92話 黒き器との戦い
地下室いっぱいに、黒い魔力が広がった。
息苦しい。
空気が重く感じる。
「二人とも、気をつけて!」
俺が叫ぶ。
レティシアが剣を構え、エリスが弓を引く。
「分かってる!」
男はゆっくりと腕を上げた。
「では、始めよう」
---
男の身体から黒い魔力が噴き出す。
「《黒影》」
――シュッ!
男の姿が消えた。
「どこに……!」
「上!」
エリスの声。
俺が見上げた瞬間――
――ドンッ!
男が天井から急降下してきた。
「《ウィンドステップ》!」
俺は間一髪で避ける。
床が砕けた。
「速い……!」
レティシアが斬り込む。
「はぁっ!」
――キンッ!
男が短剣で受け止める。
互いに押し合う。
「昨日より速くなってる!」
「当然だ」
男の黒い紋章が光る。
「この力は、使えば使うほど強くなる」
――バッ!
レティシアが弾き飛ばされる。
「レティシア!」
---
エリスの一矢
エリスがすぐに弓を放つ。
――シュッ!
男は身体をひねって避ける。
しかし――
「そこです!」
二本目の矢が飛ぶ。
男の足元へ。
――ザクッ!
「……!」
動きが止まった。
「キラ!」
「任せて!」
俺は杖を向ける。
「《ウィンドバレット》!」
――ドンッ!
男が壁へ叩きつけられる。
「今!」
レティシアが駆ける。
――ザンッ!
男の肩を斬った。
黒い血が少しだけ流れる。
---
「やった!」
レティシアが構える。
だが――
男は笑った。
「……いい連携だ」
傷口から黒い魔力が噴き出す。
「だが、まだ足りない」
傷が少しずつ塞がっていく。
「再生……?」
エリスが驚く。
「黒き核の力だ」
男が立ち上がる。
「俺は、この力を手に入れた」
黒い紋章がさらに広がる。
「人間の限界を超えるためにな」
---
俺は杖を握り直す。
「だったら――」
炎を集める。
「俺たちも全力で行く!」
「キラ!」
「分かってる!」
レティシアとエリスが左右へ散る。
俺は炎を渦巻かせる。
「《フレイムスパイラル》!」
――ゴォォォォッ!!
炎の渦が男を包む。
「ぐっ……!」
男が腕で防ぐ。
炎が黒い魔力を削っていく。
「今!」
エリスの矢。
――シュッ!
男の肩へ命中。
レティシアが一気に距離を詰める。
「はぁぁっ!」
――ザンッ!
男の腕に傷が走る。
「ぐっ……!」
男が初めて後退した。
---
しかし――
地下室中央の黒い結晶が、突然大きく脈動した。
――ドクン。
男の黒い紋章が反応する。
「……!」
男が結晶を見る。
「もう時間か」
俺は嫌な予感がした。
「何をする気だ?」
「俺が戦う必要はなくなった」
男が結晶へ手を伸ばす。
「こいつが目覚める」
――ドクン。
――ドクン。
地面が揺れる。
「何が……?」
レティシアが身構える。
床の奥から、何かが這うような音が聞こえてくる。
「逃げるぞ!」
俺が叫ぶ。
だが男は笑っている。
「もう遅い」
---
――バキバキバキッ!
壁に亀裂が走る。
天井から石が落ちる。
「急いで!」
エリスが叫ぶ。
三人は出口へ走る。
その後ろで、地下室が崩れていく。
「待って!」
レティシアが振り返る。
男の姿がない。
「逃げられた……」
俺は悔しそうに拳を握る。
でも――
今は逃げるしかない。
---
砦から外へ飛び出した直後。
――ドォォォォン!!
地下から巨大な衝撃が走った。
砦の一部が崩れ落ちる。
黒い煙が空へ立ち上る。
「……終わった?」
レティシアが呟く。
「いや」
俺は首を振る。
魔力感知を使う。
地下。
そこにはまだ――
強大な魔力が残っている。
「何かいる」
エリスが青ざめる。
「どれくらい……?」
俺は答えられなかった。
ただ一つだけ分かった。
これは――
グレートオーガよりも強い。
---
地下深く。
崩れた部屋の中。
黒い結晶が浮かび上がる。
そして、その奥から声が響いた。
『――器を……』
黒いローブの男が姿を現す。
「まだだ」
男は結晶へ手を伸ばす。
「まだ、あいつらには早すぎる」
結晶が脈動する。
『――新たな器を……』
男はキラたちが去った方向を見る。
「……あの少年か」
黒い紋章が不気味に輝いた。
第92話 終




