表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/51

第9話 再構築の兆し


 森から屋敷へ戻った翌朝。


 俺はいつも通り、目を覚ました。


 ……いや。


 正確には、いつも通りではなかった。


「…………なんだ?」


 目を開けた瞬間。


 身体の中に、妙な違和感があった。


 痛いわけじゃない。


 熱があるわけでもない。


 むしろ逆だった。


 身体の奥が、妙に軽い。


「変な感じ……」


 俺はベッドの上で身体を起こした。


 窓から差し込む朝日が、部屋の床を照らしている。


 いつもの部屋。


 いつものベッド。


 机の上には昨日使った魔法研究の紙。


 何も変わっていない。


 なのに。


 俺だけが、何か違う。


「……鑑定」


 いつものように頭の中で念じる。


【名前:キラ】


【年齢:6】


【レベル:4】


【魔力:9】


【筋力:7】


【敏捷:8】


【知力:10】


 数値は昨日と変わらない。


「……何も変わってない?」


 少し安心する。


 でも、違和感は消えない。


 俺はベッドから降りた。


 そして床に置いてあった小さな木箱を持ち上げる。


「軽い」


 いつもなら両手で持つところを、片手で持ち上げられた。


「……気のせい?」


 今度は少し大きな箱。


 両手で持ち上げる。


 これも昨日より軽く感じる。


「筋力が上がったわけじゃないのに……」


 俺は首を傾げた。


 そのとき。


 ――ズキッ。


「っ!」


 頭の奥に、一瞬だけ痛みが走った。


 同時に。


 見たことのない文字が浮かんだ。


【再構築条件を一部確認】


「……え?」


 文字は一瞬で消えた。


「今の……何?」


 俺は慌てて鑑定をやり直す。


 何度試しても、表示されるのはいつものステータスだけ。


「……気のせい?」


 そう思おうとした。


 けれど。


 俺は知っている。


 あれは、間違いなく《再構築》だった。



---


 朝食の席。


「キラ、今日はずいぶん静かだな」


 父さんが言った。


「そう?」


「ああ。いつもなら朝から魔法の話ばかりするだろ」


「……ちょっと考え事」


「昨日の森のことか?」


「それもある」


 俺はパンをちぎりながら考える。


 昨日の森。


 最後に倒したウルフ。


 あのときから何かがおかしい。


「父さん」


「ん?」


「昨日倒したウルフって、普通のウルフだった?」


 父さんの手が止まった。


「どうしてそう思う?」


「……なんとなく」


「なるほど」


 父さんは少し考えた。


「実はな」


「うん」


「最後に倒したウルフの一匹だけ、少し魔力が強かった」


「やっぱり」


「気づいていたのか?」


「戦ってるとき、ちょっとだけ違う感じがした」


 父さんは驚いた顔をした。


「そうか……」


「何か特別だったの?」


「魔力が普通の個体より濃かった。それだけだ」


「それだけ?」


「ああ。珍しい個体ではあるが、特別な魔物というわけではない」


「……そう」


 俺はパンを見る。


 やっぱり、何かある。


 昨日の戦闘のあとから。


 俺の《再構築》に変化が起きている。



---


 朝食を終えると、俺は庭へ向かった。


 魔法を試す。


 昨日と同じように、小さな石を一つ置く。


「《重力操作》」


 石が浮く。


 魔力を確認する。


【魔力:8】


「一消費」


 昨日と同じ。


 次に《冷却》。


 桶の水へ手を向ける。


「《冷却》」


 水面が凍る。


【魔力:7】


「これも同じ」


 俺は腕を組む。


 魔法に変化はない。


 なら、変わったのは――。


「身体?」


 俺は庭の隅にある木へ近づく。


 幹に手を当てる。


 何となく。


 本当に何となく。


 魔力を流してみる。


「……?」


 いつもなら、魔力は身体から手へ流れていく。


 そこから魔法として外へ出る。


 でも今日は。


 木に触れた瞬間。


 何かが――。


 繋がった。


「……!」


 木の内部が分かる。


 根。


 幹。


 枝。


 水分。


 細胞のようなもの。


 まるで、木の構造が頭の中へ流れ込んでくる。


「なんだ……これ……」


 慌てて手を離す。


 感覚は消えた。


「今のは魔法じゃない」


 鑑定でもない。


 《再構築》だ。


 そう直感した。


「……もしかして」


 俺はもう一度木に触れる。


 今度は慎重に。


 魔力をほんの少しだけ流す。


 すると――。


【対象の構造を認識しました】


「……!」


 文字が浮かんだ。


【生命構造】


【魔力循環】


【再構築可能領域――未確定】


 俺は息を止めた。


「見える……」


 昨日まで見えなかったものが見えている。


 ただし。


 意味は分からない。


「再構築可能領域って……何?」


 さらに魔力を流そうとする。


 すると。


【警告】


【現在のレベルでは再構築を実行できません】


「……」


 そこで文字が消えた。


 俺はしばらく動けなかった。


「レベル……」


 やはり。


 《再構築》にはレベルが関係している。


 でも。


 ただレベルを上げればいいだけではないのかもしれない。


 何か条件がある。


 昨日のウルフ。


 魔力。


 レベル。


 そして――。


 再構築。


「分からない……」


 俺は頭を抱えた。


 けれど。


 怖くはなかった。


 むしろ。


 嬉しかった。


「やっと……手がかりが出てきた」


 今まで《再構築》は、ただ説明文に書かれているだけだった。


 何ができるのか。


 どう使うのか。


 何も分からなかった。


 それが初めて。


 少しだけ動いた。



---


 昼過ぎ。


 俺は父さんに相談することにした。


「父さん」


「どうした?」


「魔法について聞きたい」


「またか?」


「うん」


 父さんは苦笑する。


「今度は何だ?」


「魔法って、他の生き物に干渉できる?」


「干渉?」


「身体の中にある魔力とか」


 父さんは少し考える。


「理論上はできる」


「本当に?」


「ああ。ただし、非常に難しい」


「どうして?」


「魔力は人間なら人間、魔物なら魔物で流れ方が違う。無理に干渉すると、相手の魔力だけでなく自分の魔力も乱れる」


「つまり……危険?」


「かなりな」


 俺は黙る。


「だから、他人の身体を直接操作する魔法はほとんど存在しない」


「……なるほど」


 俺は庭の木を見る。


 生き物の構造を認識する。


 魔力の流れを見る。


 そして――。


 再構築。


「父さん」


「なんだ?」


「身体そのものを作り変える魔法ってある?」


 父さんは少しだけ目を細めた。


「……ない」


「ない?」


「少なくとも、俺は知らない」


「じゃあ、傷を治す魔法は?」


「それはある」


「身体を作り変えるのとは違う?」


「ああ。治癒魔法は、本来あるべき状態へ戻す魔法だ」


「本来あるべき状態……」


 その言葉が妙に引っかかった。


「だったら、再構築は?」


 口に出しかけて。


 俺は止めた。


 まだ父さんには言わない。


 説明できない。


 そもそも、自分でも分かっていない。


「……何でもない」


「そうか?」


「うん」



---


 その日の夜。


 俺は自分の部屋で一人、机に向かっていた。


 紙に今日分かったことを書く。


 《再構築》


 ・昨日のウルフ討伐後に変化した?


 ・対象の構造を認識できる。


 ・生命構造を認識可能。


 ・魔力循環を認識可能。


 ・レベル4では再構築そのものは使用できない。


 ・何らかの条件が存在する。


 ペンを置く。


「……」


 俺は窓の外を見る。


 月が出ていた。


 静かな夜。


 街の明かりが遠くに見える。


 俺はふと、自分の手を見る。


 この身体は六歳の子供。


 でも。


 中身は前世の記憶を持っている。


 この世界に生まれてから、ずっと不思議だった。


 なぜ俺だけ無詠唱が使えるのか。


 なぜ《再構築》を持っているのか。


 なぜ普通の魔法を使うより、自分で術式を組み替えた方がうまくいくのか。


 もしかしたら。


 全部繋がっているのかもしれない。


「無詠唱も……再構築も……」


 俺は呟く。


「俺が思っているより、ずっと特殊なのかもしれない」


 そのとき。


 ――ズキッ。


「っ!」


 また頭痛が走った。


 視界が一瞬だけ白くなる。


 そして。


 目の前に文字が浮かんだ。


【再構築】


【第一条件――】


 そこで文字が途切れる。


「……え?」


 待って。


 もう一度。


 何も表示されない。


「第一条件って……何?」


 俺は机の上の紙を見る。


 手が震えていた。


 まだ全部は分からない。


 でも。


 確実に何かが始まっている。


 俺はペンを握り直した。


 そして紙の一番下に、大きく書いた。


 「レベル10まで上げる」


 今の俺には、それしかできない。


 レベルが上がれば、もっと多くのことが分かるかもしれない。


 魔力も増える。


 魔法も増やせる。


 そして――。


 《再構築》の秘密にも近づける。


 俺はベッドへ入った。


 目を閉じる。


「明日も頑張ろう」


 そう思った直後。


 ――どこからか。


 聞き覚えのない声が聞こえた。


『……再構築を確認』


「……?」


 俺は目を開けた。


 部屋には誰もいない。


「今……何か聞こえた?」


 静寂。


 風が窓を揺らしているだけ。


 俺はしばらく起きていた。


 けれど、何も起こらない。


「……気のせいか」


 そう呟いて、再び目を閉じる。


 しかし。


 机の上に置かれたステータス画面には――。


【レベル:4】


【再構築:待機中】


 今まで存在しなかった一行が。


 静かに表示されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ