88話 新たな目標
グレートオーガとの戦いが終わった。
街へ戻る道の途中。
俺たちは、少し前を歩く三人の背中を見つめていた。
剣を持つ男――剣聖アシュレイン。
杖を持つ女性――大賢者リリー。
そして弓を背負った女性――弓王ロゼッタ。
名前を聞いただけでも、その実力がどれほどのものなのか分かる。
「すごかったね……」
レティシアが呟く。
「うん」
俺も頷く。
さっきまで、俺たちはグレートオーガを相手に必死だった。
《フレイムスパイラル》を使っても、ほとんど傷を与えられなかった。
それなのに――
アシュレインたちは、わずかな時間で倒してしまった。
「悔しい?」
エリスが聞いてくる。
「……悔しい」
俺は正直に答えた。
「でも、今はそれ以上に嬉しい」
「嬉しい?」
「うん」
目指すべき場所が見えたからだ。
---
「お前たち」
突然、アシュレインが振り返った。
「はい!」
三人で返事をする。
「さっきの戦いで、一つ気になった」
アシュレインはレティシアを見る。
「お前だ」
「私?」
「剣を振るとき、力を入れすぎている」
レティシアが驚く。
「力を……?」
「相手が強くなるほど、力だけでは剣が通らなくなる」
アシュレインは自分の剣に手を添える。
「剣は力で振るものじゃない。相手の動きと、自分の身体の動きを合わせるものだ」
レティシアは真剣な表情で聞いている。
「……覚えておきます」
「それだけでいい」
アシュレインはそれ以上何も言わなかった。
でも、レティシアは何度も自分の剣を見つめていた。
---
今度はリリーが俺を見る。
「キラ」
「はい」
「あなたの炎の魔法」
心臓が少し跳ねる。
「《フレイムスパイラル》ですか?」
「そう」
リリーは微笑んだ。
「面白い魔法ね」
「ありがとうございます」
「ただし――」
リリーの表情が少し真剣になる。
「魔力の消費が大きすぎる」
「……やっぱり」
「威力を上げることばかり考えると、いずれ魔力切れで動けなくなるわ」
グレートオーガとの戦いを思い出す。
実際、その通りだった。
「もっと魔力を効率よく使えるようになりなさい」
「はい」
「新しい魔法を増やすより、今ある魔法を磨くのも大切よ」
俺は頷いた。
最近、新しい魔法を作っていない。
でも――
それを焦る必要はないのかもしれない。
---
「エリス」
「はい」
ロゼッタがエリスを見る。
「あなたは弓を引くとき、狙いを決めるのが少し早い」
「早い……?」
「敵を見る前に、撃つ場所を決めている」
エリスが目を見開く。
「……確かに」
「弓は、狙った場所に当てるだけじゃない」
ロゼッタが森を見る。
「敵が次にどこへ動くのか。それを読むの」
エリスはしばらく黙っていた。
「勉強になります」
ロゼッタは笑った。
「なら、忘れないことね」
---
三人から教えてもらったことを、俺たちは必死に頭へ刻み込んだ。
だけど――
「修行をつけてもらえませんか?」
レティシアが尋ねた。
アシュレインは首を横に振った。
「まだ早い」
「……」
「今のお前たちは、自分たちで強くなる時期だ」
リリーも頷く。
「誰かに教えてもらうだけでは、本当の力にはならないわ」
ロゼッタも続ける。
「まず、自分たちで壁にぶつかりなさい」
俺はその言葉を聞いて、納得した。
確かにそうだ。
今日の戦いで、俺たちは自分たちの弱さを知った。
だったら――
まず自分たちで強くなるしかない。
---
街が近づいてきた。
ここで三人とは別れることになった。
「では」
アシュレインが背を向ける。
「待ってください」
俺は呼び止めた。
「また会えますか?」
アシュレインが振り返る。
「強くなれば会うことになる」
リリーが笑う。
「その頃には、あなたの魔法も今とは違っているでしょうね」
ロゼッタもエリスを見る。
「弓もね」
三人はそのまま歩いていく。
俺たちは、その背中を見送った。
---
「いつか追いつこう」
レティシアが言う。
「うん」
エリスも頷く。
俺は三人の姿が見えなくなるまで見つめていた。
今はまだ、遠い。
でも――
ただ強くなりたいと思っていた頃とは違う。
俺には目標ができた。
大賢者リリーのような魔法使いになる。
レティシアは剣聖アシュレインを。
エリスは弓王ロゼッタを。
いつか追い越せるくらいに。
そのためにも、まずは目の前の冒険者としての道を進む。
---
そして翌日。
ギルドの掲示板に、新しい依頼が貼り出されていた。
俺たちは顔を見合わせる
「うん」
新しい目標へ向けて――
俺たちは一歩を踏み出した。
第88話 終




