第20話 王妃の花と小さな庭師
深紫色のベルベットドレスに身を包み、漆黒の毛皮のケープをその華奢な肩に羽織った未亜は、ヴェルラウトの大きな腕にしっかりと抱きすくめられていた。
背中に回された太い腕は、まるで二度と逃がさないという硬質な意志を帯び、確かな重みをもって彼女の身体をこの世界へと繋ぎ止めている。
未亜を腕の中に抱き込んだまま、ヴェルラウトが厳重に閉ざされた重厚な白銀の扉に手を掛けた。
ゆっくりと、軋むような音を立てて扉が押し開かれていく。ヴェルラウトが自らの意志で、あの『王妃の間』という名の美しき鳥籠の外へと未亜を連れ出す、初めての瞬間だった。
外へ通じる廊下に足を踏み入れれば、すぐ傍らに二人の見張りの甲冑兵が直立していた。
彼らはヴェルラウトの姿を認めるや否や、鍛え上げられた巨体を床へと深く沈め、片膝を突いて首を垂れた。
さらにその少し離れた壁際には、いつでも未亜の世話を行えるよう待機していたステラとネルの姿があった。
二人の侍女は、魔王の隣に——それも、ただ連れ添うのではなく抱き込まれるようにして王妃の間から出てきた未亜の姿を目の当たりにし、息を呑んで動きを止めた。信じられないものを見るように、大きく見開いた瞳で二人は顔を見合わせる。
「——研究棟へ行く」
低く、有無を言わせぬ絶対君主の声が廊下に響いた。
「研究棟……ですか……? 未亜様とご一緒に……?」
困惑の色を隠せないステラが、恐る恐る問い返す。
「あぁ、そうだ。……その前に花が必要だ。手向けに相応しい花を用意しろ」
ヴェルラウトの冷徹な命令に、ステラとネルは瞳に宿る困惑の色を濃くしながらも、すぐに深く頭を垂れた。魔王の絶対的な意志に逆らうことなど、彼女たちの辞書には存在しない。
「手向けのお花でございますね、かしこまりました。すぐに研究棟の者どもへ手配を……」
「あの……っ!」
ステラが引き下がりかけたその時、思わず、か細い声が空気を震わせた。声を上げた未亜に、周囲の視線が一斉に集中する。
「……自分で、用意しては……だめですか?」
「お前が、自分で?」
ヴェルラウトの眉間が険しく寄る。未亜は彼の巨大な胸元からそっと視線を上げ、わずかに震える声で言葉を紡いだ。
「はい。……私が、自分で摘んだお花がいいんです。そんな、豪華なものじゃなくて構わないので……」
おずおずと、けれど震える指先を固く握りしめながら、未亜ははっきりと自分の意思を告げた。
ヴェルラウトの琥珀ゴールドの瞳が揺らいだ。未亜が自分の意思で何かを望み、求めてきたという事実そのものが、彼の心を激しく打つ。彼はわずかに戸惑いの息を吐き出すと、やがて愛おしそうに目を細めて頷いた。
「……お前がそう望むなら、どんな花でも構わん」
主の許可が下りたのを聞き届け、ステラが、静かに一歩前に歩み出る。
「では、東塔の庭園のお花を摘んでから向かわれますか?」
「……それでいい」
僅かに思考を巡らせた後、ヴェルラウトは短く肯定した。そして、未亜の肩を抱いたまま歩みを進めた。その背後には、一切の足音を立てず、静かに従うステラとネルの姿もある。
らせん階段を降り、ひんやりとした大理石のエントランスを経て、外へと通じるアーチを抜けた。
重い鉄扉が押し開かれ、未亜の視界に初めて「王妃の間の外の聖域」が流れ込んできた。
そこは、外界の禍々しい紫の空の下にあるとは思えないほど、神聖な静寂に満ちた場所だった。
鏡のように磨き上げられた白銀鉱石の石畳がどこまでも続き、足元の苔は微かな光を湛えている。色とりどりの花が乱れ咲くような人間のそれとは異なり、そこに在るのはどこまでも「白」を基調とした絶対的な静謐と優美だった。透き通るクリスタルのような花弁を持つ花々が静かに佇み、その中央には、闇を纏うかのように深い漆黒のバラが凛とした美しさで咲き誇っていた。
昼間のうららかな光を浴びて、白銀の石畳とクリスタルの花々は、まるで真珠の粉をまぶしたように眩い光を反射している。
「わぁ……、綺麗……」
思わず、未亜の唇から、驚嘆の吐息がこぼれ落ちた。
あの絶望に満ちた鳥籠の中から見上げていた場所に、今、自分の足で立っている。その事実と、あまりの美しさに、未亜はしばし言葉を失った。
この世の天国のようなこの場所の花なら、あの魔獣に最後の別れを告げるための花を探す場所として、これ以上なくふさわしいと思えた。
「ここは、初代の魔王が愛する王妃のために造らせた庭だ。それを、これまでの魔王たちもまた、妻のために守り、磨き上げてきた」
ヴェルラウトは静かに庭園を見渡し、どこか誇らしげな、けれど深い執着の滲む声を落とした。
そして、ゆっくりと視線を下ろし、未亜の顔を覗き込む。
「……そして、今はお前のための庭だ」
愛おしげに、蕩けるような熱を帯びた琥珀色の瞳。
その瞳と彼の言葉に込められた重みを理解した瞬間、未亜の胸の奥がキュッと締め付けられた。
自分がこの場所に縛り付けられている事実と、彼が自分に捧げようとしている狂おしいまでの溺愛と執着が、美しい花々の香りと混ざり合って押し寄せる。
何も返せない未亜の戸惑いを察したのか、ヴェルラウトは切なそうに目を細めながらも、優しい手つきで、小さな頭をそっと撫でた。
「……花を摘むのだろう。好きなだけ摘めばいい」
促されるまま、未亜はそっと頷き、白銀の石畳へと足を踏み出した。
その間も、ヴェルラウトは未亜の肩を抱いたまま、腕を離そうとはしない。絶対にこの手から逃がさない、と誓うような執着を纏いながら、彼は静かに彼女に寄り添っている。
透き通るクリスタルの花々の間を歩みを進めていた未亜が、しゃがみ込み、透き通るようなクリスタルの花弁にそっと指先を伸ばそうとした、その時だった。
カサ、と、すぐ近くの生垣の向こうから、小さな足音が聞こえた。
「——っ」
未亜が反射的に顔を上げると、生垣の陰から、ひょっこりと小さな人影が姿を現した。
つぎはぎだらけの小さなオーバーオールとエプロン。大きすぎる三角の耳と、皺の寄った深緑色の皮膚。手には、大きなじょうろを持っている。
——あの夜、未亜が人間の子供だと勘違いし、その直後に小ゴブリンの姿を見て完全に心を折られた、あの庭師だった。
「ひっ……!」
瞬間、未亜の身体が恐怖で凍りつき、硬直した。
それと同時に、未亜を抱くヴェルラウトの腕の力が、冷たい殺意を孕んでグッと強まる。
「あ……! 王妃様……っ!」
甲高い、けれどどこか愛らしい声。
小ゴブリンの庭師は、自分の目の前にいるのが魔王とそのお気に入りである人間の娘だと気づき、心底驚いた様子で大きく目を剥いた。
「ど、どなたかいらっしゃるようだったので……まさか、王妃様だったなんて……っ!その、足元など危なくは……っ!」
早口でまくし立てると、ポッケは慌てふためきながらも、頭に乗っていた泥だらけの小さな帽子を慌ててひっつかみ、その場に深く頭を下げた。
「初めまして……! ぼくは、この東塔の庭園のお手入れを任されております、ポッケと申します……っ!」
帽子を胸元にぎゅっと押し当て、震えるほどの深々としたお辞儀。
気味の悪い深緑色の皮膚や大きな三角耳といった魔界特有の容姿とは裏腹に、その声はどこまでも愛らしく、あまりにも丁寧すぎる礼儀正しさだった。
恐怖で強張っていた未亜は、その想定外の反応に完全に気圧され、呆気に取られてしまった。そして、ハッと我に返ると、慌ててポッケに向かって頭を下げ返した。
「あ……っ、あの、私は……未亜です。お花を、摘みに……」
言いかけて、はたと気づく。
この庭園は、日々、ポッケが泥まみれになりながら、愛情を込めて一輪一輪大切に育て上げている場所だ。王妃の間の窓から、彼が甲斐甲斐しく植物たちと会話するように世話をしていた姿を、未亜は何度も見ていた。
「あの……、亡くなった魔獣さんに、お花を供えたくて。……ここのお花を、少しだけ摘ませてもらっても……いいですか?」
おずおずと、消え入りそうな声で尋ねる未亜。
その言葉に驚いたのは、ポッケだけではなかった。
ステラも、ネルも、そして傍らに立つヴェルラウトまでもが、信じられないものを見る目で未亜を見下ろした。
先ほどヴェルラウトが告げた通り、この東塔の庭園のすべては今、未亜に与えられた絶対的な聖域であり、彼女の所有物だ。この東塔では、王妃の許可なくしては虫一匹動かすことさえ許されない。
どれほどポッケが丹精込めて育て上げた花であろうと、未亜の一言があれば、すべてを奪うことも、踏みにじることも自由にできる。
それを、なぜわざわざ身分の低い庭師におずおずと許可を乞うのか。
「俺の女が、このような見窄らしい下僕に頭を下げるな」
冷酷な不快感を滲ませ、ヴェルラウトが美しい眉を険しくひそめた。
庭師という職業を軽視しているというよりも、ポッケという存在そのものを見下すような、傲慢で冷徹な響きを含んでいた。
けれど、その暴君の言葉にステラとネルは当然だと言わんばかりに頷き、当事者であるポッケでさえ、微塵も傷ついた様子は見せない。むしろ、魔王の威圧感に恐縮しきりで、ただただ不安そうにオロオロと身を縮こまらせるばかりだった。
「は、はい……っ、王妃様……! どうぞ、お好きなお花を、好きなだけ摘んでいってくださいませ……っ!」
ポッケは必死に頭を下げ、壊れそうなほど早口でまくし立てた。その大きな三角耳が、不安に怯えるようにパタパタと小刻みに揺れている。
その痛々しいほどの健気さを前に、未亜はふと、学生の頃の授業を思い出していた。
この魔界では、身分も就く職さえも、強さによって決まるものだ、と教わったことがある。
あの教科書に書かれていた魔界の理を思い返せば、小鬼族が魔界でどのような立場に置かれているのかは、なんとなく分かる。
強い者が上に立ち、弱い者は使われる。
それが、この世界の理なのだ。
ポッケもきっと、その「弱い側」にいる。
それでも――。
この庭をずっと守ってきたのは、他の誰でもない、彼だ。
「……ありがとう、ポッケさん」
ほっと息を吐き出すように、未亜は柔らかく微笑んだ。
そして、戸惑うポッケにそっと問いかける。
「もしよかったら……手向けにふさわしいお花を、教えてもらえませんか?」
予想外の言葉に、ポッケは「へ……?」とマヌケな声を漏らし、丸い瞳をさらに丸くした。
魔界がどれほど弱肉強食の世界だと、知識としては理解していても、ポッケのような小鬼族が、魔王の寵愛を受ける王妃から頭を下げられることが、どれほどありえないことなのか。
未亜には、まだ分かっていなかった。
「ここにあるお花は、私が知っている人間界のものとは全然違うから……。ポッケさんなら、どのお花が一番……手向けにするのにふさわしいか、よく知っていると思って。……お願いできませんか?」
真摯な眼差しで懇願する未亜の瞳には、ただ純粋な敬意と優しさだけが満ちていた。
けれど、思いがけない頼みごとに、ポッケは目を白黒させ、どうしていいか分からずその場で小さく飛び跳ねた。そして、オロオロと助けを求めるように視線を巡らせた末に、未亜の背後で険しい眉を寄せている魔王・ヴェルラウトと目が合い、慌てて視線を逸らした。
しばらく、冷たい沈黙が庭園を支配した。
ヴェルラウトは、未亜の切なげな瞳と、ポッケの戸惑う姿を交互に見つめた。やがて、不機嫌そうに吐息を漏らすと、面倒くさそうに片手を振った。
「……ミアの望みだ。断ることは許さん。……ミアが喜ぶ花を見繕え」
絶対君主の命令に、ポッケはビクリと飛び上がった。だが、次の瞬間、その小さな顔にはパッと明るい笑みが咲き誇った。
「かしこまりました……! では、王妃様、こちらへ! 一番お花が美しく咲いている花壇へご案内いたします!」
ポッケは小さな体を弾ませ、庭園の奥へとパタパタと走っていった。
未亜はその後を追うように歩き出し、ヴェルラウトもまた、彼女の肩から手を離さぬまま、静かにその後に従った。
案内されたのは、庭園の一番奥に設けられた、巨大な特等席の花壇だった。
「わぁ……」
思わず未亜の足が止まる。
そこにあったのは、無数の光る苔とクリスタルの花がドーム状に絡み合い、まるで星空をそのまま地上に降ろしたかのような、息を呑むほど美しい一角だった。
「さあ、こちらでございます!」
ポッケが誇らしげに胸を張り、次々と花を紹介し始める。
「まずは、こちらの『ルベウス・フレア』! 漆黒の闇の中でも消えない炭火のように強い光を放つお花で、どんなに冷たい魔界の吹雪の中でも枯れない『不屈の闘志』を表しているんです。とっても強かったお方にぴったりかと!」
熱っぽく語るポッケの指先を追いながら、未亜はそっとその燃えるような赤色の花弁に触れた。指先から微かな温もりが伝わってくる。
「それから、こちらの『灰桜の炎晶花』も素敵です。激しい戦いの跡からしか芽吹かない、くすんだ桜色の花で……」
流暢に、けれどどこか得意げに説明を続けるポッケの姿は、さっきまでの怯えた小動物のようではなく、まさに一流の庭師そのものだった。
未亜は小さく頷きながら、花の前にそっとかがみ込む。そして、ポッケに勧められたその美しい花々の茎に指をかけ、優しく丁寧に手折っていった。
ふと、未亜の視線が、花壇の隅にひっそりと佇む一輪の花を捉えた。
花の群れの隅に、ひっそりと、あまりにも地味に佇む小さな薄黄色の花。
他の花々のような華やかさも、圧倒的な魔力を宿した光もない。けれど、その花弁の形を見た瞬間、未亜の胸の奥がキュッと締め付けられた。
——三日月の形。
昨夜、血と泥にまみれた漆黒の毛並みの中、あの魔獣の額の真ん中に確かに存在した白い斑紋。夜空に浮かぶ欠けた月をそのまま写し取ったような、美しくも儚いあの形に、その花は驚くほど似ていた。
「……ポッケさん。このお花も、摘んでもいいですか?」
未亜がしゃがみ込み、その三日月に似た花弁をそっと指先でなぞると、ポッケは困惑したように首を傾げた。
「ええ、もちろん構いませんが……。それは『月影草』といって、とても地味ですし、花言葉も……あまり縁起の良いものでは……」
言いづらそうにモゴモゴと呟くポッケに、未亜はゆっくりと首を横に振った。
「ううん、いいんです。このお花……あの子の額にあった模様に、とてもよく似ているから。」
静かに微笑みながら、未亜はその地味な花を指先でそっと包み込むように撫でた。
「あの子に、あなたとそっくりなお花を見つけたよって、教えてあげたいの」
静かに微笑む未亜の表情には、どこか切なさが滲んでいた。
その仕草を見つめていたポッケの表情から、驚きの色が少しずつ消えていった。やがて、その丸い瞳に、柔らかな光が宿る。
「……それは、素晴らしいです」
ポッケは胸元で小さな手を震わせながら、ぎこちなく笑ってみせた。
「どんなに立派な花言葉も、どのような由緒正しき言い伝えも……王妃様がその方に寄せる『想う心』には、到底敵いませんから。……王妃様が選ばれたものが、この世で一番……手向けにふさわしいお花です」
ポッケの掠れた声には、心からの敬服と温かい感動が溢れていた。
「ありがとう、ポッケさん」
三日月に似た小さな花を、茎の根元からそっと、慎重に手折った。
それから、ゆっくりと立ち上がる。ポッケに勧められた花々や三日月に似た小さな薄黄色の花。胸元に小さな花束を大切そうに抱えた未亜は、自分よりずっと小さなゴブリンの庭師を見下ろした。
「ポッケさん、本当にありがとう。おかげで……あの魔獣さんに、素敵な最後の贈り物ができそうです」
心からの感謝を告げるその声は、どこまでも温かかった。
向けられた慈悲深い笑みに、ポッケの深緑色の肌は、瞬く間に真っ赤に染め上げられていく。
「と、とんでもございません……っ! ぼくはただ、お花のご説明をしただけで……っ、そんな、お礼を言われるようなことは……っ!」
ポッケは照れ隠しに、自分の頭に乗っていた小さな帽子を両手でギュッと掴んで引き下げ、自分の顔を必死に隠しながら目を伏せた。
そんな小さな庭師の姿を見下ろし、未亜は少しだけ寂しげに目を伏せた。けれどすぐに、優しい声で紡ぐ。
「……そんなこと、ありません。この庭園がいつもこんなに綺麗でいられるのも、私がこうして素敵な花をあの子に持って行けるのも……ポッケさんが毎日、愛情を込めてお花たちのお世話をしてくれているからだもの」
未亜の鈴を転がすような優しい声が、ポッケの不格好なほど大きな耳にまっすぐに届いた。
顔を隠すために帽子を握りしめていたポッケの指先に、ぎゅっと強い力が入り、そして、微かに震え始める。
「……ありがとうございます……っ」
絞り出すようなポッケの声は酷く掠れ、小さく震えていた。
それはもう、庭師としての挨拶ではなかった。
強さを持たない小鬼族が、この魔界でどのような目を向けられて生きてきたのか。
そのすべてを未亜が知ることはできない。
けれど――今のポッケの姿を見れば、誰かに認めてもらうことを求めるでもなく、彼がただまっすぐに大切にしてきたものを、ようやく誰かに見つけてもらえたのだということだけは、分かる気がした。
「——行くぞ、ミア」
ヴェルラウトは重い沈黙を切り裂くように低く呟くと、再び未亜の肩を抱き寄せ、その場を離れようと身体を反転させた。
けれど、ポッケに背を向けるその直前、ヴェルラウトは振り返ることさえないまま、ぶっきらぼうに言い放った。
「……よくやった。今後も、庭仕事に励め」
その不器用すぎる労いの言葉に、ポッケはハッと顔を上げた。
頬は涙で濡れ光っていたけれど、そこにヴェルラウトの姿はもうなかった。すでに、魔王に肩を抱かれた未亜も、その背後に続くステラたちも、彼に背を向けて遠ざかっていた。だから、誰もその涙の結末を見ることはなかった。
けれど、その声だけはしっかりと聞こえてきた。
「いってらっしゃいませ、王妃様! 亡き魔獣様も、きっとお喜びになることでしょう……っ!」
ポッケの精一杯張られた明るい声が、白銀の庭園の空に響き渡った。
その声はもはや涙で震えてはおらず、どこまでも優しく、そして誇らしげに、彼が守ってきた白銀の庭園の空へ溶けていった。
お待たせしてしまい、申し訳ありません。
本日より更新を再開いたします。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
これからもできるだけお待たせすることのないよう、更新してまいります。
引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。




