表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/24

7話 組み合わせ次第でいくらでも


 森から屋敷へ戻った翌日。


 俺は朝から庭にいた。


「……眠い」


 昨日の戦闘で疲れていたらしい。


 ベッドに入った瞬間に眠ってしまった。


 それなのに、目が覚めるとすぐに庭へ出てきている。


 理由は一つ。


「試したいことがある」


 昨日の戦いで、俺は三つの魔法を使った。


 《重心操作》。


 《重力操作》。


 そして《冷却》。


 どれも単独で使えば便利な魔法だ。


 けれど、昨日の戦いで分かったことがある。


 魔法は組み合わせた方が強い。


「問題は魔力だな」


 俺は自分のステータスを確認する。


【名前:キラ】

【年齢:6】

【レベル:3】

【魔力:7】

【筋力:6】

【敏捷:7】

【知力:9】


 レベル3。


 魔力7。


 昨日よりは増えた。


 でも、まだ少ない。


 《重力操作》はかなり魔力を使う。


 昨日の戦闘でも、何度か使ったせいで魔力がほとんど残らなかった。


「もっと少ない魔力で使えるようにしないと」


 俺は地面に座り込んだ。


 目の前には、昨日拾ってきた小さな石がいくつか並べてある。


 最初に使うのは《重力操作》。


 石を一つ拾う。


「普通に落とす」


 手から石を離す。


 コトッ。


 当然、地面に落ちる。


「次」


 今度は魔法を使う。


 頭の中で術式を組み立てる。


 対象は石。


 範囲は一点。


 重力の方向を変更。


 ほんの少しだけ。


「《重力操作》」


 石が落ちる。


 ただし、普通とは違う。


 地面ではなく、横へ。


 コロコロと転がっていく。


「成功」


 俺は紙に書き込んだ。


 重力操作:小さな対象なら少ない魔力で使用可能。


 次。


 今度は石を浮かせてみる。


 重力を上向きにする。


「《重力操作》」


 石が浮いた。


 数センチ。


 さらに魔力を込める。


 十センチ。


 二十センチ。


「……」


 三十センチ。


 そこで石が落ちた。


「魔力切れか」


 正確には、魔力を使いすぎた。


 残りは――。


【魔力:5】


「二も使ったのか」


 まだまだ効率が悪い。


 俺は腕を組んだ。


 重力を変える。


 ただそれだけなのに、意外と魔力を消費する。


「もっと簡単にできないかな」


 考える。


 昨日の戦闘を思い出す。


 ウルフを吹き飛ばしたとき。


 俺は重力そのものを強くしたわけじゃない。


 方向を変えただけだ。


「だったら……」


 俺は術式を見直す。


 重力の強さを指定。


 方向を指定。


 対象を指定。


 このうち、重力の強さは必要ない。


 元々存在している重力を利用すればいい。


「方向だけ変える」


 術式から余計な部分を削る。


 魔力を流す。


「《重力操作》」


 石が浮いた。


 しかし、今度は――。


 ほとんど魔力を消費していない。


「……できた」


 俺は思わず笑った。


「魔法って、こういうことなのか」


 魔力を増やすだけじゃない。


 同じ魔法でも、使い方次第で消費量を減らせる。


 なら、もっとできる。


 俺は次の実験へ移った。



---


 昼過ぎ。


 庭には、いくつもの石が並んでいた。


「次は《冷却》」


 水を入れた木桶を用意する。


 俺は水に手を向けた。


 水から熱を奪う。


 ただそれだけ。


「《冷却》」


 水面が揺れる。


 少しずつ温度が下がっていく。


 やがて――。


 パキッ。


「凍った」


 水面の一部に薄い氷ができた。


「……でも遅い」


 今のままでは戦闘に使えない。


 もっと早く凍らせる必要がある。


 俺は術式を組み直す。


 水全体から熱を奪うのではなく。


 水の一点から熱を奪う。


 そこから周囲へ広げる。


「これなら……」


 もう一度。


「《冷却》」


 パキッ。


 氷が広がる。


 さっきより明らかに早い。


「成功!」


 俺は拳を握った。


 ただの魔法でも、工夫すれば性能が変わる。


 これは面白い。


 前世でプログラムを組んでいた頃を思い出す。


 同じ処理でも、無駄な部分を削れば速くなる。


 魔法も同じなのかもしれない。


「なら、次は二つを組み合わせる」


 俺は庭の土を少し掘った。


 そこに水を流す。


 そして――。


 《冷却》。


 水が凍る。


 その上から――。


 《重力操作》。


 凍った水へ力を加える。


 バキッ!


 氷が砕けた。


「……」


 俺は砕けた氷を見る。


「失敗」


 魔法自体は成功している。


 でも、意味がない。


 ただ氷を割っただけだ。


「組み合わせるなら、目的を決めないと」


 昨日の戦闘では、ウルフの足元を凍らせて動きを止めた。


 そこへ重力を加えれば――。


「動きを完全に止められる?」


 試してみる。


 地面に水を撒く。


 《冷却》。


 薄い氷ができる。


 そこへ《重力操作》。


 氷そのものではなく、その上にある物体へ重力をかける。


 石を置く。


 石が地面に押し付けられる。


「なるほど……」


 これは使える。


 直接相手へ大きな力をかけるより、足場を作ってから動きを制限する。


「魔法は一個ずつ強くする必要はない」


 俺は紙に書き込む。


 魔法は組み合わせることで効果を高められる。


 そのときだった。


「キラ」


「!」


 振り返る。


 父さんが庭の入口に立っていた。


「何をしている?」


「魔法の練習」


「……ずいぶん派手にやったな」


 父さんが庭を見る。


 氷。


 石。


 掘り返された地面。


 水の入った桶。


「何を研究しているんだ?」


「魔法を組み合わせてる」


「組み合わせる?」


「うん」


 俺は昨日のウルフ戦について説明した。


 《冷却》で足場を凍らせる。


 《重力操作》で相手を押さえる。


 そうすれば、少ない魔力でも相手の動きを止められる。


 父さんは黙って聞いていた。


「……誰かに教わったのか?」


「ううん」


「自分で考えた?」


「うん」


 父さんは少し困ったような顔をした。


「そうか」


「どうしたの?」


「いや」


 父さんは庭を見渡す。


「魔法は普通、一つの術式を正確に使うことから始める」


「うん」


「複数の魔法を同時に扱うのは、かなり難しい」


「そうなの?」


「ああ」


 父さんは頷いた。


「魔法を二つ使えば、その分だけ魔力を消費する。それだけじゃない。術式同士が干渉することもある」


「干渉?」


「火と水を同時に使えば、互いの効果を邪魔することがある。風と炎なら炎を強くすることもある」


「なるほど」


「だから、魔法の組み合わせは上級者でも簡単じゃない」


 俺は自分の手を見る。


 俺は無詠唱だから、術式を直接操作できる。


 だからこそ、普通の魔法使いより自由に組み合わせられるのかもしれない。


「……面白い」


「何が?」


「もっと試したい」


 父さんが苦笑した。


「ほどほどにしろよ」


「はーい」



---


 夕方。


 俺は最後の実験をすることにした。


 庭の端に、大きな岩がある。


 俺はそれを見つめる。


「これなら試せる」


 まず《冷却》。


 岩の表面から熱を奪う。


 温度を下げる。


 そして――。


「《重力操作》」


 今度は一点だけ。


 岩の中心へ向かって力を集中させる。


 ギシッ。


 岩から音がする。


「……!」


 表面に小さな亀裂が入った。


 さらに冷却。


 さらに重力。


 パキッ。


 亀裂が広がる。


 そして――。


 バキィン!


 岩が真っ二つに割れた。


「……」


 俺は呆然とする。


 父さんも黙っていた。


「今の……」


「うん」


 俺は岩を見る。


 剣でも斬れないような大きさだった。


 それが二つに割れている。


「魔法を組み合わせただけ」


「……そうだな」


 父さんはそう答えた。


 けれど、その顔には驚きが残っている。


 俺は気づいていなかった。


 今の魔法が、六歳の子供が使えるものではないことに。


 そして父さんもまだ知らない。


 俺が使っているのが、ただの無詠唱魔法ではないことを。


 俺は岩の断面を見る。


 ひび割れ方。


 魔力の消費。


 術式の構造。


 頭の中では、すでに次の実験を考えていた。


「もっと効率を上げられる」


 魔法はまだまだ改良できる。


 だったら――。


「次は、風を組み合わせてみよう」


 俺は新しい紙を取り出した。


 そこに新しい項目を書く。


 《魔法複合》


 これが後に、俺の戦い方そのものを変える技術になるとは。


 このときの俺は、まだ知らなかった。


 ただ一つ分かっていることがある。


 強くなる方法は、レベルを上げるだけじゃない。


 自分自身で、強さの形を作ることもできる。


 俺は紙に次々と新しい魔法の案を書き込んでいった。


 そして翌日。


 父さんと再び森へ行くことになる。


 目標は――。


 レベル4。


 そして、いつか必ず。


 レベル10へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ