86話 生きる伝説
グレートオーガを囲む討伐隊。
俺たちは少し離れた場所から、その戦いを見ていた。
「行くぞ!」
Cランク冒険者たちが一斉に駆け出す。
剣。
槍。
魔法。
次々と攻撃がグレートオーガへ叩き込まれる。
――ドンッ!
――ザンッ!
――バシュッ!
だが――
「効いてない……」
レティシアが呟く。
グレートオーガの身体には、いくつか傷がついている。
それでも、その動きはほとんど変わらない。
---
「グォォォォッ!」
グレートオーガが腕を振り回す。
――ブォン!
数人の冒険者がまとめて吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
「大丈夫か!」
別の冒険者が助けに入る。
俺はその光景を見つめる。
Cランク。
俺たちより遥かに上の冒険者たち。
それでも苦戦している。
「……あれがAランク相当」
俺は拳を握った。
昨日、俺たちが一瞬足止めできたのは――
ただ避難する時間を作れただけだった。
戦って勝つ。
そんなことは、今の俺にはできない。
---
「キラ」
レティシアが俺を見る。
「私たちにもできることはあるよ」
「うん」
俺は杖を握り直す。
「討伐隊の援護をしよう」
正面から戦う必要はない。
少しでも隙を作る。
それなら俺たちにもできる。
「エリス!」
「はい!」
エリスが弓を構える。
グレートオーガの足元へ矢を放つ。
――シュッ!
矢が突き刺さる。
「こっち!」
レティシアが駆ける。
グレートオーガの視線が一瞬だけ逸れた。
「今!」
俺は魔力を集める。
「《フレイムスパイラル》!」
炎の渦がグレートオーガの腕を包む。
――ゴォォォッ!
「グォォッ!」
初めて、グレートオーガがこちらを振り向いた。
「効いた!」
レティシアが驚く。
だが――
グレートオーガは炎を振り払った。
そして俺たちへ向かってくる。
「……!」
---
「散開!」
三人が同時に動く。
グレートオーガの拳が地面を砕く。
――ドゴォォォン!!
俺は《ウィンドステップ》で後ろへ飛ぶ。
「《ウィンドバレット》!」
――ドンッ!
顔を狙う。
グレートオーガが腕で防ぐ。
「レティシア!」
「分かってる!」
レティシアが足元へ滑り込む。
――ザンッ!
膝の裏を斬る。
グレートオーガが僅かによろめいた。
「今だ!」
討伐隊の魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。
――ドォォォン!!
炎と雷がグレートオーガを包む。
だが――
「まだ立つのか……」
煙の中から、巨大な身体が現れる。
---
俺は気づいた。
「胸の結晶……」
黒い結晶が、以前より大きくなっている。
そして、その周囲には黒い魔力が渦巻いている。
「もしかして……あれが力の源?」
エリスが頷く。
「そうだと思います」
「だったら、あそこを狙えば――」
俺は結晶を見る。
だが、グレートオーガの身体が完全に守っている。
「簡単には狙えない」
レティシアが言う。
「でも、やるしかない」
---
「俺が隙を作る」
「キラ、それは――」
「大丈夫」
俺は魔力を集める。
今まで使った中でも最大級。
「《フレイムスパイラル》!」
――ゴォォォォォッ!!
炎がグレートオーガの身体を包み込む。
今までより大きい。
炎の渦が黒い結晶まで届く。
「グォォォォォッ!!」
グレートオーガが初めて苦しそうな声を上げた。
「レティシア!」
「任せて!」
レティシアが走る。
エリスも弓を引き絞る。
「行きます!」
――シュッ!
矢が結晶へ向かう。
しかし――
グレートオーガが腕を上げた。
矢は弾かれた。
「そんな……!」
レティシアの剣も結晶へ届かない。
「くっ!」
俺は魔法を維持する。
だが、魔力が急激に減っていく。
「まだ……!」
---
視界が揺れる。
足に力が入らない。
《フレイムスパイラル》が弱くなる。
「キラ!」
エリスが叫ぶ。
「もう十分!」
「でも……!」
俺は杖を握る。
あと少し。
あと少しだけ――
そう思った瞬間。
グレートオーガが炎を振り払った。
――ドンッ!
俺の身体が吹き飛ぶ。
「キラ!」
レティシアが駆け寄る。
「大丈夫……」
立ち上がろうとする。
でも、身体が動かない。
「……くそ」
悔しい。
全力を出した。
《フレイムスパイラル》も使った。
それでも――
傷一つまともに与えられない。
---
そのとき。
戦場の後方から、三人の男女が歩いてきた。
誰も大声を出していない。
誰も慌てていない。
ただ、静かに戦場を見ている。
「……あの人たち、誰?」
レティシアが尋ねる。
近くの冒険者が答えた。
「知らないのか?」
その声には驚きが混じっていた。
「伝説のパーティだ」
俺は顔を上げる。
三人のうち、一人の男がこちらを見る。
そして――
「ほう」
俺たちを見て、少しだけ笑った。
「まだ若いのに、よくあそこまで食らいついたな」
俺は何も言えない。
ただ、その男から感じる魔力に圧倒されていた。
強い。
今まで会った誰よりも。
---
男はグレートオーガへ視線を戻す。
「さて」
腰の剣に手をかける。
「少しだけ、手伝うか」
その瞬間――
空気が変わった。
俺は息を呑む。
これほどの強者がいるのか。
そして、この出会いが――
俺たちの未来を大きく変えることになるとは、このときの俺たちはまだ知らなかった。
第86話 終




