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第4話 城の使用人達

寝室の空気は、痛いほど静まり返っていた。

どれほどの時間が経ったのだろう。

未亜は重い瞼をゆっくりと開いた。思考が霧に包まれたように鈍く、身体の奥底が鉛のように重い。

魔界へ来てから、一度として深く眠れたことはなかった。

恐怖に身体が限界を迎え、気を失うという形で、初めて深い眠りに落ちてしまったようだった。

 

(……そうだ、私は……)

 

意識が覚醒するにつれ、脳裏を駆け巡ったのは、鮮明すぎる悪夢の記憶だった。

あの大理石の床に這い込んできた恐ろしい四つ目の白い魔鳥。そして、巨大な魔鳥を、一瞬で黒い灰へ変えたヴェルラウトの手。 自分に向けられてまっすぐに伸ばされたあの手が、脳裏に強く焼きついて離れない。

 

「ヒッ………ッ!」

  

喉の奥で押し潰された悲鳴を上げ、未亜は跳ね起きるように身体を起こした。

次に灰にされるのは自分なのだという恐怖に、全身が激しく震えた。けれど、周囲を見渡しても、あの絶世の異形の魔王——ヴェルラウトの姿はない。

そこで未亜は初めて、自分が冷たい大理石の床ではなく、驚くほど柔らかい天蓋付きのベッドの上に横たわっていたことに気づいた。

 

(……寝室……? 私、倒れて……)


まさか——。あの男が抱き上げたのだろうかと思うだけで、全身が粟立つ。 

想像を振り払うように首を振り、ふと見上げた天井の疑似天窓――そこに嵌め込まれた巨大な魔導大結晶からは、暖かな、けれどどこか切ない茜色の光が降り注いでいる。魔界の時間を刻むその光は、夕暮れを示す色のままでまだ変わっていない。あの魔鳥が襲いかかってきてから、それほど長い時間が経過したわけではないらしい。


(よかった……、まだ、殺されてない……)


未亜は小さく息を吐き出し、胸を撫で下ろした。

 

――ガン! ガン!


その安堵を切り裂くように、部屋の外から鈍く重い打撃音が響いた。

身体が恐怖で凍りつく。未亜は薄いシーツを握りしめ、喉を詰まらせた。

あの白い魔鳥の仲間がやってきたのだろうか。あの恐ろしい爪で、壊れた窓から再び侵入しようとしているのだろうか。

心臓が早鐘のように嫌な音を立てて鳴り響く。行ったら危険だ。ここでじっと固まっているべきだ。頭の中の理性がそう叫んでいるのに、扉の向こうで渦巻く「異常」を確かめずにはいられなかった。

逃げ場のない鳥籠の中で、何が起きているのか分からないこと自体が、未亜の正気を少しずつ削っていくからだ。


未亜は震える足取りでベッドから下りると、音を立てないよう忍び足で寝室の扉へ歩み寄った。

冷たい金色のドアノブに手を掛け、息を殺して隙間からリビングを覗き込む。そして見えた光景に、未亜は息を詰めた。

 

広大なリビングの奥、バルコニーに面した大きなアーチ窓は、相変わらず無残な姿を晒していた。

強化ガラスの破片が茜色の光に反射し、床一面にキラキラと飛び散っている。その間には、血で黒く染まった羽根が何枚も落ちていた。

侍女のステラとネルが、慣れた手つきで箒と塵取りを手にし、黙々とその惨状を片付けている。

だが、未亜の目を釘付けにしたのは、彼女たちではない。

リビングの中央、壊れた窓の前に立ちはだかる、見覚えのない巨大な「背中」だった。


「……っ!?」


未亜は思わず両手で口を覆った。

それは、人間界のプロレスラーすら遠く及ばない、丸太のように太い首と、岩を削り出したかのような暗灰色の筋肉に覆われた巨体だった。身長は二メートル半を優に超えているだろう。油と怪しい血の汚れが染み付いた濃紺のオーバーオールを着込み、その背中からは――あり得ない光景が広がっていた。


太く逞しい腕が、左右に三本ずつ。計六本もの巨大な腕が、その巨体から生え出ていたのだ。

上の二本の腕で巨大な建築資材を軽々と支え、中央の二本で見たこともない怪しい工具や大槌を振るい、そして下の二本で定規のようなものを当てながら、窓枠の寸法を測っている。

さらに、その巨体の頭上では、鼻を刺すような独特の紫煙がくゆり、リビング全体に漂っていた。


怪物だ。また新しい、恐ろしい怪物が部屋にいる――。

  

人間離れしすぎたその異様な姿に、未亜の背筋を冷たい汗が伝う。

恐ろしさと気持ち悪さに喉の奥がヒュッと鳴るのを止められなかった。

 

「あぁ、ミア様。お目覚めですか」


壁際に立っていたステラがふと、塵取りから顔を上げ、ドアの隙間にいた未亜に気づいた。

長い尖り耳と黒い羽を揺らし、ステラは至って平然とした、静かな声で告げる。


「ご安心ください。陛下のご指示で、城一番の修繕頭を呼び寄せましたので」

「修繕……頭……?」


未亜がかすれた声を漏らすと同時に、トントン、とリズムよく打ち付けられていた大槌の音が止まった。

ゆっくりと、あの六本腕の巨躯がこちらへと振り向く。


「ヒッ……!?」


未亜の喉から、小さな悲鳴が漏れた。


振り返った男の顔の真ん中には、大きな目が「ひとつ」しかなかった。

額には頑丈そうな二本の角が小さく突き出し、口元からは鋭い牙が覗いている。

一つ目が未亜を捉えた瞬間、未亜の顔からは完全に血の気が引いていった。

しかし、当の怪物は、未亜の恐怖など露知らず、ひとつ目をくしゃりと細めて豪快に笑いかけてきた。


「おう! アンタが魔王陛下のお気に入りか! えらい別嬪さんじゃねぇか!」


雷鳴のような大声がリビングに響き渡る。


「よろしくな、俺ぁドカってんだ!!」


ドカと名乗った一つ目の巨人は、顔の真ん中にある巨大な一つ目を細め、怪しい紫煙をくゆらせる葉巻を口の端に咥えたまま、親しげに手を振ってくる。


「すぐに直してやっからちょっと待ってろ!!」

   

ガッハッハ、と太い首を鳴らして笑うと、ドカは壊れた窓枠を6本の腕で豪快に叩いた。


「それにしても、派手にぶっ壊されたなこりゃあ!」

 

お腹の底から響くような高笑い。


「ボクだって、これくらいなら簡単にぶっ壊せる!……でございますわよ!」


あの魔鳥と張り合おうとしているのか、ネルが口を大きく開けて、言い返した。龍の鱗を纏う尻尾が、不満そうに床をバタン、バタン、と叩いている。

 

「ネル、尻尾を静かになさい。せっかく集めた羽が、また散らかってしまいます」


ステラが冷静に、妹分のネルを叱りつける。

その光景の全てが、未亜を絶望させていく。

 

彼らにとっては、これが「日常」なのだ。

魔鳥が暴れ、窓が砕ける――それは魔界においてただの「少し派手な破損」に過ぎず、だからこそステラもネルも、何事もないかのように淡々と掃除をこなしている。

けれど、未亜にとっては違う。

視界に映るすべてが、常軌を逸していた。

鳥の足と翼を持つ女。竜の角と太い尻尾を揺らす少女。そして、六つの腕と一つの目を持つ巨漢。

彼らの当たり前と、自分の当たり前の、絶望的なまでのズレ。彼らが笑顔を見せれば見せるほど、その気さくさや親しみやすさが、かえって未亜の恐怖を煽っていく。


「あ……」

 

返事どころではなかった。喉がヒックヒックと引きつり、呼吸の仕方さえ分からなくなる。

未亜は真っ青な顔のままガタガタと震え、壊れたおもちゃのように頭を振ると、バタン!!と音を立てて寝室の扉を閉め切った。

未亜は白銀の扉に背中を預け、そのまま崩れ落ちるようにずるずると床へ座り込んだ。

膝を抱え込み、耳を塞ぐようにして、爪が皮膚に食い込むほど強く頭を抱える。

 

「もう……いや……っ。」


誰にも届かない掠れた声は、寝室の静寂に吸い込まれて消えた。

ポロポロと目から零れ落ちる涙が、格式高いベルベットのドレスを濡らしていく。

頭がおかしくなりそうだった。

優しくあたたかなカフェの匂いも、街の雑踏も、自分を「未亜」と呼んでくれた人たちの声も、ここには何一つ存在しない。

言葉が通じているように見えても、彼らは全員、理解の及ばない恐ろしい怪物なのだ。

自分は本当に、とんでもない世界に連れて来られてしまったのだという絶望が、冷たい毒のように未亜の全身を侵食していった。

降り注ぐ、懐かしい色をした茜色の光は、あまりにも暖かく、どこまでも優しかった。

けれど、世界一豪華な鳥籠の中で一人膝を折る未亜にとって、その温もりは恐怖をあざ笑う何よりも冷たい偽物だった。

 




 



静まり返った寝室の扉に背中を預け、膝を抱え込んだまま、未亜はただじっと呼吸を殺していた。

外界の風も匂いも遮断されたこの豪華な鳥籠においては、光の色彩が変わることだけが、時間を告げる唯一の道標だった。

疑似天窓から差し込む魔導大結晶の光は、深みを増した紫を孕んだ紺色へと傾きつつあった。

魔界の空が、逢魔時の色に染まっていく。時間の感覚を奪われたその空間で、未亜はただぼんやりと、床に落ちる薄闇の影を見つめていた。

 

やがて、リビングを揺らしていたあの恐ろしい重打音や削岩音がぷつりと途絶えた。

代わりに訪れた不気味な静寂に、身をすくませて息を殺す。

それから少しして、コンコン、と軽く扉を叩く微かな音が届く。

だが、未亜が返事をする猶予など、最初から与えられてはいなかった。ノックとほぼ同時に、カチャリと重厚な金属音が響くと、遠慮のない動作で重い扉が押し開けられようとする。

いつものことだった。この城の侍女たちにとって、未亜の部屋の扉などないに等しいのだ。

しかし、扉は開き切るよりもずっと前に、ダンッ、と鈍い音を立てて途中で止まる。


「……あら」


扉の隙間から漏れたのは、ステラの冷静で冷ややかな声だった。

扉が引っかかったことへの驚きもなければ、扉の裏にうずくまる未亜を心配する素振りすら欠片もない。

開かないのであれば、無理に押し開ける労力すら惜しいと言わんばかりに、ステラはそのまま隙間越しに淡々と用件を告げた。


「ミア様、お夕食の時間でございます。お支度を」


魔界の住人にとって、食事は本来、一日に一度で済むものだ。

けれどヴェルラウトは、脆弱な人間の未亜のために、東の塔の専属厨房に一日三回の食事を給仕させていた。

そして、昼こそ執務で不在のことが多いものの、朝と夜には必ず、あの恐ろしい魔王が真向かいの席に現れる。

これまでの未亜は、異形たちの放つ圧倒的な威圧感に気圧され、言われるがまま、操り人形のように従うことしかできなかった。

けれど、今日起きた凄惨な出来事の数々が、未亜の小さな胸の限界を完全に打ち砕いていた。


「……行き、ません」


膝に顔を埋めたまま、未亜はかろうじて声を絞り出す。出てきたのは、小さく、震える声だった。

けれど、魔界へ連れて来られて十三日目にして、未亜が初めて明確に口にした「拒絶」の言葉だった。 

扉の向こうで、呼吸が止まるような一瞬の沈黙が落ちた。

  

「何も……食べたく、ないの……。」


弱々しい声が、扉の隙間を抜けて廊下へと漏れ出る。

 

「お願い……っ、ひとりにして……っ」


あまりにも悲痛な心の叫びだった。

唇を噛み、未亜は震える手を膝の上で強く握りしめる。

直後、扉の向こうから聞こえてきたのは「はぁ?」とネルの呆れ返った素っ頓狂な声だった。

人間ごときが、魔王陛下の用意された食事を突っぱねるなど、理解が追いつかないのだろう。

 

「おいおい人間、夕飯いらないって言ったのか!?」


いつもとってつけたように語尾を付け足していた竜人族の少女にしては珍しく、口調を崩すほど困惑しているようだった。

しかし、それを制するようにステラが短い息を吐く気配がした。


「……かしこまりました。それではミア様は体調が優れず、お休みになられていると陛下にはお伝えしておきます」


思いのほかあっさりと引き下がったステラに、ネルが焦ったような声を上げる。


「え!?いいのかよ、ステラ!?」

「構いません。行きますよ。すぐに陛下にお伝えしなければなりません」


未亜にそれ以上、何か言葉をかけることもなく、ステラは冷淡に重い扉を閉じた。

遠ざかり始めるネルのひそひそ声が、扉越しに漏れ聞こえる。


「で…っ、でも!魔王様、ご飯の時間、めちゃくちゃ気合い入れて仕事終わらせて来てんのに…!!僕たち、怒られちゃうんじゃないか?!」

「仕方がありません。無理に連れ出して、朝に続き夜まで陛下の目の前で倒れられては、それこそ私たちの首が飛びます」


ステラの冷淡な声が続き、不規則で硬い爪先の足音と、不機嫌そうに床を小突く尻尾の音が遠ざかっていく。

最後に、パタンと重い扉が閉まり、カチャリと外から施錠される音が響いた。


——拒絶が、通じた。


怒り狂った魔王が部屋になだれ込んでくるわけでもなく、強行突破されるわけでもなく、ただ静寂が戻ってきたのだ。

嵐が過ぎ去ったような静寂が戻り、張っていた糸が切れたように、全身の力が抜ける。未亜は抑えていた息をようやく吐き出した。

 

ふ、と視界に映ったのは、寝室の窓辺から見える空だった。

格子越しの狭い空に、夜へと沈みゆく紺色にはなりきらない、魔界特有の紫の薄闇が広がっている。

未亜は重い身体を引きずるように起こした。

すり減った精神と恐怖で足元がおぼつかない。

それでも吸い寄せられるように、未亜は部屋の端にあるアーチ状の窓辺へと歩み寄った。

ガラス越しに見た先には、東の塔の敷地に広がるプライベートな庭園が広がっている。

鏡のように滑らかな白銀の石畳が敷き詰められ、紫の闇が深まるにつれて、足元の苔が淡い月光のような光を放ち始めていた。

夜の訪れとともに開く花々は、まるで透き通るクリスタルのように細工された花弁を揺らし、幻想的な輝きを散らしている。

中央には、透き通った水が静かに湧き出る白磁の噴水。過酷で不気味な魔界の中で、外灯の柔らかい黄金色の光に照らし出されたその庭は、おとぎ話の挿絵のようにどこまでも麗らかで美しい。


(あ……)


その庭園の片隅で、外灯の柔らかい光を浴びながら、せっせと花々を手入れしている小さな背中が、未亜の目に留まった。

未亜は思わず窓ガラスに顔を寄せ、目を凝らした。

つぎはぎだらけの小さなオーバーオールを着たその人物は、自分よりも大きなじょうろと大きなハサミを抱え、クリスタルの花々の前にしゃがみ込んでは、優しく葉を撫で、お水をあげているようだった。

背丈は、せいぜい小学校低学年くらいの人間の子供ほどしかない。


(……人間の……子供……?)


未亜の胸に、激しい衝撃と波紋が広がった。

あんな小さな子供まで、あの魔王は人間界から攫ってきて、こんなところで働かせているというのか。

湧き上がってきたのは、魔王に対する激しい憤りと、そして——言葉にならない強い想いだった。

自分だけではなかったのだ。この恐ろしい怪物たちの城に囚われ、理不尽な運命に耐えているのは、自分一人ではなかったのだ。

孤独に潰されかけていた胸に、すがるような想いが芽生える。 


(助けなきゃ……っ)


ぎゅっと、窓枠を握りしめる手に力がこもる。

あんな小さな子が一人で泣いているかもしれないのに、諦めて絶望している場合じゃない。あの子を絶対に見つけ出して、一緒になんとしてもこの城から逃げ出し、必ず人間界へ連れて帰らなければならない——。

未亜は窓ガラスに両手を押し当て、すがるような心地であの小さな背中を見つめ続ける。

暗闇の中に、ひと筋の光が差した気がした。

それは、ただ閉じ込められ、殺されるのを待つだけの存在だった未亜に、初めて芽生えた「目的」だった。

折れかけていた彼女の心に固い決意の炎が灯った、その瞬間だった。

庭の小さな人物が、未亜の視線に気づいたように、ふと振り返った。


「——……っ!?」


未亜の息が止まった。


外灯の光に照らし出されたのは、人間の愛らしい子どもの顔などではなかった。

身長は1メートルほど。顔の側面には体に対して大きすぎる三角の耳がついており、深緑色の皮膚はシワが寄り、つぶらだが明らかに人間のものではない丸い瞳が未亜を見上げている。

口元から小さな牙を覗かせた、小鬼族の小柄なゴブリンだった。

小さなゴブリンは、未亜の視線に気づくと、丁寧にお行儀よくぺこりと頭を下げ、再び可愛らしく花のお手入れへと戻っていった。


「あ……」


乾いた声が、未亜の喉から漏れた。

人間の子供なんて、どこにもいなかった。

攫われて苦しんでいる可哀想な仲間なんて、最初からこの城のどこにも存在していなかったのだ。

子どもに見えた背中は、ただ自分の庭を愛で、楽しそうに花と戯れる魔界の住人に過ぎなかったのだ。

  

「あは……っ、はは……っ、だよね……っ」


ぽろり、と未亜の口から漏れたのは、力のない笑いだった。

勝手に期待し、勝手に仲間だと思い込み、勝手に救い出そうと決意した自分自身が、あまりにも惨めで、哀れで、滑稽だった。

 

「よかった……」


あんな小さな人間の子供が攫われて、理不尽に囚われているなんていう悲劇は存在しなかったのだ。

自分以外の誰も、こんな惨めな目に遭っていない。それは、間違いなく救いであるはずだった。

けれど、笑い声はすぐに途切れ、代わりに涙がボロボロと溢れ出した。

膝から崩れ落ちるように、未亜は冷たい床へと沈み込んだ。

泣きじゃくる気力すら残っていなかった。両手で顔を覆い、静かに、静かに肩を震わせた。


仲間に巡り会えたという一瞬の奇跡すら、この恐ろしい世界が見せた意地の悪い幻に過ぎなかったのだ。

最後の最後にすがりついた希望は、呆気なく打ち砕かれて小さな破片となり、容赦なく胸を突き刺した。

絶望の涙が指の隙間からこぼれ落ち、格式高いドレスの膝を濡らしていく。


窓の外で咲き誇る純白の薔薇も、静かに注ぐ紫色の夜の光も、すべてが未亜の孤独をあざ笑っているかのように美しく、そして救いようのないほどに冷たい。

深く、深く沈んでいく魔界の夜の紫に染まりながら、未亜の心は音もなく、完全に折れて砕け散った。

 

 

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