87話 伝説の一瞬。
戦場の空気が変わった。
さっきまでグレートオーガに苦戦していた冒険者たちが、自然と道を開ける。
三人の男女が、ゆっくりと前へ進んでいく。
「下がっていてください」
弓を持った女性が静かに言う。
「ここからは私たちがやります」
レティシアが目を見開く。
「本当に……あの三人が?」
近くの冒険者が頷いた。
「間違いない。あの三人は、伝説のパーティだ」
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俺は地面に座ったまま、その三人を見ていた。
さっきまで俺たちは、グレートオーガに全力で挑んでいた。
《フレイムスパイラル》を何度も使って。
それでも、ほとんど傷をつけられなかった。
なのに――
三人は落ち着いている。
「行くぞ」
剣を持った男が一歩踏み出す。
グレートオーガが咆哮した。
「グォォォォォッ!」
巨大な拳が振り下ろされる。
――ドゴォォォン!!
土煙が舞う。
だが――
「遅い」
男の姿が消えた。
次の瞬間。
――ザンッ!!
グレートオーガの腕に深い傷が走った。
「……!」
俺は目を疑った。
さっきまで俺たちの攻撃では、ほとんど傷つかなかった身体。
それを、一撃で。
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「私も行くよ」
今度は杖を持った女性が前へ出る。
周囲の魔力が一気に集まっていく。
「《グランド・バースト》」
――ドォォォォン!!
地面から巨大な岩柱が突き出した。
グレートオーガの身体が宙へ浮く。
「すごい……」
エリスが呟く。
俺も言葉が出なかった。
魔法の規模が違う。
俺が全力で使う魔法とは、まるで別物だ。
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最後に、弓を持った女性が矢を一本だけ取り出した。
「次、胸の結晶を狙います」
「任せた」
剣士がグレートオーガの前へ走る。
グレートオーガが拳を振り回す。
剣士はそれを避けながら、何度も斬りつける。
「今!」
弓使いが弦を引く。
――ギリッ。
矢が淡い光を帯びる。
「《ライトニングアロー》」
――シュッ!!
矢が一直線に飛ぶ。
グレートオーガが腕で胸を守ろうとする。
しかし――
矢は腕を貫通した。
そのまま胸の黒い結晶へ。
――ピシィィィン!
黒い結晶に大きな亀裂が走る。
「グォォォォォッ!!」
初めて、グレートオーガが大きく怯んだ。
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結晶から黒い魔力が噴き出す。
「まずい!」
俺は叫んだ。
今までとは比べ物にならない量だ。
グレートオーガの身体が黒く染まっていく。
「まだ終わってない」
剣士が構える。
「むしろ、ここからだな」
魔法使いが杖を握る。
「結晶が壊れかけて、内部の魔力が暴走してる」
弓使いが俺たちを見る。
「あなたたち、離れて!」
俺たちはすぐに距離を取る。
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剣士が走る。
魔法使いが詠唱する。
弓使いが狙いを定める。
それぞれが別々に動いているように見える。
でも――
完璧に噛み合っている。
「《ストームランス》!」
風の槍がグレートオーガを貫く。
体勢が崩れる。
「そこ!」
弓が飛ぶ。
――シュッ!
足へ命中。
動きが止まる。
そして――
「終わりだ」
剣士が跳ぶ。
一瞬。
ほんの一瞬だった。
――ズバァァァン!!
グレートオーガの胸を、黒い結晶ごと斬り裂いた。
巨大な身体がゆっくりと倒れる。
――ドォォォン。
静寂。
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誰も声を出さなかった。
さっきまで俺たちを追い詰めていた魔物が――
たった三人によって倒された。
「これが……」
レティシアが呟く。
「本物の強さ……」
エリスも目を離せない。
俺は自分の手を見る。
俺たちは頑張った。
全力で戦った。
それでも、あの魔物には届かなかった。
でも、悔しいだけじゃない。
「……いつか」
俺は呟く。
「俺も、あんな風になりたい」
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戦いを終えた剣士が、俺たちのところへ歩いてきた。
「お前たち」
「はい」
俺は立ち上がる。
「さっきの魔法」
「……?」
「炎の渦を作っていたやつだ」
俺は《フレイムスパイラル》のことだと気づく。
「あれは自分で作ったのか?」
「はい」
男が少し驚く。
「十二歳で?」
「……はい」
男は俺をじっと見る。
「面白いな」
そして、レティシアを見る。
「剣の使い方も悪くない」
最後にエリスを見る。
「弓もな」
三人は顔を見合わせた。
「ただし――」
男の表情が真剣になる。
「今のお前たちでは、あの魔物には勝てない」
俺は黙って頷いた。
「分かっています」
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「俺はアシュレイン」
剣士が名乗る。
「こっちはリリー」
魔法使い。
「そしてロゼッタ」
弓使い。
エリスが小さく頭を下げる。
「覚えておきます」
アシュレインが笑う。
「名前なんて覚えなくてもいい」
「え?」
「いつか、お前たち自身の力で俺たちのところまで来ればいい」
そう言って、三人は歩き始めた。
「待ってください!」
俺は思わず声をかけた。
三人が振り返る。
「……また会えますか?」
アシュレインは少しだけ笑った。
「強くなればな」
それだけ言って、三人は去っていった。
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俺はその背中を見つめる。
まだ遠い。
今の俺たちでは、到底届かない。
でも――
目指す場所ができた。
それだけで、不思議と胸が熱くなった。
「帰ろう」
レティシアが言う。
「うん」
エリスも頷く。
三人で街へ戻る。
その途中、俺は何度も振り返った。
いつか必ず。
今度は助けてもらう側ではなく――
自分たちの力で、強敵を倒せるようになってみせる。
第87話 終




