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今日も魔王城は平和です。  作者: 斑猫
はじめまして、
13/42

12 補佐官と医者

あれから後のことは、実は良く覚えていない。


というのも、適当に投げたはずのタオルが奇跡的に、そう一直線に魔王の顔に直撃し、彼の機嫌が再下降してしまったのだ。

そこからが酷かった。


しまった! と思った時には、時すでに遅し。

逃げようとしたが、貧血で縺れた足ではすぐに捕まり、床に引き倒されてしまった

その上、裸足だとはいえ、ついさっきまで爪で抉っていた傷を踏みつけてきた。

しかもよりにもよって、踵で踏みつけてくるもんだから、痛いなんてもんじゃない。

失血で遠のきかけた視界の中で、慌てた様子で入って来るメイドと、まあ機嫌よさげに人を踏む魔王が映ったのは、ギリギリ覚えている。

だが、そこから先は覚えていない。


目が覚めたら自室のベットに寝ていた。

手には新しい包帯が巻かれ、枕元のサイドテーブルの上には、水差しと大量の薬。

……これ、全部飲まないといけないのか。

上体だけ起こし、とりあえず手を確認してみる。

包帯はだいぶきつめに、かつ分厚く巻かれているから、恐らく縫われていないのだろう。

包帯が厚すぎて強く握ったりはできないが、軽くなら物も掴めそうだ。きっとペンもいける。

よし! 仕事に支障なし!

数回、握ったり振ったりしてみるが、ありがたいことに痛みを感じない。

麻酔か何かかだろう。

痛みどころか感覚のない手を見て、つい考えてしまう。

きっと魔王に止められたな。

アルニ老め、ここまでやってくれるなら、こっそり縫ってくれればよかったのに。


「そういう訳にもいかんのよ」

「!?」


考えを読まれたようなタイミングで、返事が返ってきた。

驚いて声の方を見れば、ちょうど扉の所にアルニ老こと、アルニエール医師が立っている。

いつから居たんだ。全然気がつかなかった。

後ろ手に扉を閉めると、人の良さそうな笑顔を浮かべて枕元に来た。

「ほっほっほ。手をぐっぱぐっぱしている時に来たでの。後、全部声に出とったよ」

「……こえをかけてください……」

「ほっほっほ。すまんの。寝ているかと思うておったんでの」

笑うたびに、モコモコした頭と腹が揺れる。

白いモコモコに、白い顔。更に白衣を着ているから、全身真っ白い。


アルニ老は何処をどう見ても、羊だ。


いつも白衣を着ているから、どうなのか知らないが、絶対、全身モコモコだと思う。

何百年も城で働き、何代もの魔王に仕えてきた……とか。

「リディア様。起きているなら、薬を飲んでくだされ」

「ええ。どれが何の薬ですか?」

「今言って覚えられるんかの?」

「大丈夫です。頭は痛いですが、意識ははっきりしてますので」

「そりゃただの貧血じゃの。後で処方箋を書いておくんで、今はこれだけ飲んでくだされ。化膿止めと鎮痛剤じゃ」

そう言って、白衣のポケットから新たに数錠を取り出し、アルニ老はベット脇に座った。

飲むまで動かない気だな。

「あの」

「何かの?」

「眠くなります?」

「ふむん。じゃが、激痛と貧血の中で仕事をするのと、多少の眠気と戦いながら仕事をするの、どちらがお望みかの?」


飲むしかない。

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