89話 器
伝説の三人――アシュレイン、リリー、ロゼッタと別れてから数日。
俺たちはいつも通り、冒険者ギルドへ向かった。
「おはようございます」
「おはようございます、キラさん」
受付嬢が依頼書を並べている。
俺たちはすでにDランク冒険者。
以前より受けられる依頼も増えていた。
「何か良さそうな依頼ある?」
レティシアが掲示板を見る。
「これなんてどうでしょう」
エリスが一枚の依頼書を指差す。
『街道周辺の魔物討伐』
危険度はDランク相当。
「ちょうどいいね」
俺は依頼書を手に取った。
グレートオーガとの戦いを経験した今だからこそ、無理に強敵へ挑む必要はない。
まずは自分たちの力を磨く。
それが今の俺たちに必要なことだ。
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街を出てしばらく歩く。
今回の目的地は、近くの街道沿いにある森。
最近、魔物の目撃情報が増えているらしい。
「グレートオーガが出てから、魔物の動きがおかしいね」
レティシアが言う。
「うん」
俺も周囲を警戒する。
黒き核。
古代遺跡。
そして、あのグレートオーガ。
まだ何も分かっていない。
だけど、今は目の前の依頼に集中する。
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森へ入ってすぐ。
「……います」
エリスが弓を構える。
木の陰から、数体のゴブリンがこちらを覗いている。
「数は?」
「七体です」
「じゃあ、俺が魔法で追い込む」
俺が杖を構える。
「レティシアは右。エリスは後ろからお願い」
「分かった!」
「はい!」
ゴブリンが一斉に飛び出してくる。
「《ウィンドバレット》!」
――ドンッ!
一体が吹き飛ぶ。
レティシアが間合いへ入る。
「はっ!」
――ザンッ!
エリスの矢が別のゴブリンを捉える。
――シュッ!
三人の攻撃が次々と決まっていく。
数分後。
最後の一体が倒れた。
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戦い方の変化
「かなり楽になったね」
レティシアが剣を収める。
「前ならもっと時間がかかってた」
俺も頷く。
グレートオーガにはまったく届かなかった。
だけど、だからといって俺たちが弱いわけではない。
少しずつ。
本当に少しずつだけど――
強くなっている。
「キラ」
エリスが俺を見る。
「《フレイムスパイラル》は使わなかったですね」
「うん」
「使わなくても勝てる相手には、使わない方がいい」
俺は自分の杖を見る。
リリーに言われた言葉を思い出す。
強力な魔法を使うことだけが、魔法使いの強さじゃない。
魔力を効率よく使う。
今はそれを意識している。
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依頼を終えようとしたとき。
エリスが突然立ち止まった。
「待ってください」
「どうした?」
「何か聞こえます」
耳を澄ます。
――カン。
――カン。
金属を叩くような音。
「誰かいる?」
森の奥へ進む。
そこには、小さな古い建物があった。
どうやら昔使われていた採掘所らしい。
「こんなところに建物が?」
レティシアが不思議そうにする。
入口には、古びた紋章が刻まれていた。
俺はその紋章を見て、足を止める。
「……これ」
「知ってるの?」
「いや」
知らない。
でも――
なぜか見覚えがある。
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建物の中へ入る。
床に黒い染みが残っていた。
魔力の残滓。
俺がしゃがんで確認する。
「黒き核と似てる」
「じゃあ、ここも関係してる?」
レティシアが剣を抜く。
「分からない」
奥へ進む。
すると――
壁に古代文字が刻まれていた。
その中央には、黒い結晶の絵。
そして、その下に一つの文章。
『器が目覚めるとき、封印は終わる』
「……器?」
俺たちは顔を見合わせた。
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そのとき。
――コツ。
奥から足音が聞こえた。
――コツ。
誰かが近づいてくる。
レティシアが剣を構える。
エリスが弓を引く。
俺も杖を構えた。
「誰だ!」
返事はない。
暗闇から姿を現したのは――
一人の若い男だった。
冒険者らしい。
しかし、その腕には黒い紋様が浮かんでいる。
「……お前たち」
男が俺たちを見る。
「ここへ何をしに来た?」
「依頼で魔物を討伐しに来ただけだ」
俺が答える。
男は俺たちをしばらく見つめた。
「そうか……」
そして、小さく笑った。
「なら、運が悪かったな」
黒い紋様が光る。
「ここから先は――」
男の身体から、黒い魔力が噴き出した。
「帰れなくなるぞ」
俺は杖を握り直す。
まただ。
この黒い魔力。
グレートオーガから感じたものと同じだ。
第89話 終




