第10話 冒険者ギルドで初依頼
翌朝。
目を覚ました俺は、真っ先に机へ向かった。
「……やっぱりある」
昨日の夜。
確かに見た。
ステータスの一番下に表示されていた、今まで存在しなかった文字。
【再構築:待機中】
今朝も同じだった。
【名前:キラ】
【年齢:6】
【レベル:4】
【魔力:9】
【筋力:7】
【敏捷:8】
【知力:10】
そして、その下。
【再構築:待機中】
「待機中って……何を待ってるんだ?」
指で触れてみる。
当然、触れることはできない。
ただの表示だ。
それでも、以前とは明らかに違う。
俺は机に座り、紙を取り出した。
昨日までに分かったことを書き直す。
――再構築。
俺が転生したときから持っていた、謎の能力。
今までは説明文しか表示されていなかった。
しかし、昨日。
初めて変化が起きた。
そして、きっかけとして思い当たるのは一つ。
「……あのウルフ」
普通のウルフより強かった個体。
あの魔物を倒したあとから、再構築に変化が起きた。
「でも、魔物を倒したからっていうなら……」
ホーンラビットのときにも変化があっていい。
レベル4になったときにも、何か起きてもおかしくない。
つまり。
「魔物の種類……?」
俺は考え込む。
答えは出ない。
今の俺に分かるのは、再構築が何らかの条件で少しずつ目を覚ましているということだけだった。
「……調べるしかないか」
俺は紙を折りたたんだ。
そして、もう一つの目的を思い出す。
今日は父さんと街へ行く予定だった。
理由は――。
冒険者ギルドを見るためだ。
---
冒険者ギルド
街の中央通り。
朝から多くの人が歩いている。
商人。
職人。
荷物を運ぶ人。
そして、武器や防具を身につけた冒険者たち。
「ここだ」
父さんが立ち止まった。
目の前には、大きな石造りの建物があった。
入口の上には、剣と盾を組み合わせたような紋章。
「冒険者ギルド?」
「ああ」
俺は建物を見上げた。
想像していたより大きい。
「入っていいの?」
「もちろん。ただし、今日は登録するわけじゃないぞ」
「分かってる」
六歳では冒険者登録はできない。
少なくとも今の俺には無理だ。
今日はあくまで見学。
そういう話だった。
扉を開ける。
――ガヤガヤ。
中から一気に声が聞こえてきた。
「昨日の依頼、報酬が少なすぎるぞ!」
「薬草ならこの辺りだ!」
「誰か荷物運びを手伝ってくれ!」
「次の討伐依頼は――」
俺は思わず立ち止まった。
「……すごい」
想像していたよりずっと騒がしい。
酒場のような場所もある。
壁には大量の紙が貼られている。
依頼書だ。
「父さん」
「ん?」
「あれ全部依頼?」
「ああ」
「魔物討伐もある?」
「もちろん」
俺は掲示板へ近づいた。
依頼書には様々な内容が書かれている。
【薬草採取】
【街道の荷物運搬】
【ゴブリン討伐】
【ウルフ討伐】
【魔物の素材回収】
そして、一番上の方。
【森の奥での魔物調査】
「……魔物調査?」
「最近、森の魔物の動きがおかしいらしい」
父さんが言った。
「昨日のウルフも?」
「可能性はある」
俺は依頼書を見つめた。
森の魔物の動き。
昨日の強いウルフ。
そして――。
再構築。
「……」
偶然だろうか。
それとも。
---
「おや?」
声をかけられた。
振り返る。
受付の女性がこちらを見ていた。
「その子、冒険者になりたいの?」
「まあ、そんなところです」
父さんが答える。
「まだ六歳なんですけどね」
「まあ!」
女性が驚く。
「六歳で魔物討伐?」
「昨日、少しだけ」
「少しだけって……」
父さんが苦笑する。
「無理はさせていません」
俺は黙っている。
すると、受付の女性が俺を見る。
「坊や」
「はい」
「冒険者になったら何をしたいの?」
俺は少し考えた。
「魔法を研究したい」
「魔法?」
「はい」
「じゃあ、魔法使いになりたいのね?」
「……たぶん」
俺は答える。
「でも、剣も使えるようになりたい」
「欲張りね」
女性が笑った。
「冒険者なんて、それくらいでいいのよ」
その言葉に、少しだけ嬉しくなった。
---
初めての依頼
ギルドを見学したあと。
父さんが一枚の紙を持ってきた。
「キラ」
「なに?」
「一つ、簡単な依頼をやってみるか?」
「え?」
紙を見る。
【薬草採取】
指定された薬草を十本。
報酬は少額。
「これなら魔物と戦わなくてもいい」
「薬草?」
「ああ」
「やりたい!」
俺はすぐに答えた。
冒険者としての初めての依頼。
討伐ではない。
でも――。
やってみたい。
父さんが受付へ依頼書を持っていく。
受付の女性が少し笑った。
「では、気をつけて」
「はい!」
---
向かったのは、街の外れにある草原だった。
森ほど危険ではない。
それでも、魔物がまったくいないわけではない。
「薬草はこの辺りにある」
父さんがしゃがみ込む。
「葉の形を覚えろ」
「うん」
俺も地面を見る。
似たような草が大量に生えている。
「これ?」
「違う」
「じゃあ、これ?」
「それも違う」
「難しい……」
薬草採取。
簡単な依頼だと思っていた。
でも、実際にやると全然違う。
「これ?」
「惜しい」
「惜しいって何?」
父さんが笑う。
「葉の裏側を見るんだ」
言われた通りに確認する。
すると、葉の裏に小さな白い線があった。
「これ?」
「そうだ」
「見つけた!」
一枚。
二枚。
三枚。
少しずつ集める。
十本集め終わった頃には、昼になっていた。
「終わった!」
「よくやった」
父さんが袋を確認する。
「これなら依頼達成だ」
「やった」
俺は嬉しくなった。
魔物を倒すことだけが冒険じゃない。
薬草を探す。
素材を集める。
人の依頼を受ける。
そういう積み重ねも冒険者の仕事なんだ。
---
帰ろうとしたときだった。
草むらの奥から。
カサッ。
「……?」
俺が振り返る。
「どうした?」
「何かいる」
父さんがすぐに警戒する。
草むらが揺れた。
一匹の小さな魔物が姿を現す。
「ゴブリン?」
昨日とは少し違う。
身体が小さい。
そして――。
「怪我してる」
片足を引きずっている。
ゴブリンはこちらを見た。
逃げようとしている。
でも、足が動かない。
「父さん」
「どうする?」
「……」
俺はゴブリンを見る。
昨日までなら、魔物は倒すものだと思っていた。
でも今は違う。
目の前のゴブリンは、こちらへ襲いかかってこない。
ただ怪我をしている。
「助けてあげられない?」
父さんが驚いた顔をする。
「魔物だぞ?」
「分かってる」
俺は慎重に近づく。
ゴブリンが怯える。
「大丈夫」
俺は手を伸ばす。
魔力を少しだけ流す。
すると――。
「……見える」
昨日と同じ。
ゴブリンの身体の構造。
魔力の流れ。
そして、傷ついた足。
俺にはそれが、はっきり見えていた。
【対象の生命構造を認識】
【損傷箇所を確認】
【再構築可能領域――】
「……!」
文字が浮かぶ。
だが。
すぐに消える。
【現在の条件では実行できません】
「やっぱり……」
俺は手を引っ込める。
「どうした?」
「……まだ、治せない」
父さんは何も言わなかった。
俺はゴブリンを見る。
助けてやりたい。
でも、今の俺にはできない。
「ごめん」
ゴブリンは俺を見ている。
しばらくすると、ゆっくりと森の方へ歩いていった。
その後ろ姿を見ながら、俺は思った。
《再構築》は、ただ強くなるための能力じゃないのかもしれない。
身体を作り変える。
傷を治す。
もしかしたら――。
もっと別のことも。
「……もっと知りたい」
俺は拳を握った。
レベル10。
そこへ到達すれば、何か分かるかもしれない。
---
屋敷へ帰る前。
俺はギルドへ薬草を納品した。
「確認しました。依頼達成です」
受付の女性が報酬を渡してくれる。
小さな袋。
中には数枚の硬貨。
「これが報酬……」
「そうよ」
俺は硬貨を手のひらに乗せる。
少ない。
でも。
「初めて自分で稼いだ」
その事実が嬉しかった。
父さんが笑う。
「これで冒険者への一歩だな」
「うん」
俺は硬貨を握る。
いつか。
本当に冒険者になる。
魔法を研究する。
いろんな場所へ行く。
いろんな魔物と戦う。
そして――。
《再構築》の秘密を知る。
そのために。
まずは。
「レベル10……」
小さく呟く。
すると。
頭の中に、ほんの一瞬だけ文字が浮かんだ。
【再構築】
【第二条件への進行を確認】
「……え?」
俺は足を止めた。
表示はすぐに消えた。
父さんは気づいていない。
俺だけが見た。
「第二条件……?」
俺は空を見上げる。
まだ何も分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
《再構築》は、少しずつ目を覚ましている。
そして。
俺がレベルを上げるたびに――。
その謎は、少しずつ深くなっていく。
レベル10まで、あと6。




