7話 組み合わせ次第でいくらでも
森から屋敷へ戻った翌日。
俺は朝から庭にいた。
「……眠い」
昨日の戦闘で疲れていたらしい。
ベッドに入った瞬間に眠ってしまった。
それなのに、目が覚めるとすぐに庭へ出てきている。
理由は一つ。
「試したいことがある」
昨日の戦いで、俺は三つの魔法を使った。
《重心操作》。
《重力操作》。
そして《冷却》。
どれも単独で使えば便利な魔法だ。
けれど、昨日の戦いで分かったことがある。
魔法は組み合わせた方が強い。
「問題は魔力だな」
俺は自分のステータスを確認する。
【名前:キラ】
【年齢:6】
【レベル:3】
【魔力:7】
【筋力:6】
【敏捷:7】
【知力:9】
レベル3。
魔力7。
昨日よりは増えた。
でも、まだ少ない。
《重力操作》はかなり魔力を使う。
昨日の戦闘でも、何度か使ったせいで魔力がほとんど残らなかった。
「もっと少ない魔力で使えるようにしないと」
俺は地面に座り込んだ。
目の前には、昨日拾ってきた小さな石がいくつか並べてある。
最初に使うのは《重力操作》。
石を一つ拾う。
「普通に落とす」
手から石を離す。
コトッ。
当然、地面に落ちる。
「次」
今度は魔法を使う。
頭の中で術式を組み立てる。
対象は石。
範囲は一点。
重力の方向を変更。
ほんの少しだけ。
「《重力操作》」
石が落ちる。
ただし、普通とは違う。
地面ではなく、横へ。
コロコロと転がっていく。
「成功」
俺は紙に書き込んだ。
重力操作:小さな対象なら少ない魔力で使用可能。
次。
今度は石を浮かせてみる。
重力を上向きにする。
「《重力操作》」
石が浮いた。
数センチ。
さらに魔力を込める。
十センチ。
二十センチ。
「……」
三十センチ。
そこで石が落ちた。
「魔力切れか」
正確には、魔力を使いすぎた。
残りは――。
【魔力:5】
「二も使ったのか」
まだまだ効率が悪い。
俺は腕を組んだ。
重力を変える。
ただそれだけなのに、意外と魔力を消費する。
「もっと簡単にできないかな」
考える。
昨日の戦闘を思い出す。
ウルフを吹き飛ばしたとき。
俺は重力そのものを強くしたわけじゃない。
方向を変えただけだ。
「だったら……」
俺は術式を見直す。
重力の強さを指定。
方向を指定。
対象を指定。
このうち、重力の強さは必要ない。
元々存在している重力を利用すればいい。
「方向だけ変える」
術式から余計な部分を削る。
魔力を流す。
「《重力操作》」
石が浮いた。
しかし、今度は――。
ほとんど魔力を消費していない。
「……できた」
俺は思わず笑った。
「魔法って、こういうことなのか」
魔力を増やすだけじゃない。
同じ魔法でも、使い方次第で消費量を減らせる。
なら、もっとできる。
俺は次の実験へ移った。
---
昼過ぎ。
庭には、いくつもの石が並んでいた。
「次は《冷却》」
水を入れた木桶を用意する。
俺は水に手を向けた。
水から熱を奪う。
ただそれだけ。
「《冷却》」
水面が揺れる。
少しずつ温度が下がっていく。
やがて――。
パキッ。
「凍った」
水面の一部に薄い氷ができた。
「……でも遅い」
今のままでは戦闘に使えない。
もっと早く凍らせる必要がある。
俺は術式を組み直す。
水全体から熱を奪うのではなく。
水の一点から熱を奪う。
そこから周囲へ広げる。
「これなら……」
もう一度。
「《冷却》」
パキッ。
氷が広がる。
さっきより明らかに早い。
「成功!」
俺は拳を握った。
ただの魔法でも、工夫すれば性能が変わる。
これは面白い。
前世でプログラムを組んでいた頃を思い出す。
同じ処理でも、無駄な部分を削れば速くなる。
魔法も同じなのかもしれない。
「なら、次は二つを組み合わせる」
俺は庭の土を少し掘った。
そこに水を流す。
そして――。
《冷却》。
水が凍る。
その上から――。
《重力操作》。
凍った水へ力を加える。
バキッ!
氷が砕けた。
「……」
俺は砕けた氷を見る。
「失敗」
魔法自体は成功している。
でも、意味がない。
ただ氷を割っただけだ。
「組み合わせるなら、目的を決めないと」
昨日の戦闘では、ウルフの足元を凍らせて動きを止めた。
そこへ重力を加えれば――。
「動きを完全に止められる?」
試してみる。
地面に水を撒く。
《冷却》。
薄い氷ができる。
そこへ《重力操作》。
氷そのものではなく、その上にある物体へ重力をかける。
石を置く。
石が地面に押し付けられる。
「なるほど……」
これは使える。
直接相手へ大きな力をかけるより、足場を作ってから動きを制限する。
「魔法は一個ずつ強くする必要はない」
俺は紙に書き込む。
魔法は組み合わせることで効果を高められる。
そのときだった。
「キラ」
「!」
振り返る。
父さんが庭の入口に立っていた。
「何をしている?」
「魔法の練習」
「……ずいぶん派手にやったな」
父さんが庭を見る。
氷。
石。
掘り返された地面。
水の入った桶。
「何を研究しているんだ?」
「魔法を組み合わせてる」
「組み合わせる?」
「うん」
俺は昨日のウルフ戦について説明した。
《冷却》で足場を凍らせる。
《重力操作》で相手を押さえる。
そうすれば、少ない魔力でも相手の動きを止められる。
父さんは黙って聞いていた。
「……誰かに教わったのか?」
「ううん」
「自分で考えた?」
「うん」
父さんは少し困ったような顔をした。
「そうか」
「どうしたの?」
「いや」
父さんは庭を見渡す。
「魔法は普通、一つの術式を正確に使うことから始める」
「うん」
「複数の魔法を同時に扱うのは、かなり難しい」
「そうなの?」
「ああ」
父さんは頷いた。
「魔法を二つ使えば、その分だけ魔力を消費する。それだけじゃない。術式同士が干渉することもある」
「干渉?」
「火と水を同時に使えば、互いの効果を邪魔することがある。風と炎なら炎を強くすることもある」
「なるほど」
「だから、魔法の組み合わせは上級者でも簡単じゃない」
俺は自分の手を見る。
俺は無詠唱だから、術式を直接操作できる。
だからこそ、普通の魔法使いより自由に組み合わせられるのかもしれない。
「……面白い」
「何が?」
「もっと試したい」
父さんが苦笑した。
「ほどほどにしろよ」
「はーい」
---
夕方。
俺は最後の実験をすることにした。
庭の端に、大きな岩がある。
俺はそれを見つめる。
「これなら試せる」
まず《冷却》。
岩の表面から熱を奪う。
温度を下げる。
そして――。
「《重力操作》」
今度は一点だけ。
岩の中心へ向かって力を集中させる。
ギシッ。
岩から音がする。
「……!」
表面に小さな亀裂が入った。
さらに冷却。
さらに重力。
パキッ。
亀裂が広がる。
そして――。
バキィン!
岩が真っ二つに割れた。
「……」
俺は呆然とする。
父さんも黙っていた。
「今の……」
「うん」
俺は岩を見る。
剣でも斬れないような大きさだった。
それが二つに割れている。
「魔法を組み合わせただけ」
「……そうだな」
父さんはそう答えた。
けれど、その顔には驚きが残っている。
俺は気づいていなかった。
今の魔法が、六歳の子供が使えるものではないことに。
そして父さんもまだ知らない。
俺が使っているのが、ただの無詠唱魔法ではないことを。
俺は岩の断面を見る。
ひび割れ方。
魔力の消費。
術式の構造。
頭の中では、すでに次の実験を考えていた。
「もっと効率を上げられる」
魔法はまだまだ改良できる。
だったら――。
「次は、風を組み合わせてみよう」
俺は新しい紙を取り出した。
そこに新しい項目を書く。
《魔法複合》
これが後に、俺の戦い方そのものを変える技術になるとは。
このときの俺は、まだ知らなかった。
ただ一つ分かっていることがある。
強くなる方法は、レベルを上げるだけじゃない。
自分自身で、強さの形を作ることもできる。
俺は紙に次々と新しい魔法の案を書き込んでいった。
そして翌日。
父さんと再び森へ行くことになる。
目標は――。
レベル4。
そして、いつか必ず。
レベル10へ。




