59話 昇格試験
アーマードボアとの遭遇からしばらく。
俺たちはFランクの依頼を一つずつこなしていた。
薬草採取。
街道の見回り。
小型魔物の討伐。
大きな戦いはない。
けれど、確実に実績は積み重なっていた。
「キラ」
ある日の朝。
ギルドの受付嬢に呼び止められた。
「はい?」
「少しお伝えしたいことがあります」
受付嬢が記録を確認する。
「これまでの依頼達成数と内容を確認しました」
レティシアが身を乗り出す。
「もしかして……」
「はい」
受付嬢が笑う。
「Eランクへの昇格試験を受けられます」
「やった!」
レティシアが両手を上げる。
俺も思わず笑った。
「やっとFランクから上がれるんだ」
「はい。ただし、試験に合格する必要があります」
エリスが尋ねる。
「試験はどんなものですか?」
「簡単な実技試験です。三人で受けてもらいます」
「三人で?」
「はい。パーティーとしての連携も確認します」
俺たちは顔を見合わせる。
「受けよう」
俺が言った。
「もちろん!」
レティシアが頷く。
エリスも静かに笑った。
「はい」
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試験会場は、ギルドが管理している訓練場だった。
広い土の地面。
周囲には木製の柵がある。
試験官がこちらを見る。
「今回の試験は、三人で一体の魔物を討伐してもらいます」
扉が開く。
中から現れたのは――
ホブゴブリン。
「ホブゴブリン……」
レティシアが剣を構える。
「Fランクの依頼で戦ったゴブリンより、かなり強いですね」
エリスも弓を構える。
試験官が告げる。
「制限時間は十分。無理に倒す必要はありません。危険だと判断した場合は撤退しても構いません」
俺は頷く。
「行こう」
---
ホブゴブリンが走ってくる。
「エリス!」
「はい!」
エリスが補助魔法を使う。
「《ウィンドステップ》!」
風が三人を包む。
レティシアが前へ出る。
「私が引きつける!」
ホブゴブリンの棍棒を剣で受け流す。
――ガキン!
「重い……!」
俺は側面へ回る。
「《身体強化》!」
踏み込み、一撃。
――ザンッ!
だが浅い。
「硬い!」
ホブゴブリンがこちらを向く。
その瞬間――
――シュッ!
エリスの矢が飛ぶ。
ホブゴブリンの肩に刺さった。
「今です!」
「ありがとう!」
レティシアが一気に踏み込む。
――ザンッ!
ホブゴブリンの腕に傷が入る。
---
ホブゴブリンが怒り、こちらへ突進する。
俺は距離を取る。
魔力を集める。
炎。
風。
魔力の流れを繋ぐ。
「《フレイムスパイラル》!」
――ゴォォッ!
炎の螺旋がホブゴブリンを包む。
「グギャアッ!」
ホブゴブリンがよろめく。
「効いた!」
レティシアが叫ぶ。
だが、倒れない。
「まだ!」
俺はもう一度魔力を集めようとする。
しかし――
「キラ!」
レティシアの声。
ホブゴブリンが棍棒を振り下ろしていた。
俺は横へ飛ぶ。
――ドゴン!
地面が砕ける。
「危なかった……」
「私が隙を作ります!」
エリスが弓を引く。
矢が飛ぶ。
――シュッ!
ホブゴブリンの目の前へ。
反射的に腕で顔を守る。
「今!」
レティシアが懐へ入る。
――ザンッ!
そして俺も続く。
――ザンッ!
ホブゴブリンが倒れた。
---
試験官が近づいてくる。
「合格です」
「本当ですか?」
「はい」
試験官が頷く。
「三人とも、自分の役割を理解していました。特に連携が良かった」
レティシアが嬉しそうに笑う。
「やった!」
受付で正式な登録を行う。
Fランクの文字が消え――
冒険者ランク:E
俺はその表示を見る。
「Eランク……」
ほんの少しだけ。
前に進んだ。
レティシアが俺の肩を叩く。
「次はDランクだね!」
「気が早いよ」
「でも、いつかは上がるでしょ?」
「もちろん」
エリスも頷く。
「焦らず、一つずつですね」
「うん」
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その日の午後。
Eランクになったことで、掲示板にある依頼の一部が変わっていた。
「今まで見られなかった依頼がある」
レティシアが興味深そうに見る。
その中に、一枚の依頼書があった。
『山道周辺のオーク討伐』
推奨ランクはE。
「オーク……」
俺が依頼書を見る。
ゴブリンより強い魔物。
けれど、今の俺たちなら挑戦できる。
「これにする?」
レティシアが聞く。
「うん」
エリスも頷く。
「新しい経験になりそうです」
依頼書を受付へ持っていく。
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その夜。
俺はステータスを確認した。
【ステータス】
名前:キラ
年齢:12歳
冒険者ランク:E
レベル:24
ホブゴブリンとの戦いで、レベルも一つ上がっていた。
そして新しいランク。
新しい依頼。
新しい魔物。
俺たちの冒険は、少しずつ次の段階へ進み始めていた。
けれど――
森の奥に残された黒い魔力の異変は、まだ消えていない。
それどころか。
俺たちが知らないところで、少しずつ広がり続けていた。
第59話 終




