見る高さになっておったの」
知っているんじゃないか。
ついジト目で見てしまうが、気にもされずに笑われる。
「魔王様にも困ったもんじゃの。ま、言っておいたんで、マシになるじゃろうて」
「なり、ますかね……。結構な量が溜まっているんですよ」
「ふむん。書類仕事なら、昨夜から取り掛かっておるでの。リディア様”で”憂さ晴らししたんで、すっきりした顔しとったでの」
あの野郎……!
随分手荒だと思ったら、憂さ晴らし込みか!
人を何だと思っているんだ!
手に持っていたグラスにヒビが入り、取り上げられる。
「危ないのう。指まで怪我をしてしまうぞ。ほれ、深呼吸深呼吸」
言われた通り、深呼吸をする。
「よしよし。骨まで達しとるから、気を付けんと」
「骨!? そんなに酷いのですか!?」
「うむ。メイドの子が飛び込んだから、それで済んでの。彼女が居らんかったら、骨も砕けとったかもしれんの」
ああ、彼女か。
今度お礼をしに行かないとな。
「なんでも、聞き耳立てつつ入ろうか迷っとったら、急に悲鳴が聞こえて驚いた、と言っておったの」
……お礼はいらないな。
きっと抉られていた時には、扉の前にいたんだろう。
その時に入って来て欲しかった。
ついでに言えば、悲鳴……忘れてくれないかな……。
思わず出たため息に、蹄でグラスのヒビを突ついていたアルニ老が笑う。
「リディア様相手じゃと、手加減せんからの。やりすぎじゃと、きつーく言っておいたでの」
「……ありがとうございます」
それで聞いてくれれば、苦労はしないのだけど。
まあ、しばらくはマシになる、か?
「じゃが、王の命令は聞かんといかんのでの。縫っておらんよ」
「……」
やっぱり、伝えていやがったのか。
「ああ、そうそう。あの子も無事じゃよ」
えーと、あの子あの子……、誰のことだ?
「何じゃ、聞いておらんのか? 昨夜、魔王様の部屋に人の子がおったんじゃよ」
「あー! いた! いましたね。すっかり忘れてた!」
情けなさにベットに崩れる。
本気で忘れてた。
「忘れるなんて酷いのう。まだまだ幼い人の子じゃったよ。まったく……、主らの子じゃろうに」
アルニ老を気にせずうつ伏せになり、柔らかなクッションに顔を埋める。
そうだ、何で忘れていたんだろう。
ソファの上にいたじゃないか。
昨日一日、頭を抱える羽目になった原因で、怪我が悪化した原因なのに。
………………ん?
クッションは抱えたまま、顔を上げる。
振り返れば、アルニ老は相変わらず人のいい笑顔のまま。
「アルニ老、今何て?」
「『酷いのう』、って言ったの」
「いえ、その後」
「『人の子じゃったよ』」
「……遊んでいるでしょ」
「ほっほっほ。すまんすまん、ついの」
「いいですよ。で、もう一度」
「『主らの子』、と言うたの」
あ、聞き間違いじゃなかった。




